ヤマハの新サービス「ボカロネット」や「歌うキーボード ポケット・ミク」も登場した「ニコニコ超会議3」のボカロサミットなど楽器関連レポ
4月26日・27日に、ニコニコ動画を地上に再現するというコンセプトで行われた「ニコニコ超会議3」。3回目となる今年は12万人以上の来場者が訪れた。総勢250名の力士がやってきた「大相撲 超会議場所」や、JAXAによる宇宙から返ってきたロケットの展示、有人潜水調査船「しんかい6500」やダイオウグソクムシ、陸上自衛隊のヘリコプター「アパッチ」といった大掛かりな展示をはじめ、あらゆるジャンル、規模の企業・団体が出展し、さまざまな展示やイベントが行われた。音楽関連では多くのアーティストが登場したステージが話題となったが、楽器・音楽制作関連の展示・イベントも注目すべきトピックが多かった。本稿では、ヤマハがイベント直前に発表した新サービス「ボカロネット」の紹介などが行われた「ボカロサミット」の様子を中心に、ここで改めてまとめておこう。
▲写真は開場直後の超ボーカロイド感謝祭のゲート。左右の白いパネルには来場者が絵を描き、2日目を待たずに絵で埋め尽くされることに。「ボカロサミット」は、ボカロ関連企業やユーザーが集まり、トークショー形式でボカロ情報をお届けするイベント。行われたのはHALL 7の一角に設けられた「超ボーカロイド感謝祭」というエリア。ここでは、数多くのボカロPが登場したライブ「超VOCALOID PARTY」や、ゲーム「初音ミクProject DIVA」の全国大会、初音ミクとバーチャル握手ができる握手会、準全天周スクリーンにMMDボカロキャラクターを投影する超ボカロプラネタリウム、小説イラスト&原画展、関連企業による展示や販売などが行われた。クラブイベント並みの動員を集め大いに盛り上がった同エリア内の「超VOCALOID PARTY」と比較すると、「ボカロサミット」のステージは非常にこじんまりとしたものだったが、なかなか濃い内容のイベントとなった。
■歌声でリアルタイムに演奏できる、大人の科学「歌うキーボード ポケット・ミク」
▲ステージは左から宇田道信さん、学研の西村俊之さん、Julie Wataiさん、polymoogさん。写真右がポケット・ミク、通称ポケミク。
学研は、4月3日に発売された大人の科学マガジン特別編集「歌うキーボード ポケット・ミク」を紹介。ポケット・ミクは、人の歌声を演奏することができる音楽ガジェット。ヤマハ開発のeVocaloid対応音源LSI「NSX-1」を搭載、本体に設けられたカーボンキーボードをスタイラスでなぞることで初音ミクの声で演奏することができる。スピーカーやオーディオ出力端子に加え、USB端子も装備。電源は単3乾電池またはUSBバスパワーで動作。パソコンとの連携で、よりさまざまな楽しみ方ができるのもポイントだ。
ポケット・ミクの魅力を紹介すべくステージに登場したのは、大人の科学マガジンの西村俊之さん、MCのJulie Wataiさん、そしてポケット・ミクの開発に携わった宇田道信さん(電子楽器ウダーの開発さ)とpolymoogさん(ハイブリッド・ラウンジユニットELEKTELのメンバー)の4人。
本体を付属のスタイラスで演奏する際はカーボンキーボードの下段で音階を弾き、上段のリボンをなぞればなめらかな音程変化がつけられる。ボタン操作でプリセットされた歌詞を切り替えたり(「あ/い/う/え/お」や「ちょうちょ」「さくら」の歌詞をあらかじめ用意)、ビブラートで表情をつけるといった基本機能に加え、パソコンを使いWebアプリ(Chromeブラウザ上で動作)から好きな歌詞を入力し、歌わせられることを紹介。入力した歌詞はポケット・ミク本体に記録されるので、いつでも本体だけでその歌詞による演奏ができる。歌詞のボタンは5つだが、SHIFT/VIBRATOボタンを押しながら押すことで、合計5×3の15スロットが使用可能。それぞれのスロットには64文字が入力可能だ。
▲歌詞の入力はWebブラウザのChromeを使用(写真左)。特別なソフトウェアの導入は不要だ。写真右は自身制作の楽器ウダーをとポケミクを演奏する宇田さん。
宇田さんは、男の人を気分よくさせる「合コンで使えるサシスセソ」として、「さすがだね」「知らなかったよ」「すごいね」「センスあるね」「そうなんだ」をポケット・ミクに仕込んでしゃべらせるデモを実演。歌うだけでなく会話で遊べることも示し笑わせた。うまく聞かせるコツはリボンを使って表情をつけること、とか。もちろん、曲の演奏もあり。polymoogさんがDAWによるバックトラック(この音源もポケット・ミク)に合わせ「おもちゃのチャチャチャ」を見事な演奏テクニックで聴かせると、宇田さんは自身開発の楽器ウダーを左手で弾きながら、右手でポケット・ミクを弾くというこれまた超絶テクニックを披露した。
