増田勇一が選ぶ『2月の10枚』

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もはや3月の最初の1週間が過ぎ去ろうとしているが、遅ればせながら2月に聴きまくった新作アルバム10選をお届けしたい。今回もかなりの豊作だった。前回と同様、かなり脈絡のない落差の大きなラインナップになっているのだが。

■VAN HALEN『A DIFFERENT KIND OF TRUTH』
■MARK LANEGAN BAND『BLUES FUNERAL』
■ROSE HILL DRIVE『AMERICANA』
■LANA DEL REY『BORN TO DIE』
■PAUL McCARTNEY『KISSES ON THE BOTTOM』
■浜田麻里『LEGENDA』
■いきものがかり『NEWTRAL』
■Alice Nine『“9”』
■BLEEDING THROUGH『THE GREAT FIRE』
■SUICIDAL ANGELS『BLOODBATH』

待望のVAN HALENの新作はおおむね各方面で絶賛されているようだが、実際これが、初めて聴いたその日から、長年親しんできた愛着深い作品であるかのような錯覚を誘う1枚。あまりにポジティヴな意見ばかりが多いと「それほどでもないんじゃない?」と冷めたふりをしたくなることもある筆者だが、これは素直に“好き”と認めるしかないだろう。ただし僕自身は「デイヴ派か、サミー派か?」といった議論には加わりたくない。何故ならばどちらも好きだし、双方は完全に別種の存在だと解釈しているからだ。どんな解釈をしているのかについては、現在タワーレコード各店の店頭で配布されている『bounce』誌341号で書かせていただいているので、興味のある方はそちらをご参照いただきたい。

マーク・ラネガンに関しては、もはや完全にこの歌声そのものに惚れてしまっているので完全降伏状態。是非、ここ日本でライヴが観たいところだ。巷で評判のラナ・デル・レイについては、ぶっちゃけ“一発屋”の匂いも感じるのだが、表題曲の効力がやはり半端ない。これまた語弊のある言い方だろうが“適度なニセモノ感”もまた魅力だ。ポール・マッカートニーによるアメリカン・スタンダードのカヴァー集には慌ただしい毎日のなかで安らぎをもらったし、この場では選外としたが、ロバータ・フラックによるBEATLESのカヴァー集『LET IT BE ROBERTA』や、シールによるカヴァー集第2弾、『SOUL 2』もよく聴いた。

国内アーティストの新譜では、浜田麻里の『LEGENDA』の濃厚さとそこから感じられる芯の強さには感銘を受けたし、Alice Nineも前作での挑戦/実験を完全消化したうえで現在なりの自然体を形にすることに成功している。いきものがかりについても、やはり楽曲のクオリティの高さと、各曲の魅力を最大限に引き出すアレンジの素晴らしさは素直に認めるしかない。

アメリカ本国でのリリースからはずいぶん時間が経過してしまったが、ROSE HILL DRIVEの第3作は王道的かつ実験的な痛快ロックンロール作品。ギリシャ出身の若手4人組、SUICIDAL ANGELSの第4作はかなりベタなスラッシュ・メタルだが、このルーツ丸わかりな潔いストレートさもまた痛快。今回のセレクションのなかで唯一、輸入盤からの選出となったBLEEDING THROUGHに関しては、もはや“信頼のブランド”になりつつあるという印象。正直、さほど驚きはないものの、説得力充分の1枚だ。

他にもYOUNG GUNSの『BONES』、SYCROPTICの『THE INHERITED REPRESSION』、ELUVEITIEの『HELVETIOS』などをよく聴いたが、ものすごく正直に白状すれば、2月にいちばんよく聴いていたのは、この月に取材したさまざまなアーティストたちのインタビュー音源だった。というわけで、ディープなロング・インタビュー満載の『MASSIVE vol.5』は3月10日発売。最後は宣伝でゴメンナサイ。しかしそれにしても「3月の10枚」は大変なことになりそうだ。すでにDEAD END、THE SLUT BANKS、そして摩天楼オペラは“当確”ということになりそう。そしてもちろん、ブルース・スプリングスティーンの新作も。

増田勇一
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