【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第1回 椎名もた編Vol.1「18才と56才」
さて、始まりました!
音楽プロデューサー、藤井丈司の連載対談、『「これからの音楽」の「中の人」たち』。
◆藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』前口上
まず第一回めのゲストは、18才のボカロP、椎名もた(ぽわぽわP)君です。
10月9日に、セカンドアルバム『アルターワー・セツナポップ』をリリースしたばかりの椎名君に、ここまでの道のり(まだ10代ですが)を聞いてみました。
彼のプロフィールからは、同人時代から数えると、すでに5枚のCDをリリースしていたり、曲作りを始めてニコ動にアップしたのは14才だったり、ジャケットやPVのビジュアルを担当してるのが、椎名君と同世代の女の子だったり…。
なんだか「へー」とか「ほー」とか「ふーん」とか、ハ行の感嘆符が出まくりますが、会って話してみると、やはりそこには、普通の18才とはちょっと違う佇まいの、「音楽創作家」がいました。
また、今回は椎名もた君に加え、彼のスタッフも交えての対談的な座談会(?)を行いました。今月10月は、椎名もた君との対談インタビューを全8回に渡りお送りします。
Vol.1「18才と56才」
藤井:今回、第1回なんですよ。記念すべき第1回。
椎名:光栄です。
藤井:僕も光栄です(笑)。 この対談のタイトルは、『「これからの音楽」の「中の人」たち。』というんですけど、新しい音楽を作っている内側にいる人とか、その真っただ中にいる人とかを、紹介しながら、連載で対談しようという連載アイデアなんですね。
椎名:はい。
藤井:でも全然、椎名君って、「内側の人」じゃないよね。“真っただ中”にはいるけど。
弘石氏:(椎名君のレコード会社&マネジメント事務所/社長):よく言われるのは、ボーカロイドを作ってるボカロPとか、そういう子たちって、「中の人」って言われてるんですよ。“P”は“プロデューサー”の“P”だから。
藤井:あ、ボカロPは、“中の人”たちなんだ、よかった(笑)。
全員:(笑)
藤井:まぁそういうタイトルで、最初は新しいクリエイターの人たちとだけ、会おうと思ってたんですよ。でもそうすると、なんていうか、ちょっと人選が片寄るだろうなと、気づいてね。で、音楽以外のフィールドの人たちから見て、「今の音楽ってどう見えますか?」みたいなことも話そうと思ってます。それと、今って音楽を、アルバムとして聞くということが少なくなってきてるんじゃないかなと思うんですよ。
椎名:あ、そうなんですか。
藤井:うん。だから80年代から90年代にかけての名作アルバムのプロデューサーたちとの対談も、したいと思ってるんですよ。そういう三角形の…新しく音楽を作る人、外から今の音楽を見てる人、過去の名作を作ってきたプロデューサー、という3つの切り口で、いわゆる「音楽の現在、近過去、近未来」みたいなことを話していく対談にしようと思ってます。「♪現在過去未来~」(口ずさむ)っていう歌、(渡辺真知子さんの‘77年の名曲「迷い道」です)知ってますか?
椎名:知らないです。
藤井:ほら、知らない(笑)。
曽根原(椎名もた A&R/マネージャー):そういうところがおもしろいですね(笑)。
藤井:今日は、こういう、18才と56才とが、わりと噛み合わないねっていうところを、裏テーマにしようと思ってるんですけど(笑)。
全員:(笑)
藤井:それで大丈夫ですか(笑)?
椎名:大丈夫です。頑張ります(笑)。
全員:(笑)
藤井:昨日『アルターワー・セツナポップ』をずっと聴いててさ。すごい良かった、僕には。
椎名:ありがとうございます。
藤井:わりと日本語の歌っていうもので、アルバム1枚、最初から最後まで聴き惚れたっていうのも久しぶりだったし。
椎名:ありがとうございます。
藤井:いやいや(笑)。しかもなんていうか、ボカロじゃないですか。歌ってる人は人間じゃないから。ということは、椎名くんが作ったオケというか、音楽をすっぽり取ると、マネキンみたいな人が中にいるだけでしょ。で、そこには感情がないわけで。
椎名:うん。
藤井:もちろん、椎名君がボカロをプログラミングしてるから、いろいろ感情的に聞こえるナニガシはプラスしてると思うんだけど。でもやっぱり、マネキンはマネキンじゃない? そこに椎名くんが作った音楽が、カツラっていうか洋服がパッと着せると、こんなに普通の歌以上にグッとくるっていうのが、ビックリした、ほんとに。
椎名:…… (無言)
藤井:僕は、プロデューサーとかアレンジャーを30年近くやってるんですけど、歌う人がいて、その人の声があって、その人と声に合わせて、着せる服というか、音楽を作っていくっていうことを、やって来たと思ってるんですよ。でも、その真ん中にいる歌う人が、人間じゃなくても、こんなにも歌として、ぐっとくるもんなんだと思って。
椎名:……(無言)
藤井:だから、改めて、音楽って何なんだろう?って思ったんですよ。人間が歌わなくてもこんなに感動するのかって……。あれ、喋りすぎてます? 俺(笑)。
全員:(笑)
椎名:でも、なんかおもしろい表現を聞けて、ちょっと。マネキンっていう例えは、初めて聞きましたね。
藤井:あ、そう? マネキンじゃないとなんだろ?
