約40年の歴史を完全凝縮、鋼鉄神ジューダス・プリースト降臨に横浜熱狂
完璧なものに触れたときに味わうことのできる感動というのがある。が、完璧か否かといった価値基準を超えた次元での感動をおぼえたときにこそ、本当に「心が震えた」と言うことができるのではないだろうか。2月9日、パシフィコ横浜でのジューダス・プリーストのステージを観てそう感じた。
◆ジューダス・プリースト画像
演奏は、アンコールを含めて全21曲、約2時間20分にも及んだ。さきほど総括的パフォーマンスという形容をしたが、それは単純にファンにとって愛着深い鉄板曲ばかりが網羅されているという意味ではない。ショウの中盤ではデビュー・アルバムの『ROCKA ROLLA』に収録されていた「Never Satisfied」が登場。かと思えば現時点での最新オリジナル作品にあたる『NOSTRADAMUS』(2008年)からの「Prophecy」も披露される。後者はともかく、前者をライヴで聴いたのは、少なくとも筆者にとっては初めてのことだった。そう、“墓碑銘”として刻まれるべきは特定の時代の功績ではなく、このバンドの歴史すべてなのだ。ステージ上のロブ・ハルフォードは「ジューダス・プリースト流のヘヴィ・メタル」、「過去およそ40年間に及ぶ歴史」、「クラシック・メタル」といった言葉を口にしていた。このバンドがこれほどの長きにわたって第一線に君臨し続け、メタル・ゴッドとして崇められてきたのは、彼らが最初から自分たちならではのスタイルを持ち、それを研ぎ澄ますために“守り”ではなく“攻め”の姿勢を貫き、さまざまな時流のなかでの自分たちのあり方といったものを意識/模索しながら大胆で実験的なアプローチを重ねてきたからに他ならない。単なる伝統継承だとか、再現芸術としての完璧さの追求とは違うのだ。
書きたいことは他にもたくさんあるのだが、まだ始まったばかりのこのツアーについて、過剰にネタバレになることも避けておきたい。が、ひとつ付け加えておきたいのは、突如の脱退によりファンに衝撃を与えたK.K.ダウニングの穴を埋めるべく起用されたリッチー・フォークナーの好演ぶりだ。ときにザック・ワイルド、あるいはダグ・アルドリッチを思わせもする雰囲気を持った彼の姿を見れば、まだまだこのバンドの“未来”を信じたくなってくる。そう、実際、「大規模なツアー活動からの撤退」がそのまま歴史の終幕を意味するわけでは、かならずしもない。ここですべての歴史を自らの手により墓碑銘に刻むことを経たうえで、彼らは新たな時代を迎えることになるのかもしれない。が、どうあれ、今回のような画期的ライヴを味わうことができる機会が二度と訪れないことだけは確かなのだ。バンドは今後、神戸、広島、名古屋の各地を巡演し、2月17日、このツアーは東京・日本武道館にてクライマックスを迎えることになる。ヘヴィ・メタルを愛するすべての人たちに、その場に集結して欲しいものである。
そして、最後にひとつだけ補足を。去る1月25日に初期4アイテムの紙ジャケ新装盤がビクターから発売されているのに続き、2月15日にはソニーより、『SIN AFTER SIN』(1977年)から『PAINKILLER』(1990年)に至るまでの12作品が再リリースされる。新たなリマスターを経たこれらの音源は、関係者によれば「よりオリジナルの音源に忠実な形のまま、飛躍的に音質が向上」しているとのこと。伝説的ライヴの目撃者となるばかりでなく、こうした作品群にもご注目いただきたい。
pix by Takumi Nakajima
増田勇一
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