シアターブルック「難しい歌である必要はない。みんなで唄えなきゃ歌の意味が無いんじゃないか」
2011年の東日本大震災以降、「太陽光発電“賛成”運動」を提唱し続け、太陽光発電だけで電力を賄ったロック・フェスティバル<THE SOLAR BUDOKAN>を日本武道館で開催。その後は岐阜県中津川にて地元の理解の元、野外フェスに形態を変え<中津川THE SOLAR BUDOKAN>のホスト・バンドとなっているシアターブルック。そして、今度は念願のソーラーレコーディングを行ったアルバム『LOVE CHANGE THE WORLD』を完成させた。奇しくも2015年はシアターブルックのデビュー20周年のアニバーサリー。様々な想いがこめられたこの作品について佐藤タイジ(Vo&G)が語った。
◆シアターブルック~画像~
■ずっとこういうメッセージを発信している。基本、変わっていない
■ロックで育ってきちゃったというのが、こういう作品になる最大の要因
――<THE SOLAR BUDOKAN>にしろソーラーレコーディングにしろ、「太陽光発電“賛成”運動」を提唱し始めてからここまでずっと有言実行ですね。特にソーラーレコーディングは、ライヴをやって音質に対しての信頼感も生まれたからこそ実現可能だったんじゃないですか?
佐藤タイジ(以下、佐藤):もちろん。太陽光電池とか、太陽光パネル・チームとのつながりもギュッと固まって、ソーラー・レコーディングはクリアしなければいけないハードルだろうというのは、俺らにもエンジニアチームにもあったから、「やろう!」ってなるよね。ちょっと無理してでもやってみようって。
――実際、やってみてどうでしたか?
佐藤:電源がドンッて落ちたりするような場面もあったから、「今録ったの消えてる?」「セーフです!」っていう。そういう時は焦った。雨とかも降るし。そうすると昼間の発電量が少ないから、夜になると「もう今日の電気は終わり。レコーディング終了!」ってなるんだよね。「ああ~、終わりか。でも電池ないからしょうがねぇな」みたいな感じになるわけ。
――ある意味ちょっと、畑仕事をしているような感覚ですね。
佐藤:うん。ニュアンスは近くなる。農業ってこんな感じなのかなってちょっと思った。農業にとって、ソーラーシステムって第一だから。日光があっての光合成。
――ということは、『LOVE CHANGE THE WORLD』は自然の営みによって生まれた作品。
佐藤:みたいな感じになったよね。
――11曲もの曲数があるので、時間もかかったのでは?
佐藤:みんな腕がいいから録るのが早いのよ。昔みたいにバカみたいに時間をかけるっていうことはなくなってる。面白かったのが、このレコーディングをしている真っ最中に、1997年にリリースした『TROPOPAUSE』を完全再現するっていう企画モノのライヴを東京と大阪でやったんだ。『TROPOPAUSE』って評価が高かった作品でもあるし、自分自身でもすごく気に入ってるんだよね。それをライヴで再現するにあたって、完コピしなきゃいけないから改めて聴き直すと、すごい緻密に作られていて。打ち込みのトラックと生音の配合っぷりとか、いろんな音の構築っぷりがスゲェ緻密で、この作品の評価の高さにいまさら納得。でも、新しい作品がこれより良くないわけにはいかない。これを超える緻密さを提示したいってなるわけ。そういう意味ですごく良かった。この時の作品はスゴイってメンバーみんなが思うわけだから、仕上げてくるみんなのプレイがすごい良かった。おのずと『TROPOPAUSE』のクオリティになるんだよね。
――18年も前の過去の作品を越えようって作った作品が20周年の作品でもあるというのは面白い話ですね。
佐藤:うん。今年がデビュー20周年で、2016年は結成30周年だから。
――しかも、『LOVE CHANGE THE WORLD』は、今、世間に届けたいメッセージがガツンと詰まっている曲ばかりで、2015年7月29日リリースということがすごくタイムリー。例えば「もう一度世界を変えるのさ」では、“これまでとは違う何かが起きている今、目をそらさないで世界を変えよう”とか。とはいえ、シアターブルックというバンドは、ずっとこういうメッセージを発信し続けていましたが……。