Webアプリについて、今後の展開も紹介。間もなく公開の第2弾は、画面上に配置された文字のボタンの上にマウスカーソルを乗せるだけで発音。文字をなぞるような操作で自由な速度でしゃべらせることができ、文字は追加・削除・移動可能。五十音ボタンも用意され、リアルタイムで文字入力することもできる。その後公開となる第3弾は、ポケット・ミクの機能を拡張し、演奏の幅を広げることができるアプリ。これにより、ハモり演奏(上ボタンで長3度、下ボタンで短3度)、SHIFTボタンで歌う位置を最初に戻す(失敗した場合にすぐ歌詞の頭に戻れる)、音を出してる最中にSHIFTボタンを押すと歌詞を1文字進める、といった機能が追加できる。デモでは「だば」の2文字だけをポケット・ミクに入力しておいて、歌詞を戻す機能を使い「だばだばだ、だばだばだ」と歌わせるという演奏も披露された。また、初期状態でかかっているリバーブ、イコライザー(内蔵スピーカーの音を補正するためのもの)をOFFにする機能も用意。素の音で録音できるので、レコーディング時に重宝しそうだ(ちなみに操作は、I+下ボタンでOFF、I+上ボタンでON)。
▲写真左はWebアプリ第2弾。五十音が並ぶ画面や自由に歌詞を並べられる「じゆうちょう」などの画面が用意される。ステージ上には、毛糸で編んだ専用ケースとあみぐるみのミクが。ガイドブックにはこの紹介記事もあるとのこと。
さらに「ニコニコ技術部の人が喜びそうな」(polymoogさん)情報も。アプリ第3弾の登場に合わせて、ユーザーが機能を拡張できるようにする技術情報も公開するという。「みなさんのアイディアに期待してます。お手本は今日見ていただいたので、家に帰って、俺はこうやってやるとか、私はこうやるわっていうのを見せてほしい」と西村さん。大人の科学マガジンでは、「ポケット・ミクの使い方をまとめた公式ガイドブック的な本」も出版予定。発売は5月末から6月初頭。追加情報や第3弾アプリの公開もそのタイミングになるという。期待して待ちたい。
▲スタイラスによるリアルタイム演奏で会場を沸かせたpolymoogさんと、それに聞き入るJulie Wataiさん(写真左)。来場者には、ポケット・ミクの鍵盤下に貼れる音階がプリントされた「鍵盤ドレミシール」が配布された(写真右)。
■インターネットはVOCALOID3ライブラリ「kokone」や読み上げソフト「Megpoid Talk」を紹介
インターネットは、2月14日に発売されたVOCALOID3ライブラリ「kokone(心響)」を紹介。登場したのはインターネットの村上昇社長と、kokoneのデモ曲を作成した黒田亜津(くろだ・あしん)さん。黒田さんは、「巡音ルカ」「がくっぽいど」でVOCALOIDを始め、「VY2V3」のデモ曲も手がけ、現在は十数本のVOCALOIDライブラリを所有しているという。
黒田さんはVOCALOID楽曲の制作エピソードを披露。「ほんとに素直で使いやすい子だと思いました。作るのが楽でした」というkokoneのデモ曲作成では、子音を強調するためにダイナミクスのカーブをいじる、ビブラートの再現にはピッチやダイナミクスのカーブを手描きで調整するといったテクニックを駆使。VOCALOID楽曲制作でよく使われる子音と母音を分ける「子音分解」については、kokoneではそれを使わずとも「歌ってくれた」ので必要なかったという。また、kokoneの魅力としてファルセットを挙げ、高音時のファルセットになめらかにつなげられるのが利点、ほかのライブラリと異なりデータベースが分かれてないので使いやすいとも。声の特徴としては、GUMIやLilyと比べ「やさしさのある声」とコメント。声質を調整するパラメーターの中では「ジェンダーを研究するのが好き」で、「ちょうどいいところを探して」曲を作るという黒田さん。kokoneのデモ曲では、初期状態の落ち着いた声からジェンダーを下げてちょっと幼い声になっている。「インターネットのボカロは、みんなロックが得意なんじゃないかな」「オケに埋もれないので」という黒田さんの発言に対し、村上社長は「同じ作り方をしていて、編集はするが音質面の加工はほとんどしていない」とデータベース作成にまつわるエピソードも。
