【インタビュー】CQ、轟音に刻む「近未来を舞台にした群像劇」
トリプル・ギターを擁するシューゲイザー・バンドとして、コアな音楽ファンの間で話題となっていた東京酒吐座。その中核メンバーと、元honeydip/tronの澁谷潤を中心に結成されたのがCQである。
◆CQ画像
2014年にリリースされたライヴ会場限定販売のアルバム『what a Wonderful World』は、1曲ずつ人物名がつけられ、それぞれを主人公にアルバム全体で群像劇を構成するという非常に画期的かつユニークな内容だった。しかしそれはあくまで序章であり、このたびリリースされるファースト ・フル・アルバム『what a Wonderful World's End』によって、その全貌が明らかになるという。
全編アナログ・レコーディングを敢行し、徹底的にこだわり抜いたサウンドは圧巻。迫り来るような音の壁は、唯一無二の存在感を放っている。アートワークには、BORISなどを手がけるxhxix(非)が起用され、近未来の終末を描くアルバムの世界観を見事に表した。
有無を言わさぬコンセプト・アルバムを作り上げたCQ。彼らの結成までの経緯や影響を受けた音楽、そして、アルバム制作におけるエプソードについて、ササブチヒロシ(Dr)、渡辺清美(G)、澁谷潤(Vo)の3人にうかがった。
──CQは、東京酒吐座のササブチヒロシ、渡辺清美、菅原祥隆が中心となって結成されたバンドですが、そもそも東京酒吐座は何故、解散することになったのですか?
ササブチ:もう、色々あり過ぎてどこから話していいものやら、っていう感じなんですけど(笑)。まあ、一言で言えば「歯車が噛み合わなくなってきた」ということですかね。このままやっていっても仕方ないっていうか。それで終わらせました。そもそも、「シューゲイザー」っていうバンド名を付けてしまった時点で、自分たちで自分たちの首を絞めてしまった気がしますね。
──そこにとらわれて、身動きとれなくなってしまったと。
渡辺:東京酒吐座っていうバンド自体、企画モノっていうか遊び半分で始まったようなものなので、まさかこんなになるとは思ってなかったんですよ。
ササブチ:うん、音源出してみたら思ったよりも(枚数が)出てしまって。よそからも声がかかるようになってしまったから、それでやっていたような部分もあったんですよね。解散してしばらくは、全く何もやる気になれませんでした。
──もう一度、一緒にやろうと思ったのは?
ササブチ:しばらくすると、次にやりたいことが次第に明確になってきて、「この人たちとだったらそれをカタチにできるだろう」っていう部分があったからですね。
──次にやりたいことというのは?
ササブチ:「一旦、シューゲイザーからは離れよう」と(笑)。ただそれだけしかなかったんですけど、僕らが集まると結果的にこういうサウンドになっちゃうんだなって思いましたね。でも、バンド名にシューゲイザーを掲げていた頃は本当に苦しくて。それに比べると、今の方が自由に音を出せています。
──元honeydip/tronの澁谷潤がヴォーカルで加入した経緯は?
ササブチ:東京酒吐座は一時ボーカル不在だったんですけど、レコーディングの時にゲストで参加してもらったことがあるんです。そのあとライヴも手伝ってもらって、すごくいい感じだったんですね。それで、新たにバンドを始めるにあたってヴォーカルを誰にするか考えた時、満場一致で「あの人しかいないだろう」と。
澁谷:話をもらったときは、単純に「面白そうだな」と思いましたね。UK主体で、エコー&ザ・バニーメンやザ・キュアーが好きでっていうところでも話が合ったし。それで、当時やっていたdario(現在は活動休止)のメンバーに了承を取って、それで加入することにしました。
──それぞれ、どんな音楽に影響を受けてきたのですか?