椎名:たぶん……なんか……単に機械の声とか。
藤井:あー。
曽根原:あとはプログラムだとかソフトウェアだとか。
椎名:マネキンっていう表現はおもしろいなと思いますね。
曽根原:今これ聞いてて、すげえ的確だなと思ったのが、ボーカロイドって音楽だけじゃないんですよ、シーン的には。やれ、いろんなキャラがいて、何の服を着せるとか、どう動かすだとか、それこそフィギュアみたいに自由に、駆動部をどうする、とか。
藤井:あ、フィギュアか。フィギュアがいちばん当たってるんじゃないですか?村上隆さんって知ってます?
椎名:知らないです。
曽根原:たぶん見たらわかる。絵は知ってるよ。
椎名:見たらわかるのかな。
曽根原:村上隆って、カイカイキキとか知らない?
椎名:知らないです(笑)。
曽根原:こういう絵(と、ネットで検索した村上隆さんの作品を見せる)。
椎名:あぁ~。
藤井:わりとこれ、ミクの原型っぽいところがありますよね。
椎名:へぇ~。
曽根原:で、何でしたっけ?(笑)。
藤井:(笑)。それでね、椎名くんの書いてる曲や詞がすごくいいこともあるんだけど、そういう音楽や歌の骨格がしっかりしてれば、ボカロが歌っても、っていう言い方も変かもしれないけど、全然普通に、僕というか、音楽を好きな人の心を動かすんだなと思って。それが…まぁ逆に言えば、今ダメな曲が多いのは、その骨格が全然しっかりしてないんだな、みたいなことを思いながら(笑)。
全員:(笑)。
藤井:へぇ~、ボカロも、ここまできたんだ、みたいなことを感じました。
椎名:ありがとうございます。骨格かぁ……あんまり考えたことなかったかも(笑)。
インタビュー&文◎藤井丈司
◆ ◆ ◆
続きは次回。連載対談、椎名もた編Vol.2「嘘をつく」をお届けいたします。
【椎名もた Information】
2nd Album
『アルターワー・セツナポップ』
2013年10月9日発売
[初回生産限定盤]
UMA-9026~9027 ¥3,000円(税込)
※商品仕様 CD+DVD
三方背スリーブ+ブリキ缶ケース
カード型リリック集 12枚封入
[通常盤]
UMA-1026 ¥2,700(税込)
※商品仕様CD
ジュエルケース
Tracklisting
1.ピッコーン!!
2.MOSAIC
3.パレットには君がいっぱい
4.Q
5.ウソナキツクリワライ
6.forgot me not
7.シティライツ
8.Halo
9.ツギハギ
10.嘘ップ
11.かげふみさんは言う
12.LIVEWELL
13.vanilla flavor piece
◆椎名もた オフィシャルサイト
◆椎名もた オフィシャルTwitter
◆椎名もた 『アルターワー・セツナポップ』特設サイト
◆藤井丈司プロフィール
この記事の関連情報
【イベントレポート】“バリューギャップ問題”を考える「なぜ日本は失敗したのか」
【イベントレポート】<シンセの大学 vol.5>、「マニピュレーターもバンドの一員だという意識」
【レポート】<シンセの大学 vol.2>、「EDMは8ビートロックと似ている」
【レポート】<シンセの大学 vol.1>、「ポストEDMは、より演奏能力に重きが置かれる」
【レポート (後編)】<マニピュレーターズ・カンファレンス>、「シンセサイザーを“作る”ということ」
【レポート (前編)】<マニピュレーターズ・カンファレンス>、「シンセサイザーは一体どのように生み出されているのか?」
ボカロP・椎名もた、逝去。享年20歳
【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.4「歌詞がついたリードシンセ」
【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 <span>じん</span>編Vol.3「天才ギタリストに出会っちゃったギターヴォーカル」