このほか、音声合成による文章読み上げソフトの「Megpoid Talk」(2月14日発売)についても紹介。そのまま文章を入力しても自然なイントネーションでしゃべらせることができるが、マウスのドラッグ操作で表情を変えることも可能。音の高さや長さを変えることで、自由にイントネーションが調整できる。その結果はVOCALOIDのファイル形式VSQXでも出力可能、VOCALOID Editorとの連携にも対応する。VSQXファイル出力はノートのみ、固定ノートでピッチベンドのモードが選択可能だ。「曲の中でしゃべらせるのにも使ってほしい」とは村上社長。多彩なエフェクトが使用できるほか、非言語のサンプルとして舌打ちやくしゃみ、ため息や咳払いなどのセリフ以外のデータを用意。さまざまなシーンで使えるソフトウェアとなっている。
▲多くのVOCALOIDライブラリを所有するというゲストの黒田亜津さん(写真左)はデモ曲の制作エピソードを披露。しゃべりの再現はむずかしく自分でやるのは無理だが、「Megpoid Talk」(写真左)ならできそうと、その表現の幅に感心。
ステージ最後には、インターネットのVOCALOID関連製品の今後について触れられた。すでに録音しているものが2つほどあり、「秋を目標に新たなタイプのVOCALOIDを出したい」「今までにない声質ということでバリエーションが広がれば」と村上社長。「ヤマハでもVOCALOIDそのものの開発が進められていると思うので、そのあたりも含めて、いろんな可能性をこれからも広げていきたい」とも。さらに、来年をめどにDAWの中で使える独自のVOCALOIDエディター的なものを出したいという興味深い発言も飛び出した。
▲その他告知も。ニンテンドー3DS専用ソフト「大合奏! バンドブラザーズP」に、がくっぽいどが参戦。がくっぽいどの声でゲームができる。4月24日よりダウンロード版が配信開始(写真左)。インターネットは、別ホールでライブイベント「GUMI FES!」も開催。GUMIの生誕5周年を祝った(写真右)。
■誰でもボカロ曲が作れる! ヤマハの新サービス「ボカロネット」始動
「ボカロネット」は、イベント直前の4月24日に発表されたヤマハの会員制クラウドサービス。歌詞を入力するだけで自動作曲してくれる「VOCALODUCER(ボカロデューサー)」と、楽曲データの保存・読み込みが可能なクラウドストレージ「ボカロストレージ」の2つのサービスで構成され、会員になることで無料で利用が可能。月額500円のプレミアム会員になれば、ストレージが増量されるほか、「VOCALODUCER」での作曲機能もグレードアップする。サービス開始は7月を予定している。
▲左から桃知みなみさん、藤本健さん、剱持英樹さん。会場で歌詞を募ってその場で作曲するデモも行われた。ニコニコ超会議3では「ボカロネット」の機能の一部が体験できるブースが用意されたほか、ボカロサミットでのステージでは26日と27日とも異なる内容でさまざまな実演が行われた。出演はボーカロイドの父ことヤマハの剣持秀紀さん、DTM関連記事の執筆でおなじみの藤本健さん、MCは桃知みなみさん。
まずは誰でもカンタンに作曲が楽しめる「VOCALODUCER」を紹介。歌詞を入力して、歌声と曲調を選択するだけで曲ができあがる。ボーカルだけでなく、バックの演奏もしっかり入った状態で試聴が可能だ。曲の生成はサーバー側で行われ、完成までにかかる時間は30秒ほど。驚くほどカンタン、しかもソフトウェアの購入やインストールも不要。パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットでも楽しむことができる。
▲カンタンモードで歌詞を4行(8小節)入力、シンガーと曲調を選択するだけで作曲(写真左)。30秒ほどで試聴可能になる(写真右)。曲はユーザーのボカロストレージに保存され、何度でも再生可能。
▲ノーマルモードではより細かい指定が可能。同じシンガーでも少女声、ロボ声、ハスキー声などが選べたり、伴奏ジャンルなども選べる。
歌詞入力は漢字でもOKだし、「おはよう」とした場合には実際の発音に従って「おはよお」と発音してくれるなど、けっこうインテリジェント。歌詞の意味を理解してそれに合わせて曲調を変えるというところまではいかないが、「そのギャップもおもしろいんじゃないかな」とは剣持さん。曲調は「スタンダード」「優しい」「悲しい」「明るい」などの複数選択肢を用意。伴奏ジャンルも多数用意される。設定方法には「カンタンモード」と「ノーマルモード」の2種類があり、後者ではコード進行が選択できるなどより細かい設定が可能。どちらの場合も同じ歌詞、曲調を選んでも毎回異なる楽曲が生成される。できあがった曲は自動的に保存されるので、何度でも聴くことができる。TwitterやFacebookなどを介してURLを教えることで友達に聴いてもらうといったこともOK。家族・友人へのメッセージとして曲を作る、「あなたの曲を作りますよ」と言って女性に声をかける(名前や住所も聞けるかも)といった使い方も紹介された。
