【異次元連載】トム・ハミルトンが語るエアロスミスの真実 Vol.19「「これが最後になるかもしれない」という覚悟から生まれた異次元アルバム」
『ミュージック・フロム・アナザー・ディメンション!』には、トム・ハミルトンの作詞・作曲による「テル・ミー」という楽曲が収録されている。同楽曲が生まれた経緯などについては、この連載の第4回でも彼自身の口から語られているが、今回は曲作りというものについてもう少し具体的なことを訊いてみようと思う。たとえば彼は曲を作ろうとするとき、あらかじめスティーヴン・タイラーの声というものを想定しているのだろうか?
◆トム・ハミルトン画像
「いや、残念ながら僕にはそういうことができない。たとえばマーティ(・フレデリクセン)のような人たちにはそういう手法がとれる。彼にはスティーヴンの声に合わせて曲を書くことができるんだ。ただ、僕にはそれは難しいことだし、自分で聴いていて、いいと思えるものを書くしかないというのが正直なところだね。そこにスティーヴンが何かを加えてくれればいいな、彼のスタイルで料理してくれればいいな、と願うだけだよ。だから僕の場合、スティーヴンのために書いているというよりも、彼が歌ってくれることを願いながら作曲しているんだ。もちろんなかには使われなかった曲もあるし、いつかそれらを自分で歌うこともあるかもしれない。いつか日の目を見るといいなと思っている部分もあるよ。だけど僕の場合、それ以上に、スティーヴンに歌ってもらいたいという気持ちが強いんだ。そのためには、楽曲面だけじゃなく、歌詞も彼に合っていなければいけない。オーガニックに感じられるものじゃなきゃいけないんだ。それでこそ、彼が歌って然るべきものということになると思う」
そしてこの曲の歌詞について、トムは次のように語っている。
「これは失恋についての歌なんだ。これを初めて妻が聴いたとき、彼女から“一体何について歌っているの?”と訊かれたよ。彼女とは25歳のときに結婚してからずっと一緒だし、“なんで失恋の感情がわかるのよ!”と言っていたよ(笑)。僕は子供の頃から、いつだって寂しげな響きの曲というのが好きだったんだ。ビートルズで言えば「悲しみはぶっとばせ」とかね。あの曲はおそらく僕のお気に入りの10曲のうちに入るだろうな。子供の頃、大好きになって、楽器を弾いてみたいと思わせてくれた楽曲のひとつだよ」
少しばかりトム個人のルーツにも触れたところで、次は他の楽曲について話してもらおう。今作のデラックス・エディションのディスク2には、彼自身がヴォーカルをとった「アップ・オン・ザ・マウンテン」の他に、もうふたつの楽曲が収録されている。ジョー・ペリーが作詞・作曲し、自らヴォーカルも担当している「オアシス・イン・ザ・ナイト」と、スティーヴンがマーティ・フレデリクセンと共作した「サニー・サイド・オブ・ラヴ」だ。この2曲についてもトムは次のように語っている。
「「オアシス・イン・ザ・ナイト」は、ジョーが奥さんのことを歌った曲だと思う。彼はひとりでこれを書いてレコーディングしてきた。美しい出来だよね。素敵な曲だと思う。それから「サニー・サイド・オブ・ラヴ」は、どこかのタイミングでデモを作ってあったものなんだけど、アルバム用に取り組んだものではなかったんだ。いわば棚上げになっていた。だけど、せっかくいい曲だからこうしてリリースしてしまおうということになったんだ。今回のアルバムにはそういう曲が多々あったんだよ。もちろんそういった曲たちを次のために取っておくという選択肢もあるけども、むしろ自分たちとしては“もしかしたらこのアルバムが最後になるかもしれないんだから、すべて入れてしまおう!”といった気持ちのほうが強かった。もしも僕たちが賢いビジネスマンだったら、今後のために曲の半分はとっておいただろうけどね(笑)」
もちろんエアロスミスにはまだまだ新しい作品に取り組んで欲しいところだが、こうした覚悟を持ちながら、出し惜しみなく楽曲が詰め込まれたからこそ、彼らはこのアルバムとともに“次なる次元”へと歩みを進めることができたのだろう。さて、長らく続いてきたこの連載も、残すところあと1回。最終回にトムは何を語ってくれるのか? お楽しみに。
取材/文:増田勇一
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