【インタビュー】フランシス・ダナリー「ありのままの姿を」

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1980年代にヴァージン・レコードから3枚のアルバムをリリースし、プログレッシブ・ロックバンドとして日本でも高い評価と人気を得たイット・バイツは、独自の音楽性と演奏テクニックに正統派プログレファンはもちろんの事、特にバンドの中心メンバーであったフランシス・ダナリー(Vo、G)と、中性的な魅力を持ったジョン・ベック(Key)はそのルックスの良さからも女性ファンにとても支持されていた。

◆フランシス・ダナリー画像

その後、フランシスの脱退からバンドは衰退し、フランシスはソロとなったが、バンドは2006年に新たなメンバーを迎え再結成を果たしていた。近年もソロ活動をしていたフランシスだが、イット・バイツ時代の楽曲を再録したアルバムを2016年にリリースし、その楽曲をプレイする来日公演も開催された。

イット・バイツをプレイするフランシスが観られるのは1989年の来日公演以来のものだ。当時はとにかく華やかでゴージャスな音作りであったが、今回のライブはとてもタイトなものになっていた。歌声の艶感やギター・テクニックは衰えず、円熟味と暖かみが増し、曲間には場内を和ませるMCと、何よりも終始笑顔とステージでの仕草は驚くほどに当時のままであった。

ブロンドの長髪ヘアを想像する方も多いと思われるが、今はすっかり落ち着いた英国紳士なフランシス。ありのままの姿を観せたい…そんな思いをインタビューでは本音で語ってくれた。


──27年振りの来日公演となるわけですが、今のお気持ちを。

フランシス・ダナリー:時差ボケはあるけど、素晴らしい気分だよ。美味しいものも食べられるし、愛に満ち溢れているよ。

──イット・バイツは、プログレとハードロックを融合させた最初のバンドだと思いますが、これは意図的でしたか?

フランシス・ダナリー:まず僕はメロディがとても好きでね、プログレと言うとテクニックに走るバンドが多いよね。特にキング・クリムゾンの『太陽と戦慄』はテクニックがふんだんに詰まったアルバムだ。例えば、ビーチ・ボーイズなんかは凄く素敵なメロディが満載だよね。僕たちはテクニカルな事もやっていたけど、やはりメロディが人の心に残るように、あえてふたつを組み合わせたのがイット・バイツだよ。

──今でこそプログレ・メタルやプログレ・ハードで成功しているバンドもいますが、時代的に早かったと思われますか?

フランシス・ダナリー:その通り、早かったと思う。僕らがその後に出てきたバンドたちの基盤を作ったと言ってもいいと思う。当時のイギリスのシーンは、オルタナティブと呼ばれた音楽が多くて、黒いジーンズでただギターをジャカジャカかき鳴らすカレッジ系のバンドが流行っていて、イット・バイツはイギリスでは売れなかった。テクニックがあって素晴らしいメロディがあっても、全く流行らなかったからマーケティングがとても難しかったんだ。音楽業界というのは、良い音楽を追求するわけではなくて、流行り物ばかり追求している。例えば、ピーター・ガブリエルはジェネシスの頃は普通にやっていたけど、花を被ったりキツネを被って赤いドレスを着たりするようになったら一気に売れた。アラン・ホールズワースはミュージシャンとして最高に素晴らしいけれど、格好が地味だから売れないんだ。彼も赤いドレスを着たら売れたはずだよ(笑)。

──当時デビューしたバンドで、意識したバンドはありましたか?


フランシス・ダナリー:ライバル視はなかったけど、好きなバンドは同年代のゴー・ウエストだね。わりとポップバンドと思われがちだったけど、実はそれ以上に素晴らしいバンドだ。ジャパンやブルー・ナイルとかも好きだよ、あとは1970年代のブラフォードやアラン・ホールズワース、ジョン・マクラフリン、ジェネシス、イエス、フォーカスとか。一聴するとテクニックが重視されがちだけど、アコースティックギターで弾くとメロディの美しさがとてもよくわかる。ポール・マッカートニーがプログレバンドだったら本当にメロディの素晴らしさが引き立つと思うけど、当時のみせ方にはわかりにくいところがあったよね。

──イット・バイツはジェネシスやイエスなどと比較されがちでしたが、どう感じていましたか?

フランシス・ダナリー:イット・バイツのルーツとして、ジェネシスやイエスに影響を受けた事は間違いない。でもイット・バイツはそこから抜け出て独自のサウンドを確立した。メロディや構成でイット・バイツの音楽だとわかるものだと思う。

──トップチャートにはご興味はありましたか?