プレミアム会員になれば、より多くの曲のバリエーションが選択できるほか、歌声も「VY1V3」「VY2V3」に加え、男声ライブラリ「ZOLA」の3人の声が追加される。また、曲の長さ(無料は8小節、有料は32小節)や1日何回、1ヶ月何回といった利用制限も緩和される。曲データとして、ボーカルのオーディオファイル(flac)、VOCALOIDファイル(vsqx)、伴奏のオーディオ/MIDIファイルなどがダウンロードできるのもプレミアム会員だけだ。
▲無料・有料コースでサービス内容が異なる。細かい数字はこれからつめていくとのこと。
VOCALOID Editor(for Cubaseも含む)との連携もうれしい機能。ボカロネット公開にあわせてアップデートされるバージョンでは、VOCALOID Editorから直接データのダウンロード、アップロードが可能となる。ボカロネットで作成した曲のVSQXファイルをダウンロードすれば、手持ちのVOCALOIDライブラリの歌声で自由に歌わせることができるというわけだ。また、無料会員であってもVOCALOID Editor経由なら、VSQXおよび伴奏のオーディオファイルに限ってはダウンロードは可能だ。
▲VOCALOID Editorでは、ボカロネットで作成した曲のダウンロードが可能。画面右はEditorに新たに加えられるダウンロード/アップロードボタン。
▲有料会員は伴奏MIDIファイル(.mid)、VOCALOIDファイル(.vsqx)、ステレオオーディオトラック(.flac)、ミックスオーディオファイル(.mp3)がダウンロード可能(写真左)。VOCALOID Editorからボカロストレージへのアップロードのデモも見ることができた(写真右)。
作成された曲の権利についても剣持さんより触れられた。歌詞の権利は当然ユーザーのものになるが、曲や伴奏については「ヤマハとの共同著作物」となるという。TwitterやFacebook、ニコニコ動画、YouTubeへの投稿など個人での利用に問題はない(許可不要)が、CD販売などの際にはヤマハに連絡してほしいとのこと。
「スランプから脱出したい時、いいメロディや伴奏が思いつかない時にこれを使って作曲の支援に使ってほしい」「ニコニコ生放送のBGMのセレクションに迷っている人にも」とさまざまな使い方を示した剣持さん。ユーザーの要望に応え機能追加なども行っていくことも語られた。「VOCALOIDを購入して最初は既存曲を打ち込んだりするんですが、新しい曲を作るのはどうしても敷居が高かったと思うんですね。まず、(ボカロネットによって)とりあえず作曲するという行為をカンタンにして、もっともっとみなさんに作るという行為を始めてもらいたい」「VOCALOIDを聴くだけじゃなく作って……。曲を作るのは本当に楽しいので、ボカロネットを、『作る』ということを楽しむきっかけにしてほしい」と締めた。
▲ボカロネットのブースでは、VOCALODUCERをいちはやく体験することができた。左はiPad、右はパソコンの画面で、いずれもWebブラウザでアクセスして利用する。
■「ニコニコ技術部」ユーザー参加の「まるなげひろば」
ニコニコ超会議には企業だけでなく、ユーザーの参加のブースも数多く出展。企画・準備・運営すべてをユーザーに丸投げした「まるなげひろば」と題されたエリアには、「ニコニコ技術部」として活動するユーザーたちの作品が展示された。レポート最後はその中から自作楽器をいくつか紹介する。
▲「ボカロチップeVY1部」は、ポケット・ミクで使われているヤマハのチップ「NSX-1」を搭載したeVY1シールド、eVY1モジュールを利用して制作された楽器などを中心に出展。写真左はeVY1モジュールのLEDで動きを制御するロボットやmicroSDカードからMIDIファイルを再生する1チップMIDIシーケンサー。子音と母音のボタンの組み合わせでリアルタイムに歌詞を入力できる「ぼや式パッド」(写真右上)で制御されていたのは、eVY1モジュールにMIDI端子やオーディオ出力を加えたものとのこと(写真右下)。
▲こちらも「ボカロチップeVY1部」。写真左はeVY1モジュールをカシオトーンに組み込んだもの。鍵盤の左側で歌詞入力(先のパッドと同じく子音と母音の組み合わせ)、右側で演奏する。写真右はeVY1を組み込み、中央部の透明なタッチパネルで演奏できる「ボカロ・シンセパッド」。
