【ライブレポート】スコーピオンズ、蠍団のもたらす毒は常に満足以上
スコーピオンズが9年ぶりのジャパン・ツアーで嵐を巻き起こしている。一度は解散を表明したこのバンドは、最終ツアーとして展開された『STING IN THE TAIL(蠍団とどめの一撃)』(2010年)に伴うワールド・ツアーでは日本に上陸せず、古くから彼らを支持してきた熱心なファンを落胆させたものだ。が、ご存知の通りバンドはその後、解散を撤回。まさに永久現役宣言ともとれるような『RETURN TO FOREVER(祝杯の蠍団)』(2015年)と題された最新オリジナル作品を発表したことは、いまだ読者の記憶にも新しいはずだ。
◆スコーピオンズ画像
ちなみに前回の来日公演が実現したのは2007年10月末のこと。前々作にあたる『HUMANITY:HOUR 1(蠍団の警鐘~ヒューマニティー:アワーⅠ)』を引っさげ、今はもう存在していない東京・SHIBUYA-AXでのたった1回のショウを行なっている。同公演の前日に取材に応じてくれたこのバンドのフロントマン、クラウス・マイネは当時こんなふうに語っていた。
「1970年代や1980年代のスコーピオンズを原体験していない世代に観に来てもらえるのは、我々にとってはボーナスみたいなものだと思う。ただ、このバンドは相変わらずロックしているよ。古くからのファンのなかには、すっかりロックを忘れてしまった人たちもいるかもしれないが、明日のショウはきっと楽しんでもらえると思う。もちろん過去にスコーピオンズを観たことがないオーディエンスも大歓迎さ。ニュー・アルバムからももちろん何曲か披露するし。誰もが聴きたいはずのクラシック・チューンの数々も演奏するつもりでいる。もう何年もプレイしてこなかったような曲も、日本の熱心なファンのためにいくつか用意しているよ。そして実際にライヴを観てもらえれば、我々が30年前のバンドではなく“今”を生きているバンドなんだということを理解してもらえるはずだと思う」
この発言から丸9年もの月日が経過しているわけだが、もしも今、クラウスと話をする機会が得られたならば、もしかすると最後の部分だけは「40年前のバンドではなく~」と変わっているかもしれないが、ほぼ同じコメントを耳にすることになるのではないだろうか。去る10月6日、ZEPP DIVERCITY TOKYOでの東京公演を観て、僕はそう感じた。
前回の来日時にはまだ開業していなかったこの会場をぎっしりと埋め尽くしたオーディエンスを前に、彼らはおよそ100分間に及ぶエネルギー満載でなおかつ情緒に富んだライヴ・パフォーマンスを披露してみせた。場内が暗転し、アルバムのアートワークが描かれた巨大な幕が落ちると、全貌を現したのは、背景すべてが巨大なLEDスクリーンと言ってもいいほどの近代的なステージ・セット。鮮明かつ立体的な映像とシンクロしながら最初に炸裂したのは、最新アルバムからの「Going out with a Bang」だった。そこから先の具体的な演奏曲目に関する記述は、これから彼らのライヴを先入観なく楽しみたい人たちのためにも避けておくことにする。が、ショウを観終えた今だからこそ客観的に「新旧の楽曲をバランス良く取り混ぜた、緩急に飛んだ演奏内容」などと言うこともできるのだが、実際に観ている最中は、いわゆるアコースティック・パートなども含め、一瞬たりとも興奮が止まることがなかった。
止まることがなかったのは、ステージ上のメンバー達についても同じことだ。確かに往年のような組体操を思わせるパフォーマンスはこの夜には披露されなかったし、無闇にステージ上を駆け回るというわけではない。が、華麗にターンを決めながら鋭利にリフを刻むルドルフ・シェンカーの姿、伸びやかさを失わないクラウス・マイネの歌声に触れると、彼らがすでに60代後半であるという事実が信じられなくなってくる。そうした躍動感溢れるパフォーマンスとともに、「これを聴かずには帰れない!」というようなマスト・チューンの数々や、「まさかこの曲が聴けるとは!」と声をあげてしまいたくなるような楽曲までもが次々と登場する。これはまさに、彼らの歴史を知り尽くしている人たちから初めて彼らと向き合う人たちまで、すべての世代のファンのニーズに応え得るショウだと言っていいだろう。
加えて特筆しておきたいのは、新加入したドラマーのミッキー・ディーがバンドの新しいエンジンとして非常に大きな貢献を果たしているという事実と、クラウスの「友人のレミーに対するトリビュートの意を込めて」という言葉に続けて、ミッキーが長きにわたり籍を置いてきたモーターヘッドの代表曲のひとつ「Overkill」のカヴァーが披露されたこと。レミー(2015年末に他界)の姿を背景に映し出しながら、スコーピオンズがこの曲を演奏する日が訪れることになるとは思ってもみなかったが、それは彼ら自身にとっても同じことだろう。
こうした驚きも伴っていたこの夜のライヴだが、10月8日の夜、彼らがトリを務めるLOUD PARKのステージには、さらなるサプライズが用意されているとの噂も聞こえてきている。何が起こることになるのかはひとまず読者の想像力に委ねておくとして、とにかく筆者としては「この機会を絶対に逃さないように!」と強調しておきたい。蠍団のもたらす毒は、常に満足以上のものをもたらしてくれる。それは昔も今も同じことなのである。
文:増田勇一
撮影:YOSHIKA HORITA
◆スコーピオンズ公演情報
◆<LOUD PARK 16>
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