【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.43「夏フェスへ向かう少女たち」
学生時代、高田馬場にある「タンポポ」という喫茶店が好きで毎日のように入り浸っていました。狭くて古いながらも手入れの行き届いた店内には、木目調の磨き上げられたテーブルや椅子が置かれていた昔ながらの古き良き喫茶店でした。
そこは当時通っていた専門学校の学生たちも多く利用していたので、その店のシックな装いには不釣り合いなピンクや緑色の髪をした子や、モヒカン、長髪男子といった若者たちがワイワイしている不思議空間でもありました。
田舎から出てきたばかりの10代女子にとっては、お店のお母さんがいつも優しい笑顔で迎え入れてくれることに親元を初めて離れて感じていた寂しさを埋めてもらえる暖かさを感じられましたし、憧れていた東京で、望んだ学校に通えて、放課後には素敵なカップでいただく珈琲や紅茶を飲む自分をなんだかとっても誇らしく思える、とても居心地のいい空間でした。
社会人になってからは、仕事のできる場として喫茶店を利用することの方が多くなっていき、出産後のこの1年は特にその色が濃くなりました。世間はゴールデンウィーク中ですが、我が家では通常の休みと同様、連日母に息子の世話をお願いし、朝から地元のコメダ通いをして仕事をしています。
私がコメダ珈琲と出会ったのは、全国へたびたび出張していた頃の名古屋出張でした。あんこをトーストに乗せるという衝撃の名古屋スタイル・ブレックファストはさっぱり理解できませんでしたが、こんな店があったら毎日通うのになあと思ってから10年くらい経過した昨今。自宅近所にも、故郷にもコメダがあるので美味しい珈琲を飲みながら快適に仕事が出来る場として重宝しています。
一昨日も地元コメダでカタカタと原稿まとめに追われていたときのこと。隣のテーブルには地元にある高校の制服を着た女子二人連れが着席しました。うるさくなったらイヤだなぁという私の邪念とは裏腹に、彼女たちはとても静かに会話を楽しんでいました。
しばらくすると「スタンドだと」や「メッセはさぁ」「帰ってこられるかなあ?」などの聞き馴染みのある言葉が聞こえてきたので、少し手を休めて珈琲を飲みながら彼女たちの話に耳を傾けてみると、話題は「今年のサマソニをどう攻めるか」でした。
出演者リストらしきものが掲載された雑誌か何かを見ながら、ああでもない、こうでもないと、妄想タイムテーブルやステージ割りを眉間に皺を寄せて大層真剣に話をしているかと思えば突然ケタケタ笑い始めたりするのを横目に見て、20年前の自分を見たような気がしました。
もしかしたら、自分もあの頃が一番楽しかったかもしれないなぁと、若いお嬢さんたちの眩しさを微笑ましくも、ちょっと羨ましくも感じつつ、思いがけずに自分のことまで振り返ってしまったのでした。
その後、彼女たちはサマソニ談義を切り上げてショッピングに向かうらしく、風のように涼やかに去りゆく後ろ姿を見ながら、「今年のサマソニはやっぱりレディオヘッドでしょ。あの伝説の、2003年ぶりのサマソニ出演だし、そこは外せないよね!」と、オネーサンは心の中で思っていました。
二人の攻略が実を結んで楽しい夏になることを願っています。
◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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