▲同時発音数の少ないファミコンを複数台使い和音をキーボードで演奏できるようにした「8-Polyphonio NES」などを展示した「なんか変なもの演奏する」ブース。写真右のコントローラーにより、モジュレーションやエンベロープなどアナログシンセサイザーライクな音色変化を制御できる。
▲ゲーム機関連の出展では、1980~90年代のアーケードゲームに使われた音源チップを搭載し、再生機・ハード音源として使用することが可能な「GIMIC」も(G.I.M.I.Cプロジェクト、写真左)。写真右はPCのキーボードで文字を入力、マイクからの音声で音程・発音を制御してリアルタイムに歌わせるソフトウェア「HANAUTAU」(暇な学生7)。画面上のキャラクターの口が動く。
◆大人の科学マガジン特別編集 歌うキーボード ポケット・ミク
◆インターネット VOCALOID3 kokone
◆ボカロネット
◆ニコニコ超会議
◆BARKS 楽器チャンネル
▲写真は開場直後の超ボーカロイド感謝祭のゲート。左右の白いパネルには来場者が絵を描き、2日目を待たずに絵で埋め尽くされることに。
■歌声でリアルタイムに演奏できる、大人の科学「歌うキーボード ポケット・ミク」
▲ステージは左から宇田道信さん、学研の西村俊之さん、Julie Wataiさん、polymoogさん。写真右がポケット・ミク、通称ポケミク。
学研は、4月3日に発売された大人の科学マガジン特別編集「歌うキーボード ポケット・ミク」を紹介。ポケット・ミクは、人の歌声を演奏することができる音楽ガジェット。ヤマハ開発のeVocaloid対応音源LSI「NSX-1」を搭載、本体に設けられたカーボンキーボードをスタイラスでなぞることで初音ミクの声で演奏することができる。スピーカーやオーディオ出力端子に加え、USB端子も装備。電源は単3乾電池またはUSBバスパワーで動作。パソコンとの連携で、よりさまざまな楽しみ方ができるのもポイントだ。
ポケット・ミクの魅力を紹介すべくステージに登場したのは、大人の科学マガジンの西村俊之さん、MCのJulie Wataiさん、そしてポケット・ミクの開発に携わった宇田道信さん(電子楽器ウダーの開発さ)とpolymoogさん(ハイブリッド・ラウンジユニットELEKTELのメンバー)の4人。
本体を付属のスタイラスで演奏する際はカーボンキーボードの下段で音階を弾き、上段のリボンをなぞればなめらかな音程変化がつけられる。ボタン操作でプリセットされた歌詞を切り替えたり(「あ/い/う/え/お」や「ちょうちょ」「さくら」の歌詞をあらかじめ用意)、ビブラートで表情をつけるといった基本機能に加え、パソコンを使いWebアプリ(Chromeブラウザ上で動作)から好きな歌詞を入力し、歌わせられることを紹介。入力した歌詞はポケット・ミク本体に記録されるので、いつでも本体だけでその歌詞による演奏ができる。歌詞のボタンは5つだが、SHIFT/VIBRATOボタンを押しながら押すことで、合計5×3の15スロットが使用可能。それぞれのスロットには64文字が入力可能だ。
▲歌詞の入力はWebブラウザのChromeを使用(写真左)。特別なソフトウェアの導入は不要だ。写真右は自身制作の楽器ウダーをとポケミクを演奏する宇田さん。
宇田さんは、男の人を気分よくさせる「合コンで使えるサシスセソ」として、「さすがだね」「知らなかったよ」「すごいね」「センスあるね」「そうなんだ」をポケット・ミクに仕込んでしゃべらせるデモを実演。歌うだけでなく会話で遊べることも示し笑わせた。うまく聞かせるコツはリボンを使って表情をつけること、とか。もちろん、曲の演奏もあり。polymoogさんがDAWによるバックトラック(この音源もポケット・ミク)に合わせ「おもちゃのチャチャチャ」を見事な演奏テクニックで聴かせると、宇田さんは自身開発の楽器ウダーを左手で弾きながら、右手でポケット・ミクを弾くというこれまた超絶テクニックを披露した。
