lynch.、硬派なへヴィ・ロックと美しく艶やかなメロディのメジャー・デビュー・アルバム『I BELIEVE IN ME』特集

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メジャー・デビュー・アルバム『I BELIEVE IN ME』2011.6.1 リリース

INTERVIEW

――なんと言っても、やはりバンド名が衝撃的だと思うんです。2004年の結成時に、なぜ、ここまで攻撃的な命名をなさったんでしょう?

玲央(G):そ確かに暴力的な意味合いに取られることが多いでしょうけど、付けた本人としては、そういう意図はなくて。この“lynch.”という字面を見たときに、言葉本来の意味の前に僕らのことを思い起こしてもらえるくらい、強烈な個性を持って音やライヴを発信していこうっていう決意の証――いわば足枷ですね。日常でlynch.という言葉が使われるようになったら、僕らの勝ちかなと。

葉月(Vo):提案されて、まず“激しそうだな”って感じたから、僕は一発OKでしたよ。激しいものを軸に、自分が“いい”と思える曲を作って発表していきたい。考えていたのは、ただ、それだけだったんですよね。だから、lynch.には全然激しくない曲もありますし、ホントに激しいだけの曲もある。

玲央:その葉月の作る曲にギターをつけたいっていうのが、lynch.というバンドの始まりだったんです。要するに、やりたい音楽ありきで集めたメンツではなく、このメンバーで作る音楽がlynch.ですと。その想いはメンバーが増えた今も変わらないですね。

――まずは2006年に悠介さんが加入されて。lynch.の特色であった激しさの中に、以降、さらなる彩りが生まれた印象はあります。

悠介(G):ステージでの気迫だったり、刺々しさだったり。名古屋のシーンでlynch.はズバ抜けた存在だったから、正直、最初は一歩引いていた部分があったんですよ。そこで自分の色を出せるようになったのが、2008年の「an illusion」(シングル「ADORE」収録)からですね。もともと両親が二人とも洋楽好きで、親父はKISSとかのUS、お袋はUKと二分されていたところ、僕はお袋のほうに行ったんです。U2の『ヨシュア・トゥリー』を初めて聴いたときに“すごく綺麗だな”と衝撃を受けて、邦楽ではLUNA SEAが好きでした。そのへんをルーツとする自分の持ち味は、今回の『I BELIEVE IN ME』でも自然に盛り込めたと思ってます。

明徳(B):僕が加入した2010年末の段階では、もちろんlynch.っていうバンドは完全に確立していて、すごく面白いバンドだと感じてました。洋楽で言えばコーンから、ジャック・ジョンソン、ボブ・マーリーと何でも好きだったんで、激しいだけじゃなく意外にいろんなことやってるlynch.は、魅力的に映ったんですよ。

――では、他の皆さんの音楽ルーツも教えていただけますか?

晁直(Dr):昔、名古屋で活動していたMerry Go Roundがすごく好きで、ドラムのKYOさんの叩き方は自然と真似してましたね。1リスナーとしては、洋楽のラウド・ミュージックは昔から聴いていて、変わらず好きなのがSTATIC-X。最近は日本のポップスもよく聴いてますけど(笑)。

玲央:僕、ギタリストで一番影響を受けているのは瀧川一郎さんですね。なのでD'ERLANGERを入口に、一時期はゴシックとかニューウェイヴとかにもハマッていて、実は過去に打ち込みのゴシック・バンドをやってたこともあるんですよ。いわゆるラウド・ミュージックも、もちろん好きです。

葉月:若いころに聴いていたのは黒夢、LUNA SEAなんですけど、恐らく音楽的に影響を受けているのは2000年前後に一世を風靡したラウド・ロックですね。コーン、リンプ・ビズキット、エヴァネッセンス、リンキン・パークあたり。でも、個人的に外せないのはパンテラ、スキッド・ロウ。あとB'zですね。僕、J-POPも大好きなんですよ。WANDSとかのビーイング系も、よく聴いてました。

――なるほど。今、硬軟とり混ぜた皆さんの嗜好を伺って、納得がいきました。lynch.のサウンドって洋楽のラウド・ロックを彷彿とさせながら、実はすごくポップなんですよね。だから『I BELIVE IN ME』も、“lynch.史上、最もハード、パワフル、破壊的”というキャッチ・コピーを踏まえて聴くと一瞬疑問を感じつつ、過去作に比べると確かに楽曲スピードもシャウトの比率も増えているという。

葉月:そうなんです。アルバムを聴いた人からは、よく“そんなに激しくないじゃん”って言われるんですけど、恐らくみんなの言う“激しい”って“キャッチーでないもの”っていうニュアンスなんですよね。でも、僕はキャッチーでないものは絶対にやりたくないんですよ。全編シャウトの曲だろうが、ギターのフレーズなりリズムなり、何か耳に残って覚えていられる音楽じゃないと作りたくない。そういう意味ではキャッチーでポップなのかもしれないけれど、僕の中ではBPMもクソ速い曲ばっかりだし、シャウトもテンコ盛りで、可能な限り“激しい”方向に幅を狭めてるつもりなんです。