澁谷:僕は1980年代のニューロマンティックですね。デュラン・デュランとかカルチャー・クラブとかヴィサージとか。それが小学校の頃で、とにかく見た目が派手な人が好きでした。そういう意味でLAメタルなんかも聴いていました。今でも色んなジャンルの音楽を聴いていますが、音楽をやる上で影響を受けているのはやっぱりUKのギターロックです。
渡辺:一番影響を受けたのはBOΦWYですね。そこからルーツを辿っていくと、必然的に1980年代の洋楽になっていくので、その辺を後追いで聴いていました。同時に、YMOのようなコンピューターミュージックにも夢中になって。ただ、80'sサウンドを自分でやろうとは思ってなかったから、ここにきて原点回帰をしている感じです。その辺のルーツを踏まえた上でのシューゲイザーというか。
ササブチ:ナベ(渡辺)さんとは世代が近いのもあって、やっぱり僕も最初はBOΦWYなんですよ。あとBUCK-TICKとか。そこからさかのぼっていって、僕の場合はザ・ビートルズとザ・ローリング・ストーンズまでいきました。キャラ的には全然違うバンドなんですけど、「耳に優しいな」と思ったのはザ・ビートルズだったんですよ(笑)。あとは、ひたすらドラマーになりたいと思っていました。僕は4人姉弟の末っ子長男なんですけど、姉がブラスバンドをやっていて。親に連れられて演奏会を観に行ったら、とにかくドラムを叩いている姿がカッコよく見えたんですよね(笑)。
──自分たちのことをシューゲイザー・バンドだと思っていますか?
ササブチ:あんまりそういう意識はないんですけど、音を出すと自然とこうなっちゃうんですよね。なので、ある程度腹を括るようにしましたね(笑)。
澁谷:僕なんかはシューゲイザーをリアルタイムで聴いていたし、当時はものすごく斬新だなと思ってました。それをリヴァイバルするつもりは全くないんですけど、やっぱり轟音の中に包まれているのは気持ちいいし、そこで歌うことが病みつきになってしまったんですよね。
渡辺:シューゲイザーはもちろん好きですけど、自分でやることになるとは思っていませんでした。東京酒吐座をやるようになって、ギターのサウンドメイキングを色々研究していくうちにハマっていきましたね(笑)。音の中に包まれるというか、包まれながら、さらにまた轟音を出していくのが、やっていて本当に気持ちいいんです。でも、シブジュン(澁谷)さんが言ったように、シューゲイザーをそのままやるつもりは全くなくて、CQでは他にももっと色んな要素を入れていきたいなと思ってますね。
──色んな要素というのは例えば?
ササブチ:わかりやすいところでいえば、4つ打ちのリズムにしてみたり。
澁谷:ヴォーカルも、「ファー」ってオケに馴染むような歌い方ではなく、ちゃんと張って歌ってみたり。日本語の歌詞をしっかり聴かせるアプローチは、東京酒吐座のときとは明確に違いますね。
──今回リリースされるファースト・アルバム『what a Wonderful World's End』は、全編アナログ・レコーディングにこだわったのだとか。
ササブチ:そうなんです。今だったら家でコンピューターで作ったデモをメンバーに投げて、ファイルのやり取りで完成させるというのが一般的なんですけど、僕らは全員でスタジオに入って、その場で鳴らした音を発展させていくというやり方にしたので、ものすごく時間がかかりました。でも、それがバンドの本来あるべき姿なんじゃないかなと、前から思っていたんですよね。
──かなり短期間でレコーディングをおこなったんですよね?
ササブチ:はい。バンドを結成して間もない頃にツアーの誘いがあって。「やるんだったら音源を携えた方がいいんじゃないか」という話になり、急いで曲を仕上げて合宿に入りました。1日でレコーディングを終わらせなきゃならなくて、しかもアナログだから全て一発録り。
澁谷:その時点では歌詞もまだ出来ていなかった…地獄ですよ(笑)。
ササブチ:また自分たちで自分たちの首を絞める形になりました(笑)。
──リリースの形も変則的ですね。
ササブチ:ええ。このバンドでは、どうしてもアナログ盤を出したくて、となるとツアーには間に合わないので、アルバムから何曲か抜いた“ダイジェスト版”という形で先行リリースすることにしたんです。それが会場限定販売/300枚限定の『what a Wonderful World』(シリアルナンバー入り)。各曲には全てプロットが付いていて、アルバム1枚で一つの物語になっているんですけど、『what a Wonderful World』を聞いただけでは全貌がわからない。点と点が、どうしても線にならない箇所があるんですね。それが、今回リリースされる『what a Wonderful World's End』によって、全て繋がるわけなんです。
──「近未来を舞台にした群像劇」というアイデアはどこから生まれたのですか?