Webアプリについて、今後の展開も紹介。間もなく公開の第2弾は、画面上に配置された文字のボタンの上にマウスカーソルを乗せるだけで発音。文字をなぞるような操作で自由な速度でしゃべらせることができ、文字は追加・削除・移動可能。五十音ボタンも用意され、リアルタイムで文字入力することもできる。その後公開となる第3弾は、ポケット・ミクの機能を拡張し、演奏の幅を広げることができるアプリ。これにより、ハモり演奏(上ボタンで長3度、下ボタンで短3度)、SHIFTボタンで歌う位置を最初に戻す(失敗した場合にすぐ歌詞の頭に戻れる)、音を出してる最中にSHIFTボタンを押すと歌詞を1文字進める、といった機能が追加できる。デモでは「だば」の2文字だけをポケット・ミクに入力しておいて、歌詞を戻す機能を使い「だばだばだ、だばだばだ」と歌わせるという演奏も披露された。また、初期状態でかかっているリバーブ、イコライザー(内蔵スピーカーの音を補正するためのもの)をOFFにする機能も用意。素の音で録音できるので、レコーディング時に重宝しそうだ(ちなみに操作は、I+下ボタンでOFF、I+上ボタンでON)。
▲写真左はWebアプリ第2弾。五十音が並ぶ画面や自由に歌詞を並べられる「じゆうちょう」などの画面が用意される。ステージ上には、毛糸で編んだ専用ケースとあみぐるみのミクが。ガイドブックにはこの紹介記事もあるとのこと。
さらに「ニコニコ技術部の人が喜びそうな」(polymoogさん)情報も。アプリ第3弾の登場に合わせて、ユーザーが機能を拡張できるようにする技術情報も公開するという。「みなさんのアイディアに期待してます。お手本は今日見ていただいたので、家に帰って、俺はこうやってやるとか、私はこうやるわっていうのを見せてほしい」と西村さん。大人の科学マガジンでは、「ポケット・ミクの使い方をまとめた公式ガイドブック的な本」も出版予定。発売は5月末から6月初頭。追加情報や第3弾アプリの公開もそのタイミングになるという。期待して待ちたい。
▲スタイラスによるリアルタイム演奏で会場を沸かせたpolymoogさんと、それに聞き入るJulie Wataiさん(写真左)。来場者には、ポケット・ミクの鍵盤下に貼れる音階がプリントされた「鍵盤ドレミシール」が配布された(写真右)。
■インターネットはVOCALOID3ライブラリ「kokone」や読み上げソフト「Megpoid Talk」を紹介
インターネットは、2月14日に発売されたVOCALOID3ライブラリ「kokone(心響)」を紹介。登場したのはインターネットの村上昇社長と、kokoneのデモ曲を作成した黒田亜津(くろだ・あしん)さん。黒田さんは、「巡音ルカ」「がくっぽいど」でVOCALOIDを始め、「VY2V3」のデモ曲も手がけ、現在は十数本のVOCALOIDライブラリを所有しているという。
黒田さんはVOCALOID楽曲の制作エピソードを披露。「ほんとに素直で使いやすい子だと思いました。作るのが楽でした」というkokoneのデモ曲作成では、子音を強調するためにダイナミクスのカーブをいじる、ビブラートの再現にはピッチやダイナミクスのカーブを手描きで調整するといったテクニックを駆使。VOCALOID楽曲制作でよく使われる子音と母音を分ける「子音分解」については、kokoneではそれを使わずとも「歌ってくれた」ので必要なかったという。また、kokoneの魅力としてファルセットを挙げ、高音時のファルセットになめらかにつなげられるのが利点、ほかのライブラリと異なりデータベースが分かれてないので使いやすいとも。声の特徴としては、GUMIやLilyと比べ「やさしさのある声」とコメント。声質を調整するパラメーターの中では「ジェンダーを研究するのが好き」で、「ちょうどいいところを探して」曲を作るという黒田さん。kokoneのデモ曲では、初期状態の落ち着いた声からジェンダーを下げてちょっと幼い声になっている。「インターネットのボカロは、みんなロックが得意なんじゃないかな」「オケに埋もれないので」という黒田さんの発言に対し、村上社長は「同じ作り方をしていて、編集はするが音質面の加工はほとんどしていない」とデータベース作成にまつわるエピソードも。
このほか、音声合成による文章読み上げソフトの「Megpoid Talk」(2月14日発売)についても紹介。そのまま文章を入力しても自然なイントネーションでしゃべらせることができるが、マウスのドラッグ操作で表情を変えることも可能。音の高さや長さを変えることで、自由にイントネーションが調整できる。その結果はVOCALOIDのファイル形式VSQXでも出力可能、VOCALOID Editorとの連携にも対応する。VSQXファイル出力はノートのみ、固定ノートでピッチベンドのモードが選択可能だ。「曲の中でしゃべらせるのにも使ってほしい」とは村上社長。多彩なエフェクトが使用できるほか、非言語のサンプルとして舌打ちやくしゃみ、ため息や咳払いなどのセリフ以外のデータを用意。さまざまなシーンで使えるソフトウェアとなっている。