玲央:一般的に“激しい”っていうと、濁ってるイメージしかないんですよね。でも、音をよりクリアに伝えていく作業をしていくと、要ると要らないものが整理されて、すごく上品に聴こえてくる。今回だって、実際に鳴ってる音はうるさいんですよ。ただ、同時にキャッチーでもあるというだけで、逆に、その二つを両立させられたのはスゴイなと、自分たちでも思いますね。

晁直:メジャー環境のレコーディングということで、マイクの数も全然違っていて(笑)。それで仕上がりの音が、よりクリアになったのもあるだろうし。

悠介:自分にはない知識を持っているスタッフがついてくれたことで、すごく勉強にもなりました。届く範囲が広がるということで、自分の付けたフレーズが聴き手の胸にどれだけ刺さってくれるか?っていう意識を持って制作にあたったのも、個人的には新しいところですね。なので、届いてくれたら嬉しいです。

――「LIE」のディレイ・フレーズなんて、まさに悠介さん節とも言える透明感と艶めかしさですよね。ところで、全曲の作詞・曲を手掛けた葉月さんからすると、今まで以上に激しい作品になったのは偶然の産物なのか、それともメジャー・デビューに対するこだわりの表れなのか。どちらなんでしょう?

葉月:こだわってない予定だったんですけど、こうしてインタビューを数多く受けているうちに、すごくこだわってたことに気づきました(笑)。

――というと?

葉月:せっかくメジャーに行って、いろんな人に自分たちの音楽が届くんだから、ロックに興味の無い人を目覚めさせたいんです。テレビから大量に流れている優しい音の中に、ポンと刺激的なものが現れたら、“なんだ、コレ”と無視されるか衝撃を受けるか。そのどちらかだと思うんで、後者の可能性に賭けたかった。リード曲に高速ビートでシャウト満載の「I BELIEVE IN ME」を選んだのも、だからなんです。やっぱりリード曲がいちばん人の耳に触れるから、いちばん“え!?”と思われるものにしようと。

明徳:そこはメンバー的にも納得でしたね。あとは、今回のレコーディングで最初に録って完成した曲ということで、個人的にも思い出が詰まった曲になりました。僕にとっては、lynch.に加入して一発目の曲になりますから。

――そんな規格外にアグレッシヴなリード曲を擁したアルバムに、「THIS COMA」のような音数少なく、80年代の匂いがする曲が入っているのが、またスゴいなと。

玲央:ニューウェイヴですよね(笑)。

晁直:ちょっと古い。どちらかというと、これは自分の根底にあるドラム・スタイルを出した曲ですね。以前は僕、無機質で淡々としたドラミングを好んで意識していたんですよ。でも、他人のステージを観たりしていくうちに、1年くらい前から“激しいドラムってカッコいいな”と考えが変わっていったんで。

悠介:最初、「THIS COMA」はギターの入っていない、完全に打ち込みだけの状態だったんです。そういう形でデモを渡されたのは初めてだったんで、“任されたんだ”という想いもありつつ、ちょっとプレッシャーもありましたね。色付けによってはダサイ曲にもなってしまうから、葉月くんに求めるイメージを聞きつつ、組み立てていって。僕的に思い出深い曲になりました。

葉月:僕の中のイメージでは、lynch.のギタリストって、激しいリフよりも空気感のあるフレーズを考えさせたほうが強いんですよ。だから、完全に雰囲気系だろうと思った「THIS COMA」は、あえて最初から何も付けずに任せたんです。

玲央:そういう意味では、いろんな作り方に挑戦できたアルバムでしたね。「BEFORE YOU KNOW IT」とかも、あえてループで構成しながら、録る直前に“ギター・ソロを入れてほしい”と葉月から言われて、その場でアコギのフレーズを考えたり。アレンジや構成をガチガチに決めて録った曲もあれば、現場でアイディアを出していく曲もあったりで、総じて面白いレコーディングでした。

――楽曲の色合いとしても、「-273.15℃」や「TIAMAT」のように激烈なシャウトやスクリームで押す曲から一転、「BEFORE YOU KNOW IT」では吐息混じりの歌唱で壮大な世界観も出せる。それはlynch.の大きな武器ですよね。

葉月:でも、この曲、最初は入れたくなかったんですよ。自分で作っておいて上手く歌えなかったんで、“もうナシにしましょうよ”って言ったら、“一回、囁き系で歌ってみてよ”って玲央さんに言われて。

玲央:だって、メロディがいいからボツにするのはもったいないと思ったし、ディレクターも“葉月、いいメロつけてきたんだよ”って言ってたから! 結果、成功したし、こういう綺麗な歌があることによって、攻撃的なシャウトと互いを引き立て合うこともできる。1曲単位で見ても、クリーン・ヴォーカルだけで構成できるところにシャウトが投入されたり、それもlynch.の個性ですよね。

――今回なら「SCARLET」が好例ですね。また、2010年インディーズで発表したシングルが、新たなアレンジで収録されているのも、ファンには見逃せないところかと。

明徳:僕にとっては加入前に1リスナーとして聴いていた曲だったんで、それを自分が弾いてCDになるのは嬉しかったですね。特に「A GLEAM IN EYE」は、プリプロ段階から良くて!

