タワレコはなぜCDを売らずゴミ袋を配るのか?【検証】フジロックが20年愛され続ける理由 ~TOWER RECORDS編~
フジロックが開催されて20年。様々な人々や企業がフジロックに関わっているが、TOWER RECORDSは開催時から毎年参加している数少ないサポート企業である。しかしながらCD販売店であるにもかかわらず、10万人もの音楽好きが集結するという絶好のロケーションにありながら、TOWER RECORDSは会場で何も売らずにゴミ袋を作って配布し続けている。これはいったいどういうことなのか?
話を聞くと、「音楽を通して社会貢献する」という共通の使命感で両者はつながりを持っていることがわかった。そして今年TOWER RECORDSは、素晴らしい歴史を重ねてきた誇らしきフジロック20周年を祝い称えるかのように、<NO FUJI ROCK, NO LIFE.>という新たなメッセージを掲げる。ここに至るまでの20年の変遷について、嵐の初年度からフジロックを担当し続けているTOWER RECORDSの坂本幸隆氏に話を訊いた。
◆ ◆ ◆
■SNSが使われるようになってから
■バーチャルなフジロックを感じることがある
──坂本さんはフジロック初回から参加されているそうですね。
TOWER RECORDS 坂本幸隆氏:「日本でもロック・フェスが始まるよ」と、当時の社長(キース・カフーン)からとにかく行くように言われました。とりあえずLPバックを持って行ってこい、と。台風の雨風の中、とにかく大量に配りました。
──あの黄色いLPバックをレインハット風にかぶったオーディエンスが続出したという逸話がありますよね。
坂本:ホフディランが2年目の豊洲でのステージで1年目のオマージュとしてそれをやってましたね(笑)。そういう用途で持って行ったわけではなかったんですけど、役に立ったのならよかったです。でも、雨具を用意していなかったり軽装の方が多く、フェスにどう参加していいのか分かっていないように映ったのも事実でした。
──でも、そこでなぜタワレコがゴミ袋担当に?
坂本:2年目を迎えたとき、それまで日本になかったフェス文化を今後も残していくために、最初の年に関わった人たちでやれることをやろうというミーティングがあったんです。会場内外にゴミがたくさん出たので「ゴミは散らかさないようにしよう」という心得やマナーを広める啓蒙活動を始めようと、NGOと一緒にゴミ袋を作って配り始めました。1~2年目はLPバッグ、苗場に移った3年目からゴミ袋を作って配布しています。
──ゲートをくぐってすぐにそのゴミ袋を無料でもらえるわけですが、タワレコが作っていることを知らない人も多いと思うんです。
坂本:最初の3年ぐらいは真面目なメッセージを印刷していたんです。「自分のことは自分で」とか。でも入口でいきなりそんな難しいことは言われたくないですし、ゴミの分別回収も浸透してきたところで、キャッチーなデザインにちょっとメッセージがあるテイストに変えました。<NO SENSE, NO PIECE.>というコピーを立花ハジメさんが作ってくださって、横尾忠則さんのデザインを使用させていただいたりとか。
──巨匠のデザインだとは知らず、座ったり寝転んだりしてしまった(笑)。それにしても、何故現地でCDを売らないんですか?
坂本:20年間、何も売ってないですね。協賛社としてブースで何かを売っているわけでもないですし、お客なわけでもなく、かといって運営側でもない。お客さんと主催者側の中間という特殊な関わり方かもしれません。
──どういうことですか?
坂本:タワーレコードは小売店として、アーティストとお客様の間で両方をつなぐ役割です。それは、フジロックでお客さんと主催者との間で、NGO(iPledge)と環境活動等のナビゲーターを協働でやっていることにも通ずるところです。両者の間でタワーレコードなりの“音楽とフェス”とか、“音楽と社会”のあり方を提案できる立場にあります。
──なるほど。そのポジションを活かして環境問題にも取り組んでいるわけですね。
坂本:2005年には環境をテーマにした<ap bank fes>が生まれ、2006年にアル・ゴアが地球温暖化をテーマにした映画『不都合な真実(An Inconvenient Truth)』を制作した時代に、フジロックもエコに対していろいろ取り組んでいました。我々も最初は炭カルのゴミ袋だったのを、翌年からは前年に集めたペットボトルでゴミ袋を作って循環させることを始めたんです。それがある程度浸透した後はエネルギー問題へとシフトし、植物油の廃油を集めて発電する「NEW POWER GEAR」というカーボンオフセット・キャンペーンをサポートし始めました。
──主催者のみならず、協賛各社にもエコやエネルギー問題について共通認識はあったのでしょうか?
坂本:社会問題としてと言うよりは、環境の保全や負荷の軽減という意識はあったと思います。最初の5年でマナーを徹底していこう、その後の10年はエコ/カーボンオフセットに取り組み、震災後はアヴァロンでアトミック・カフェが開催されて、その中でエネルギーの課題にも触れています。
──なるほど。
坂本:今では当然のように毎年参加していますが、1年目、2年目の経験がなければ、タワーレコードがこれほどまで社会貢献に深く関わることはなかったと思います。音楽で世の中を変えるみたいな大げさなことではなく、ムードを作っていくことはできますから、社会貢献と向き合えるようなムード作りを日本を代表するフェスと共に創り上げる活動ができていることは、企業としても大きな意味があります。NGOの方々ともずっと一緒に活動できているのも、フジロックがNGOの活動にも寛容な事も一因だと思います。
──この20年、フジロックにはどんな変化がありましたか?
坂本:特に近年は、情報の伝わり方です。共有されるものが文字中心だった時代から写真へ移り変わり、写真が4kでより綺麗になったり、360度見られる動画になったり。フジロックが伝えたいことの伝わり方とか、お客さん同士の情報共有の仕方がここ10年くらいで劇的に変わりましたよね。
──現地の様子がどこでもわかる時代ですからね。
坂本:だから、バーチャルなフジロックを感じるときがすごくあるんです。友達同士だけの共有空間だったのが、主催者/関わる企業/お客さんがそれぞれSNSを使うことで、フジロックの巨大バーチャル空間ができあがっている。昔はフンドシ連中とか、変な格好の人も多くいましたが、今はみんな小綺麗じゃないですか。それも情報の伝わり方によるところなのかなと。「雨降っているらしいぞ」「今年は寒いらしい」とかもすぐわかるし。どんな格好が効率的で便利かが共有されている。ファッションで言う「ノームコア」のような。個人的にはもう少し変わった人がいたほうが楽しいですが。
──情報も音楽そのものも手軽に入手可能な時代ですから。
坂本:お店はパッケージを売ることが目的ですが、例えば渋谷店では年間1000本くらいイベントを開催しています。それは行かないと体験できないことを現場に作ることが必要だからです。フジロックにもそういうところがいっぱいあると思うんですよ。自然相手では予定調和にはいかないし、行ってぐちょぐちょになってみないと分からない。食べ物やお酒の匂いとか、そういう感覚的なものはバーチャルの世界では伝えきれないことが多い。そもそもフジロックはとても広いので、全部は攻略できませんし。
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