スレイヴス・トゥ・グラヴィティ、トシ・オガワ最新インタビュー【後編】
去る3月23日、実に約3年ぶりの新作ということになるセカンド・アルバム、『アンダーウォーターアウタースペース』が日本先行リリースされたばかりのスレイヴス・トゥ・グラヴィティ。その一員である日本人ベーシスト、トシ・オガワのインタビュー【後編】をお届けすることにしよう。今回はまず、この摩訶不思議なアルバム・タイトルについて。原題はそのまま『UNDERWATEROUTERSPACE』で、隙間を空けずに並んでいる4つの単語を判読すれば“水面下の外的宇宙”といった意味合いが浮かび上がってくるわけだが、この表題自体はバンドのフロントマンを務めるトミー・グリーソン(vo、g)の発案によるもので、彼自身の体験とも関わりがあるのだという。
◆「Silence Now」PV映像&スレイヴス・トゥ・グラヴィティ画像
「タイトルについては候補がたくさんあがっていたんですけど、見た目とか響きとかイメージとかを考えながら、解釈の振り幅のあるものにしたかったんですね。このアルバム自体にもそういうところがあると思うんで。だから結果的にはこの音を言い当てたものになっていると思う。ただ、その発端になったのはトミーの休暇中の経験で。今回のレコーディングは正味3週間で終わったんですけど、最初の2週間が過ぎた頃に1週間の休みがあったんです。そのときにトミーはマヨルカ島に行ってハネを伸ばしていて。ある種の毒抜きみたいな感じで、毎日ぼーっと海辺で過ごしていたらしいんです。そんなある日、泳いでいた彼は、自分の下をクラゲが泳いでいるのを発見して…。クラゲってなんだか、地球上に住む生物には見えないようなところがあるじゃないですか。しかも海の底には、人間にとって“馴染みがあるようでいて、まったくわかっていない世界”というのがある。そんなことを彼はふと思ったらしく、そこでこの4つの単語が繋がったそうなんです」
この表題がアルバム自体の幅広さと不思議な感触とを物語っているのと同様に、スレイヴス・トゥ・グラヴィティという呼称もまた、このバンドの性質を象徴しているように思う。直訳すれば“重力の奴隷たち”ということになり、抗うことが不可能なものに対しての不自由さのようなものを連想させるところがあるが、実がこの言葉が意味しているのは、“地に足の着いた状態”。そこにはメンバーたちの、「時流や、それを追いかけようとするメディアに振り回されたくない」という気持ちも反映されている。前身にあたるTHE GA-GA'S当時には、かつて一世を風靡したダークネスのフォロワーと見なされることも、“新世代ヘア・メタル”と呼ばれたこともあったという彼ら。このスレイヴス・トゥ・グラヴィティが始動してからも、彼らの音楽は“ニュー・グランジ”などと形容されてきたが、トシ自身は「自分たちとしては、いかなる枠組みにも属しているつもりはない」と言う。実際、正統派メタルでも、あからさまにティーンエイジャー層を狙った風情をしているわけでもないこのバンドには、ある種、“どっちつかず”といった受け止め方をされている部分もあるらしい。しかし彼は、次のようにも語っている。
「たとえばこっちのコンサート・プロモーターたちも、僕らをどのバンドと一緒にツアーさせるべきかで悩むことがあるようだし、“メタル・フェスに出すべきなのか、あるいはもっとポップ寄りのフェスに出たほうが効果的なのか?”みたいな部分では結構もめるみたいなんですよ。だけど実際、僕らはメタル・バンドでもポップ・バンドでもない。逆に言えばどちらの要素も持っている。だからむしろ、全部の場所に出て行けばいいと思っているんで」
さて、繰り返しになるが、トシは正真正銘の日本人であり、単身渡英した1999年以来、ずっと英国暮らしを続けている。「逆にもう日本では暮らせないんですよ。住民票ももうないし、こっちの永住権を取得してしまったんで」と笑う彼だが、もちろん日本を離れる決意が簡単なものだったわけではない。彼は当時から英語が堪能だったわけでもなければ、あらかじめ英国に何らかの後ろ盾を得ていたわけでもないのだ。
「日本でも音楽活動はしていたんですけど、なんだか“このまま続けていたら後悔するんじゃないか?”という思いが常々あって。ぬるま湯みたいな環境に慣れきって、それに甘えてしまってた部分があったように思うんですよ。そこで敢えて、本気でイチからやり直してみたいと思ったんです。無謀な話ですよね(笑)。だけど、あのときに決断して良かったなと思う。そうでなかったらトミーたちと出会うこともなかったし、このバンドも始まっていなかったわけで。当初はもちろん不安のほうが大きかったけど、僕としては日本に“保険”みたいなものを残しておきたくなかった。逃げ場を作りたくなかったというか。だから心を決めたそのときから、こっちに骨を埋める覚悟でした」