玲央:これをね、最後に持って来たのが……我ながらズルイんですよ。

――そうなんです! シングルでは歪みとシャウトで攻めていた間奏が、一転メッセージ性に満ちた泣きのパートになっていて。やはりlynch.はツンデレだったなと。

玲央:11曲ツンツンしてて、最後にホロッとさせるっていう(笑)。「A GLEAM IN EYE」ってライヴで最後の最後にやると、すごく感動的にハマる曲なんだっていうのが、リリースした後から見えてきたんですよ。

葉月:2010年4月のリリース時、ポップな曲なんでlynch.らしい激しさも出さないと!っていうことで作ったパートだったせいか、ライヴのたびに“ここ、もったいないな”と思うようになってたんですね。そこで変に目が醒めてしまうというか。それで“作り直しませんか?”って提案したら、上手いこと出来たんで、収録を決めて。この曲に出てきた“ねがい”っていうワードは、その次のシングルの「JUDGEMENT」(2010年9月発売)やSEに続いてアルバムを幕開ける「UNTIL I DIE」にも共通していて、僕の中では全部繋がっているんです。だから「UNTIL~」では、“まだ歌っているよ”って言っちゃってるんですよね。

――そういった仕掛けが象徴するように、このアルバムって曲に込めた“気持ち”が今までになく、強く浮かび上がっている作品な気がするんですよ。つまり、新たなるスタートへの決意と、その先にある景色を共に見ようというメッセージ。そんな幸福が永遠に続くことを願いながらも、いわゆる“終わり”だったり、今作で象徴的に使われているところの“死”は必ず訪れるからこそ、消えそうなものや失ったものへの想いは募るし、今の一瞬を大事にしたい。そんな想いが全編に貫かれていて、“あなた”への想いを描いた中盤などでは、その断ち切れない想いと楽曲の艶っぽいムードが上手く結びついている。

葉月:どの曲も、結局テーマは全部同じなんですよね。というか、今回、歌詞を書きながらイヤになったくらい、僕の中にはそれしかない。きっと今までの曲も全部そうだったんだろうけど、昔はメロディに対する言葉の乗り方の気持ち良さや字面の美しさを重視して、絵を描くような感覚で書いていたぶん、意味の見えにくい歌詞になっていた。それが今は比較的わかりやすい言葉で書くようになってきたから、より強く感じられるというだけの話だと思うんです。そのテーマを集約したのが『I BELIEVE IN ME』というタイトル・ワードで、込めた意味的には直訳そのまま“自分を信じる”と。全曲がその言葉に通じる内容になっていたし、音源にせよライヴにせよ、グッズひとつに到るまで、すべて自分たちで決めてきたlynch.というバンドの活動スタンスを、このタイミングでタイトルにしてみるのもいいかなぁと思ったんです。

玲央:その信念の下、このバンドが長く続いてほしいと願っているし、あとはロック・バンドとして、本当にライヴを観てほしいんですね。そこで好きなように楽しんでもらって、誰も怪我なく帰ってもらえたら、もう、言うことないです。

晁直:特に『I BELIEVE IN ME』の曲は、叩いていても楽しいんですよ。結構お客さんとキャッチボールできる曲が多々あるんで、夏のワンマン・ツアー<THE BELIEF IN MYSELF>は楽しみなところですね。

――ライヴになるとlynch.はギター隊のコーラス・アンサンブルも魅力的なので、そこも楽しみです。

悠介:しかも今回から、明徳という新たなシャウターも加わってるんで。

明徳:はい。「TIAMAT」とか、「I BELIEVE IN ME」のサビとか。

葉月:曲の中でも美味しいところをね(笑)。絶対に今まででいちばん激しいツアーになるから、覚悟して来い!って感じです。でも、今、最も望んでいることは、ロックにアンテナ張りまくりな人だけじゃなく、全然音楽に興味のない人にも、とにかく一回聴いてほしいってことで。それで中高生の若い子たちに、“こんなカッコいい音楽があるんだ。俺もやりてぇ!”って思わせられたら、最高に嬉しいですね。lynch.がロック・キッズへの目覚めのキッカケになること――それが僕の、いちばんの“ねがい”です。

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