<Fuji Rock Festival 2012>をふりかえって
素晴らしい雰囲気に包まれた2012年のフジロックは、個人的にも過去最高のフジロックのひとつとなった。フジロックと言えば雨の中で泥だらけになるの事が定番というイメージだが、2012年はわずかな小雨とそれほど酷くない程度の暑さの中で過ごせたとても快適な3日間だった。
例年どおり木曜日夜の前夜祭より開幕したフジロック。事前にあまり告知されていなかったが、レッドマーキーではグリーティングショーが行なわれ、夏らしい花火が苗場の空を彩った。前夜祭を最高に盛り上げてくれたアルゼンチンのバンド、オンダ・バガは魅惑的でアップビートなラテン系ミュージックを披露し、さらにRCサクセションの「デイドリーム・ビリーヴァー」を流暢な日本語で歌ってオーディエンスを大いに沸かせた。フジロック前にはあまり知名度の無かった彼らだが、この夜のパフォーマンスや毎日2回パフォーマンスを行っていたため、口コミで瞬く間に大評判となり、土曜日のオレンジコートは彼らのライヴを見ようとする人々で会場は満杯になった。
2012年はヘッドライナーのほぼ全てを英国勢が締めていた。私個人の感想だが、その中でもザ・ストーン・ローゼズのパフォーマンスが最も印象的だった。イアン・ブラウンは決して歌が上手いシンガーではないが、優れたギタリストのジョン・スクワイアによる巧みなリード、そしてリズム隊のマニとレニがしっかりと全体をまとめている彼らは、最近では稀有な素晴らしいロック・バンドだといえる。同意しない人もいるだろうが、ノエル・ギャラガー、そして特に平凡でやや疲れた感じのパフォーマンスを行なったビーディ・アイは、基本的にオアシス時代の名声にしがみついているだけだと筆者は思う。ノエルのライヴの方が多少まともではあったものの、明らかにどちらの観客もバンドの最新オリジナル曲よりオアシスの楽曲に大きい拍手喝采を送っていた。
懐古的な雰囲気だったザ・スペシャルズのパフォーマンスでは、オリジナル・メンバーのジェリー・ダマーズの不参加にがっかりしたファンも多かったようだ。しかし、バンドの素晴らしいスカ・ソングのライヴ演奏は確実に観客を魅了した。1979年にザ・スペシャルズのデビュー・アルバムをプロデュースしたエルヴィス・コステロも「ウォッチング・ザ・ディテクティヴズ」「パンプ・イット・アップ」「レディオ・レディオ」など初期ヒット曲や「キッズ・アー・オーライト」や「ピース、ラヴ&アンダースタンディング」といった昔のロック・ヒット曲を織り交ぜて会場を盛り上げた。
そして多くの人たちにとって2012年のフジロック最大の目玉だったレディオヘッド。バンドは期待を裏切らないムーディで意外性に富んだパフォーマンスを繰り広げた。セットでは評価がイマイチだった最新作『ザ・キング・オブ・リムス』収録の6曲、REMの「ジ・ワン・アイ・ラヴ」のカバーを一部、そして「カルマ・ポリス」や「イディオテック」などの人気曲を披露し、セカンド・アンコールでは「パラノイド・アンドロイド」が演奏され幕を閉じた。
フジロックはライヴにおけるアーティストの実力が試される場所である。もし、数曲を聴いてライヴが良くない場合、観客はさっさとその場を離れてしまう。そんな中で、非常に印象的なパフォーマンスを行なったのがバディ・ガイだ。とても長いキャリアを持つが、常に最高の演奏を提供してくれるミュージシャンだ。パフォーマンスでは「74・イヤーズ・ヤング」で歌詞中の74という部分を自身の年齢である76に変えて茶目っ気を披露し、オリジナル曲、ブルース・スタンダード、エリック・クラプトンやジミ・ヘンドリックスなど他のギタリストの曲のメドレーを披露した。隣のステージ、フィールド・オブ・ヘヴンからのサウンドがうるさかったにも関わらず、まったく動じない様子で演奏を続けていた。むしろ、観客に向けてジョークを飛ばしたり、即興をしたりとステージを心から楽しんでいる姿が印象的だった。偉大なエンターテイナー、そしてスーパー・ギタリストのバディ・ガイに敬意を表したい。
日曜日のグリーンステージに出演したギャラクティックも素晴らしいライヴを見せてくれた。早い時間帯にも関わらず大勢の観客が姿を現したのは意外だった。来日公演を何度もこなしている彼らは、時々ヴォーカリストを入れずにラッパーやニューオリンズ出身のハウスマン・デクロウ、ハウス界の歌姫ラトリス・ベネットなどをゲストに迎えてパフォーマンスを行なってきた。今回のフジロックのステージにはリヴィング・カラーのコリー・グローヴァーが参加、素晴らしいシンガーで、優れたフロントマンであることを証明してくれた。
最近の音楽の主流トレンドとなっているエレクトロニック・ダンス・ミュージック。そのジャンルでは、特に評価の高かったジェームス・ブレイクのほか、ジャスティス、カリブー、ファクトリー・フロアー、ザ・フィールド、ピュリティー・リング、そして日本のDJ Kentaroらが存在感を示した。
熱心な音楽ファンとしては、スマッシュの邦楽アーティストのセレクションにも称賛をおくりたい。キュートなアイドル、ボーイズ・バンド、K-POPは一切なし。日本の主要メディアから無視されがちな、ライヴができる本物のミュージシャンのみのラインアップを揃えた。ジャズ界のセンセーション上原ひろみ、サカナクション、井上陽水、toe、キャラヴァン、海外にもファン層を拡大中のマウンテン・モカ・キリマンジャロ、オーケストラと共演した日本が誇るインストバンドMONO、マウス・オン・ザ・キーズ、ROVO、ブンブン・サテライツ、スペシャル・アザーズ、クオシモード、モップ・オブ・ヘッド。そして、最高に素晴らしくクレイジーな渋さ知らズのパフォーマンスは圧巻だった。
フジロックの主軸は音楽であるが、草むらの中のアート・オブジェ、子供の遊び場、アフターアワー・エリアのパレス・オブ・ワンダー、ドラゴンドラ、さまよい歩くカッパたちや竹馬乗り、会場内のあらゆる所にスマッシュの粋なはからいがほどこされていた。素晴らしい音楽と心地良い空間を一体化させたフジロックは、日本が誇れる世界トップクラスのフェスティバルなのである。
キース・カフーン(Hotwire)
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