とはいえもちろん、彼は日本人としてのアイデンティティを捨て去ってしまったわけではない。現在の彼にとって、いちばん実現させたいことのひとつが日本での凱旋ツアーであることは読者にも容易に察しがつくことだろう。
「日本にはもちろん特別な思いがあります、やっぱり日本人ですからね。こっちで頑張ってみたいという夢を追うワガママを聞き入れてくれた親に対してもすごく感謝の気持ちがあるし、お礼を言いたいし…。その気持ちを、こうして作品で表すことができるというのは、僕にとってすごく重要なことで。こうしてアルバムが日本でリリースになったことも嬉しいし、それ以上に実現させたいのが日本公演で。今回の日本リリースが決まったときから“今度こそなんとか実現できないものか?”って、みんなで話してるんです。実際、僕とトミーはTHE GA-GA'S時代に日本でのライヴを経験していて、トミーもそのときのことが忘れられないみたいで。今も日本からたくさんの応援の声が届いているし、それに対して直接、“ありがとう!”と言わなくちゃいけないと思っているし。その気持ちをいちばんしっかりと示せるのは、ライヴだと思いますからね。とにかく一刻も早く実現させたい。それが僕らの本心なんです」
最後に、そんな彼からのメッセージを。いつか将来、海外で音楽活動してみたいと考えている読者もなかにはいるはずだが、そうした“後輩たち”に向けてのトシの言葉をもって、【前編】【後編】と2回にわたってお届けしたこのインタビューを締め括ることにしたい。
「僕なんかに言えることがあるとすれば、“何か疑問があるなら、まずは試してみようよ”ということ。たとえば食べものとかについても、いわゆる“食わず嫌い”というのが僕は嫌いなんです。食べてみたうえで嫌いだというのなら納得できますけど。だからもしも僕と同じような夢を持っている人がいるんだとしたら、“自分なんかがアメリカやイギリスに行ってみたところで……”と弱気になる必要は全然ないと思う。実際にやってみないとわからないし、“夢”というのは抱えているだけじゃ何も始まらないんだから」
増田勇一
◆スレイヴス・トゥ・グラヴィティ・オフィシャルサイト
◆スレイヴス・トゥ・グラヴィティ・レーベルサイト
◆「Silence Now」PV映像&スレイヴス・トゥ・グラヴィティ画像
「タイトルについては候補がたくさんあがっていたんですけど、見た目とか響きとかイメージとかを考えながら、解釈の振り幅のあるものにしたかったんですね。このアルバム自体にもそういうところがあると思うんで。だから結果的にはこの音を言い当てたものになっていると思う。ただ、その発端になったのはトミーの休暇中の経験で。今回のレコーディングは正味3週間で終わったんですけど、最初の2週間が過ぎた頃に1週間の休みがあったんです。そのときにトミーはマヨルカ島に行ってハネを伸ばしていて。ある種の毒抜きみたいな感じで、毎日ぼーっと海辺で過ごしていたらしいんです。そんなある日、泳いでいた彼は、自分の下をクラゲが泳いでいるのを発見して…。クラゲってなんだか、地球上に住む生物には見えないようなところがあるじゃないですか。しかも海の底には、人間にとって“馴染みがあるようでいて、まったくわかっていない世界”というのがある。そんなことを彼はふと思ったらしく、そこでこの4つの単語が繋がったそうなんです」
この表題がアルバム自体の幅広さと不思議な感触とを物語っているのと同様に、スレイヴス・トゥ・グラヴィティという呼称もまた、このバンドの性質を象徴しているように思う。直訳すれば“重力の奴隷たち”ということになり、抗うことが不可能なものに対しての不自由さのようなものを連想させるところがあるが、実がこの言葉が意味しているのは、“地に足の着いた状態”。そこにはメンバーたちの、「時流や、それを追いかけようとするメディアに振り回されたくない」という気持ちも反映されている。前身にあたるTHE GA-GA'S当時には、かつて一世を風靡したダークネスのフォロワーと見なされることも、“新世代ヘア・メタル”と呼ばれたこともあったという彼ら。このスレイヴス・トゥ・グラヴィティが始動してからも、彼らの音楽は“ニュー・グランジ”などと形容されてきたが、トシ自身は「自分たちとしては、いかなる枠組みにも属しているつもりはない」と言う。実際、正統派メタルでも、あからさまにティーンエイジャー層を狙った風情をしているわけでもないこのバンドには、ある種、“どっちつかず”といった受け止め方をされている部分もあるらしい。しかし彼は、次のようにも語っている。