フランシス・ダナリー:ないね(笑)。最初は売る戦略として3分間の短い曲を用意すべきだと思って実際に作ったんだ。でも契約をした後でその曲は破棄した。その代わりに19分とかの長めの曲を作ったけど、当時の僕らは本当に何も知らなくて、長めの曲でも本当に良ければ向こうが自分たちのフォーマットに合わせてくれると信じていたんだ。長めの曲でもラジオで流してもらえると信じていたけど、実際にそれはなくて、編集されてカットされたのが現実。イット・バイツは純粋に音楽だけを追求していたバンドで、成功については全く考えていなかった。誰も教えてくれなかったし、もしやり方がわかっていたら成功できたと思う。例えば「アルバムの中で3分半の曲を4曲でいいから作れ、あとは好きにしていいよ」と言われたらできたと思うし…。でもそれがわからなかったし、レコード会社のお金の仕組みもわからなかったからね。

──楽曲の中でプログレ要素はキーボードのジョン・ベック、ハードロックの要素はあなたが大きく担っているように感じていましたが、実際はいかがでしたか?


フランシス・ダナリー:いや、僕はライオネル・リッチーが好きだし(笑)、メロディとプログレは自分だと思うけど、あまり考えた事ないなぁ。でも良い質問だ。総合的にみんなで作ったものがああなったのだけど、ハード・ロックは好きじゃないから自分じゃないよ(笑)。ハード・ロックは男っぽくて、プログレとか複雑な音楽は女性っぽいと思うんだ。ハード・ロックやメタルは10代の子がアドレナリンを噴き出すようなもの、イット・バイツの音楽は女性ぽくて色々な要素があって、僕はそっちの方が好きだから。

──再結成イット・バイツに参加されなかったのは何故ですか?

フランシス・ダナリー:もともとのオリジナル・イット・バイツは、お酒、タバコ、ドラッグもやっていた。でも今の僕はどれもやらないし、効率よく仕事したいんだ、生活スタイルが合わなくなった。昔、一緒にやっていた頃から誰とは言わないけど、必ず毎回遅刻して来る奴がいてね。それも半端なく2時間とかね。それがずっと続くと僕には辛くてね。実は再結成の最初は少し一緒にやってみたんだよ、でも上手く行かなかった。それは結局、昔の習慣が戻ってしまって僕には無理だったんだ。

──今、イット・バイツの作品を再録したのは何故ですか?やり残した事があった?


フランシス・ダナリー:過去を完成させる為だよ。やり残した事と言えるよね。人というのは、これは未完だなと思うものがあるのは、重いバッグのような重荷をずっと抱えているようなものなんだ。その過去に縛られてしまう。過去から解放される為に、重荷を取り除かなければいけないと思った。それが今回の再録だった。アルバムでああしたかった、こうしたかった事を直して、未完だったものを完成させたんだ。実はアルバム『Vampires』は当初リリースする予定はなかったんだよ。過去と決別する自分の為に録ったものだったから。でも、作ってみたらとても出来が良かったから、せっかくだからリリースする事にした。1stソロ・アルバム『Welcome To The Wild Country』のリ・レコーディング作品『Return To The Wild Country』も同じような理由でやったけど、リリースするつもりはなくて、実際に今リリースされているのは日本だけなんだ。アメリカではリリースされていない。もう一枚の『Frankenstein Monster』、これはリリースする目的で作ったアルバムだ。

──今後の活動は、どのような予定ですか?


フランシス・ダナリー:まず、音楽以外の事から言うと、自己啓発セミナーを行うよ。もともと心理学や哲学を学んでいるからそっち方面のスピーチをね。音楽の方は、プロのミュージシャンとして40年やってきて、音楽業界の様子もだいぶ様変わりしたよね。19歳からやってきて、今の音楽業界の犠牲者としてもうこんな歳だし、アイドルみたいな事はやりたくないよね。今の自分が好きなんだ。髪ももうないけど(笑)、ありのままの自分で勝負したい。そして来年は「Quire」を入れたアルバムを作りたいな。真にプログレッシブで進歩的である為には、自分が今までやった事のない新しい事をやりたいと思っているよ。あとプログレのミュージシャンを集めたスーパーグループを組もうかなという案もある。

──それは楽しみですね。

フランシス・ダナリー:これまでずっと長い間サポートしてくれて本当にありがとう、本当に嬉しいよ。みんなは本当に僕の多くの部分を締めているよ、ありがとう。


<Francis Dunnery Japan Tour 2016 2016.11.01 @ Shibuya O-West

1.I Got You Eating Out Of My Hand
2.Yellow Christian
3.Underneath Your Pillow
4.Feels Like Summertime
5.Calling All The Heroes
6.You'll Never Go To Heaven
7.Old Man And The Angel
8.Still Too Young To Remember
9.Screaming On The Beaches
En.Once Around The World

取材・文:Sweeet Rock / Aki
写真:石倉和夫
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