▲多くのVOCALOIDライブラリを所有するというゲストの黒田亜津さん(写真左)はデモ曲の制作エピソードを披露。しゃべりの再現はむずかしく自分でやるのは無理だが、「Megpoid Talk」(写真左)ならできそうと、その表現の幅に感心。
ステージ最後には、インターネットのVOCALOID関連製品の今後について触れられた。すでに録音しているものが2つほどあり、「秋を目標に新たなタイプのVOCALOIDを出したい」「今までにない声質ということでバリエーションが広がれば」と村上社長。「ヤマハでもVOCALOIDそのものの開発が進められていると思うので、そのあたりも含めて、いろんな可能性をこれからも広げていきたい」とも。さらに、来年をめどにDAWの中で使える独自のVOCALOIDエディター的なものを出したいという興味深い発言も飛び出した。
▲その他告知も。ニンテンドー3DS専用ソフト「大合奏! バンドブラザーズP」に、がくっぽいどが参戦。がくっぽいどの声でゲームができる。4月24日よりダウンロード版が配信開始(写真左)。インターネットは、別ホールでライブイベント「GUMI FES!」も開催。GUMIの生誕5周年を祝った(写真右)。
■誰でもボカロ曲が作れる! ヤマハの新サービス「ボカロネット」始動
「ボカロネット」は、イベント直前の4月24日に発表されたヤマハの会員制クラウドサービス。歌詞を入力するだけで自動作曲してくれる「VOCALODUCER(ボカロデューサー)」と、楽曲データの保存・読み込みが可能なクラウドストレージ「ボカロストレージ」の2つのサービスで構成され、会員になることで無料で利用が可能。月額500円のプレミアム会員になれば、ストレージが増量されるほか、「VOCALODUCER」での作曲機能もグレードアップする。サービス開始は7月を予定している。
▲左から桃知みなみさん、藤本健さん、剱持英樹さん。会場で歌詞を募ってその場で作曲するデモも行われた。
まずは誰でもカンタンに作曲が楽しめる「VOCALODUCER」を紹介。歌詞を入力して、歌声と曲調を選択するだけで曲ができあがる。ボーカルだけでなく、バックの演奏もしっかり入った状態で試聴が可能だ。曲の生成はサーバー側で行われ、完成までにかかる時間は30秒ほど。驚くほどカンタン、しかもソフトウェアの購入やインストールも不要。パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットでも楽しむことができる。
▲カンタンモードで歌詞を4行(8小節)入力、シンガーと曲調を選択するだけで作曲(写真左)。30秒ほどで試聴可能になる(写真右)。曲はユーザーのボカロストレージに保存され、何度でも再生可能。
▲ノーマルモードではより細かい指定が可能。同じシンガーでも少女声、ロボ声、ハスキー声などが選べたり、伴奏ジャンルなども選べる。
歌詞入力は漢字でもOKだし、「おはよう」とした場合には実際の発音に従って「おはよお」と発音してくれるなど、けっこうインテリジェント。歌詞の意味を理解してそれに合わせて曲調を変えるというところまではいかないが、「そのギャップもおもしろいんじゃないかな」とは剣持さん。曲調は「スタンダード」「優しい」「悲しい」「明るい」などの複数選択肢を用意。伴奏ジャンルも多数用意される。設定方法には「カンタンモード」と「ノーマルモード」の2種類があり、後者ではコード進行が選択できるなどより細かい設定が可能。どちらの場合も同じ歌詞、曲調を選んでも毎回異なる楽曲が生成される。できあがった曲は自動的に保存されるので、何度でも聴くことができる。TwitterやFacebookなどを介してURLを教えることで友達に聴いてもらうといったこともOK。家族・友人へのメッセージとして曲を作る、「あなたの曲を作りますよ」と言って女性に声をかける(名前や住所も聞けるかも)といった使い方も紹介された。
プレミアム会員になれば、より多くの曲のバリエーションが選択できるほか、歌声も「VY1V3」「VY2V3」に加え、男声ライブラリ「ZOLA」の3人の声が追加される。また、曲の長さ(無料は8小節、有料は32小節)や1日何回、1ヶ月何回といった利用制限も緩和される。曲データとして、ボーカルのオーディオファイル(flac)、VOCALOIDファイル(vsqx)、伴奏のオーディオ/MIDIファイルなどがダウンロードできるのもプレミアム会員だけだ。
▲無料・有料コースでサービス内容が異なる。細かい数字はこれからつめていくとのこと。