「たとえばこっちのコンサート・プロモーターたちも、僕らをどのバンドと一緒にツアーさせるべきかで悩むことがあるようだし、“メタル・フェスに出すべきなのか、あるいはもっとポップ寄りのフェスに出たほうが効果的なのか?”みたいな部分では結構もめるみたいなんですよ。だけど実際、僕らはメタル・バンドでもポップ・バンドでもない。逆に言えばどちらの要素も持っている。だからむしろ、全部の場所に出て行けばいいと思っているんで」
さて、繰り返しになるが、トシは正真正銘の日本人であり、単身渡英した1999年以来、ずっと英国暮らしを続けている。「逆にもう日本では暮らせないんですよ。住民票ももうないし、こっちの永住権を取得してしまったんで」と笑う彼だが、もちろん日本を離れる決意が簡単なものだったわけではない。彼は当時から英語が堪能だったわけでもなければ、あらかじめ英国に何らかの後ろ盾を得ていたわけでもないのだ。
「日本でも音楽活動はしていたんですけど、なんだか“このまま続けていたら後悔するんじゃないか?”という思いが常々あって。ぬるま湯みたいな環境に慣れきって、それに甘えてしまってた部分があったように思うんですよ。そこで敢えて、本気でイチからやり直してみたいと思ったんです。無謀な話ですよね(笑)。だけど、あのときに決断して良かったなと思う。そうでなかったらトミーたちと出会うこともなかったし、このバンドも始まっていなかったわけで。当初はもちろん不安のほうが大きかったけど、僕としては日本に“保険”みたいなものを残しておきたくなかった。逃げ場を作りたくなかったというか。だから心を決めたそのときから、こっちに骨を埋める覚悟でした」
とはいえもちろん、彼は日本人としてのアイデンティティを捨て去ってしまったわけではない。現在の彼にとって、いちばん実現させたいことのひとつが日本での凱旋ツアーであることは読者にも容易に察しがつくことだろう。
「日本にはもちろん特別な思いがあります、やっぱり日本人ですからね。こっちで頑張ってみたいという夢を追うワガママを聞き入れてくれた親に対してもすごく感謝の気持ちがあるし、お礼を言いたいし…。その気持ちを、こうして作品で表すことができるというのは、僕にとってすごく重要なことで。こうしてアルバムが日本でリリースになったことも嬉しいし、それ以上に実現させたいのが日本公演で。今回の日本リリースが決まったときから“今度こそなんとか実現できないものか?”って、みんなで話してるんです。実際、僕とトミーはTHE GA-GA'S時代に日本でのライヴを経験していて、トミーもそのときのことが忘れられないみたいで。今も日本からたくさんの応援の声が届いているし、それに対して直接、“ありがとう!”と言わなくちゃいけないと思っているし。その気持ちをいちばんしっかりと示せるのは、ライヴだと思いますからね。とにかく一刻も早く実現させたい。それが僕らの本心なんです」
最後に、そんな彼からのメッセージを。いつか将来、海外で音楽活動してみたいと考えている読者もなかにはいるはずだが、そうした“後輩たち”に向けてのトシの言葉をもって、【前編】【後編】と2回にわたってお届けしたこのインタビューを締め括ることにしたい。
「僕なんかに言えることがあるとすれば、“何か疑問があるなら、まずは試してみようよ”ということ。たとえば食べものとかについても、いわゆる“食わず嫌い”というのが僕は嫌いなんです。食べてみたうえで嫌いだというのなら納得できますけど。だからもしも僕と同じような夢を持っている人がいるんだとしたら、“自分なんかがアメリカやイギリスに行ってみたところで……”と弱気になる必要は全然ないと思う。実際にやってみないとわからないし、“夢”というのは抱えているだけじゃ何も始まらないんだから」
増田勇一
◆スレイヴス・トゥ・グラヴィティ・オフィシャルサイト
◆スレイヴス・トゥ・グラヴィティ・レーベルサイト
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