【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】 第25回『Robbie Robertson / How To Become Clairvoyant』~現代のアナログ盤を聴く
開封一番、まずはジャケットの大きさの迫力にドキッ。日本盤CDの先行発売以来、CDショップに行ってはCDサイズのジャケットをよく眺めていたので、手元に届いたレコードサイズのジャケットを見て、大きなジャケットのよさをあらためて感じました。
このアナログ盤の仕様は、180g重量盤。そして12曲入り(日本盤に収録されているボーナストラックは無し)で、収録時間が特に長いわけではないのにもかかわらずLP2枚組、片面3曲ずつのカットになっています。これらはもちろん音質を重視してのこと。一応、ここではごく簡単に説明しておきます。
まず180gという重量。基本的にレコードの盤というものは、それなりに重い方が回転の安定性などの理由から理想的な音質で再生されると言われていますが、重すぎるとプレーヤーに負荷がかかりすぎてしまいます。そこで、プレーヤーに負荷をかけすぎずに回転が安定する十分な重さが180gくらいと言われているのです。
また、LP2枚組となっているのは、片面3曲ずつにして片面当たりの収録時間を短くすることによって、レコードの溝の幅と、溝と溝の間隔を、広く贅沢に使えるという理由からでしょう。レコード盤の、溝を刻むことのできる限られたスペースに、例えば5分×6曲で30分の溝をぐるぐる刻むよりも、5分×3曲で15分の溝をぐるぐる刻む方がずっと広い幅で溝を刻むことができるというわけです。そしてその溝を走るレコード針の振れる幅の大きさが音の大きさに繋がるので、溝の幅と、溝と溝の間隔を広くとることができればその分安定した大きな音を刻めるということになるのです。
この作品は曲が比較的長く、1曲平均5分位あるため、もしLP1枚に収録するとなると片面に30分位収録しなければなりません。LPで片面30分というのはかなり長い方で、その長さの溝を刻むためには、溝の幅は狭く、溝と溝の間隔も詰めて刻まなければならなくなり、それによって音質が落ちてしまうことが懸念されます。せっかくのアナログ盤の音質が落ちてしまっていては、この現代にわざわざアナログ盤を発売する意味が薄れてしまうので、その音質を重視するためにLP2枚組に踏み切ったのではないかと思います(これらの話は、レコードの仕組みを知ることが理解への一番の近道だと思うので、もし興味のある方はそのレコードの仕組みを調べてみてください。ここではあくまで、何となく雰囲気がわかればと思い大雑把な説明をさせていただきました。)
しかし片面3曲で15分というのは、いざ聴いてみるとすぐ裏返さなければならない短さで、正直言ってちょっと面倒臭いと感じるのも事実です。曲順に関しても、製作者としては恐らくまずはCDでのリリースが念頭にあるはずなので、レコード時代のようなA面B面の考え方(レコード時代には裏返すことを考えた上の曲順になっていました)ではなく、12曲通して聴くことを考えての曲順にしているのだろうと思います。それがLP2枚組で3曲聴く度にレコードを裏返さなければならないとなると、12曲通しての作品として楽しむのには少なからず支障が出てしまうわけです。
僕はミュージシャンとして、作品を作る側として、アルバムの曲順には大きな意味があると思っていますし、実際にアルバム製作時には曲順にも意味を込め、曲間の秒数にまでこだわっています。それだけに、CDでのリリースを念頭に製作したアルバムのアナログ盤化は簡単なものではないと思うのです。
ただ、このアナログ盤には、以前この連載(第16回参照)でも触れたようなMP3のダウンロードがついているので、携帯音楽プレイヤーに入れて持ち歩きたいときだけでなく、作品を通して、盤を裏返すインターバルを省いて聴きたいときにもMP3で聴けばいいのかもしれません。しかしMP3の音質は、アナログ盤とのそれとはあまりにも違いすぎるのが現実です。
音質をとるか、作品全体の流れをとるか。
やはりアナログ盤の音質で作品全体の流れを損なわずに聴きたいというのが本音ですから、これは現代のアナログ盤につきまとう永遠のテーマなのかもしれません。
オリ盤探求の旅はまだまだ続くのであります。
text by 鈴木健太(D.W.ニコルズ)
◆連載『だからオリ盤が好き!』まとめページ
◆鈴木健太 Twitter(D.W.ニコルズ)
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「イイ曲しか作らない」をモットーに、きちんと届く歌を奏で様々な「愛」が溢れる名曲を日々作成中のD.W.ニコルズ。
2005年9月に、わたなべだいすけ(Vo&Ag)、千葉真奈美(Ba&Cho)が中心となり結成。
その後、鈴木健太(Eg&Cho)、岡田梨沙(Drs&Cho)が加わり、2007年3月より現在の4人編成に。
一瞬聞き返してしまいそうな…聞いた事がある様な…バンド名は、「自然を愛する」という理由から、D.W. =だいすけわたなべが命名。(※C.W.ニコル氏公認)
2ndアルバム『ニューレコード』
2011年1月26日リリース
曲目:01.バンドマンのうた 02.あの街この街 03.一秒でもはやく 04.チャールストンのグッドライフ 05.大船 06.風の駅 07.HAVE A NICE DAY! 08.2つの言葉 09.レム 10.Ah!Ah!Ah! 11.beautiful sunset
【CD+DVD】
価格:3,000円
品番:AVCH-78025/B
【DVD収録内容】“2 MUSIC SHOW! & 2 MUSIC VIDEO”
【CD only】
価格:2,500円
品番:AVCH-78026
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