VOCALOID Editor(for Cubaseも含む)との連携もうれしい機能。ボカロネット公開にあわせてアップデートされるバージョンでは、VOCALOID Editorから直接データのダウンロード、アップロードが可能となる。ボカロネットで作成した曲のVSQXファイルをダウンロードすれば、手持ちのVOCALOIDライブラリの歌声で自由に歌わせることができるというわけだ。また、無料会員であってもVOCALOID Editor経由なら、VSQXおよび伴奏のオーディオファイルに限ってはダウンロードは可能だ。
▲VOCALOID Editorでは、ボカロネットで作成した曲のダウンロードが可能。画面右はEditorに新たに加えられるダウンロード/アップロードボタン。
▲有料会員は伴奏MIDIファイル(.mid)、VOCALOIDファイル(.vsqx)、ステレオオーディオトラック(.flac)、ミックスオーディオファイル(.mp3)がダウンロード可能(写真左)。VOCALOID Editorからボカロストレージへのアップロードのデモも見ることができた(写真右)。
作成された曲の権利についても剣持さんより触れられた。歌詞の権利は当然ユーザーのものになるが、曲や伴奏については「ヤマハとの共同著作物」となるという。TwitterやFacebook、ニコニコ動画、YouTubeへの投稿など個人での利用に問題はない(許可不要)が、CD販売などの際にはヤマハに連絡してほしいとのこと。
「スランプから脱出したい時、いいメロディや伴奏が思いつかない時にこれを使って作曲の支援に使ってほしい」「ニコニコ生放送のBGMのセレクションに迷っている人にも」とさまざまな使い方を示した剣持さん。ユーザーの要望に応え機能追加なども行っていくことも語られた。「VOCALOIDを購入して最初は既存曲を打ち込んだりするんですが、新しい曲を作るのはどうしても敷居が高かったと思うんですね。まず、(ボカロネットによって)とりあえず作曲するという行為をカンタンにして、もっともっとみなさんに作るという行為を始めてもらいたい」「VOCALOIDを聴くだけじゃなく作って……。曲を作るのは本当に楽しいので、ボカロネットを、『作る』ということを楽しむきっかけにしてほしい」と締めた。
▲ボカロネットのブースでは、VOCALODUCERをいちはやく体験することができた。左はiPad、右はパソコンの画面で、いずれもWebブラウザでアクセスして利用する。
■「ニコニコ技術部」ユーザー参加の「まるなげひろば」
ニコニコ超会議には企業だけでなく、ユーザーの参加のブースも数多く出展。企画・準備・運営すべてをユーザーに丸投げした「まるなげひろば」と題されたエリアには、「ニコニコ技術部」として活動するユーザーたちの作品が展示された。レポート最後はその中から自作楽器をいくつか紹介する。
▲「ボカロチップeVY1部」は、ポケット・ミクで使われているヤマハのチップ「NSX-1」を搭載したeVY1シールド、eVY1モジュールを利用して制作された楽器などを中心に出展。写真左はeVY1モジュールのLEDで動きを制御するロボットやmicroSDカードからMIDIファイルを再生する1チップMIDIシーケンサー。子音と母音のボタンの組み合わせでリアルタイムに歌詞を入力できる「ぼや式パッド」(写真右上)で制御されていたのは、eVY1モジュールにMIDI端子やオーディオ出力を加えたものとのこと(写真右下)。
▲こちらも「ボカロチップeVY1部」。写真左はeVY1モジュールをカシオトーンに組み込んだもの。鍵盤の左側で歌詞入力(先のパッドと同じく子音と母音の組み合わせ)、右側で演奏する。写真右はeVY1を組み込み、中央部の透明なタッチパネルで演奏できる「ボカロ・シンセパッド」。
▲同時発音数の少ないファミコンを複数台使い和音をキーボードで演奏できるようにした「8-Polyphonio NES」などを展示した「なんか変なもの演奏する」ブース。写真右のコントローラーにより、モジュレーションやエンベロープなどアナログシンセサイザーライクな音色変化を制御できる。
▲ゲーム機関連の出展では、1980~90年代のアーケードゲームに使われた音源チップを搭載し、再生機・ハード音源として使用することが可能な「GIMIC」も(G.I.M.I.Cプロジェクト、写真左)。写真右はPCのキーボードで文字を入力、マイクからの音声で音程・発音を制御してリアルタイムに歌わせるソフトウェア「HANAUTAU」(暇な学生7)。画面上のキャラクターの口が動く。
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