ササブチ:僕とシブジュンさんで、合宿の帰りの車の中で話をしているときに出てきました。
澁谷:「曲名を人の名前にしたらどう?」っていうアイデアがまず出てきて。「その人物を主人公にした物語ができるよね?」っていう話になり、「じゃあ、それでいこう」と。ここでもまた、自分の首を絞めるわけですけど(笑)。数日間で物語のプロットまで考えなきゃいけないのか…って。でも、それがすごく曲の雰囲気にハマッたし、アルバムの世界観を作り上げたと思うんですよね。
──これまでにもプロットから歌詞を作っていったことはあったのですか?
澁谷:僕は映画が大好きで、物語から曲を作ってみたこともあるのですが、ここまで本格的にやったのは初めてでした。元ネタを言ってしまうと、今回はジョージ・ロメロ監督の「ゾンビ」。終末観というか、世界が終わっていくっていう設定がとにかく好きで。「ゾンビ」と、ヴィム・ヴェンダース監督の「夢の涯てまでも」にインスパイアされていますね。
──いつか長編小説とか、映画化とかしてみたいって思います?
ササブチ:そんな話も出ましたけどね(笑)。
渋谷:実を言うと、登場人物にはそれぞれイメージしている俳優・女優もいるんですけど、本気で映像化しようと思ったら莫大な予算が必要になりますね(笑)。
──アナログ盤を作る作業は大変でしたか?
ササブチ:いやー、こんなに大変だとは思いませんでした(笑)。イメージ通りの音像がなかなかできなくて、ミックスとマスタリングを4回やり直しましたね。ちょっとした音域の違いで、ヴォーカルの聞こえ方やビート感が全然違ってしまうんですよ。最終的にADコンバーターを変えることで、なんとか納得のいく形に仕上げることができました。これで僕らも「レコード・デビューしました」って言えますね(笑)。ちなみに、今回からベーシストとしてYukiが新加入し、アナログ盤では彼女の弾いたベースに差し替えています。そこも大きな違いですね。
──そこまでアナログ盤にこだわる理由は?
ササブチ:小さい頃から聴いていたのってレコードだったので、憧れといいますか。今回、カッティングが終わってラッカー盤を持ち帰り、家で実際に聴いてみたんですけど、スピーカーの前から動けなくなりましたね。何か他のことをしながら聞いたりできない。レコードを聴く行為って、例えば針を落としたり、A面からB面にひっくり返したりすることで、音楽と向き合う感じがあるじゃないですか。それが好きなんですよね。
──では最後に、今後の展望をお聞かせください。
ササブチ:急な話なのですが、ライヴ音源を使った『what a Cruel World's End e.p.』を出すことになりました。ミックスとサウンド・プロデュースを、Boris Atsuo氏、downy 青木裕氏、COALTAR OF THE DEEPERS NARASAKI氏に1曲ずつお願いしています。次の新作に関しては、断片的な構想は幾つかあるんですけど、それがどう形になっていくかは今の段階ではわからないです。ただ、これだけガチガチにコンセプトを固めて世界観を打ち出したので、次回もその路線でいく可能性は高い…のかな?また自分たちの首をしめちゃってますけど(笑)。ただ、あまりこういうことをやっているバンドはいないし、自分たちが稀な存在だという自負はありますね。
取材・文:黒田隆憲
<CQ 1st Analog LP『what a Wonderful World's End』Release Tour「Eli.」>
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『what a Wonderful World’s End』
HHVI-001 \3,800(included Audio CD)
Side A
Episode 1.Morse
Episode 2.Leos
Episode 3.Roxxane
Episode 4.Emil
Episode 5.Isabelle
Episode 6.Angie
Side B
Episode 7.Alex
Episode 8.Ian
Episode 9.what a Wonderful World
Episode 10.Eli
『what a Cruel World’s End e.p.』
HHCD-004 \2,000
Episode 1.Duncan
Episode 2.Silent Roar
Episode 3.Charlotte
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