佐藤:そう。ずっとこういうメッセージを発信している。基本、変わっていない。変われないんだよね。J-POPのマナーというのを知らないから(笑)。ロックで育ってきちゃったというのが、こういう作品になる最大の要因。政治的な発言をしないというマナーは俺の中にはないから。でもね、90年代は「聴いたら気持ちいいけど、こんな歌は唄えないだろう!」っていうところがあった。そんなに簡単に俺の歌を歌おうとするな……みたいな。「ありったけの愛」なんてサビはみんなで歌えるけど、Aメロとかすごい難しいもんね(笑)。一緒には歌えない。バックの演奏、背景のこしらえ方とかは、より緻密になっていきたいけど、歌はみんなで唄えなきゃダメだなって思うようになったんだよね。難しい歌である必要はない。みんなで唄えなきゃ歌の意味が無いんじゃないかって、3.11(東日本大震災)以降、余計にそう思っているところがある。
――なるほど。
佐藤:リスナーとしての俺はインストも好きだけど、3.11以降は、どっちかと言うと歌が聴きたいって思っていて。だから歌モノのCDばかり買っちゃうんだよね。インストゥルメンタルでもすごい雄弁なものってあるけど、人間の声を聞いていたいと思う。
――「もう一度世界を変えるのさ」はまさにそんな1曲ですよね。
佐藤:そう。CDは持ってないけど、実際にみんなで歌える……「もう一度世界を変えるのさ」はそういう曲にしたい。一緒に歌うというのが大事。この曲ができたときに、みんなで歌っている音像が聞こえてて。この曲を大人数でやるために、こういうアルバムの企画をしたんですよ。この曲を抗う人の共通テーマにしたいから。
――抗いたいですけど、すべがないから、こういう曲や作品があると少しでも何かが出来るんじゃないかと思えますね。
佐藤::でしょ? だって、3.11があったあと、戦争が出来る国になったなんて最悪ですよ。この選択肢を後世に残してはいけない。
――その通りですね。この曲に限らず収録曲に歌える曲がすごく多いのは、そういうことだったんですね。
佐藤:実はそうなのよ。裏コンセプトとしては“みんなで歌える”というのを持っていた。あとは俺らがやっていることの辻褄合わせじゃないけど、ソーラーパワー賛成というコンセプトに賛同して<中津川THE SOLAR BUDOKAN>に集まってくれたヤツらにも参加して欲しいと思って、散りばめたらこうなった。このミュージシャンたちの集まりっぷりは素晴らしいよね。
――すごいですよ。Charさんや仲井戸“CHABO”麗市さんのようなタイジさんの先輩ミュージシャンはじめ、斉藤和義さん、TOSHI-LOWさん、細美武士さんなどなど、ホントに豪華ですよね。
佐藤:いわゆるビジネス先行型ではありえない形なんだよね。資本があって、金になるからっていうんじゃない。気持ち。俺らには何かできることがある、「やろう!」っていう希望だけで集まってくれていて。俺らには<THE SOLAR BUDOKAN>っていうアウトプットもあって、みんなが気持ちよくやってくれている。
――まさにミュージシャンシップですね。v
佐藤:うん。時間がないから、カバー曲をやろうってことで、だったらCHABOさんと(斉藤)和義とジョン・レノンを歌いたいと思って『(Just Like)Starting Over』を入れたんだけど、この曲は本当は和訳したかった。日本語にしたらCHABOさんも一緒に唄えたはずなんだけど、許諾が間に合わないということで英語で歌うことになって。そうすると本編を歌うのは俺と和義しかいないから、英語詞の合間に日本語を散りばめたらどうかという案もあったんだけど、そんな合間はなく。それでCHABOさんには朗読してもらおうということで「The Message」を「(Just Like)Starting Over」の前に入れたんですよ。これ、素晴らしくない?
――すごく良かったです。鳥肌が立ちました。
佐藤:ギュッと掴まれるでしょ? アルバムの頭に入れたらどうかというマネジャーの意見もあったんだけど、途中で入ってきても場面が変わって素晴らしいじゃない?
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