【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】 第13回 心に染み入る『On The Beach』

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D.W.ニコルズの鈴木健太です。


すっかり秋らしくなってきた今日この頃。秋晴れの朝に、窓を開け放して濃い目の珈琲を飲みながらレコードを聴く。秋の夜長に、ウイスキーをちびちび飲みながらレコードを聴く。

A面に針を落とす。ゆっくりと好きな飲み物を飲みながら聴いていると、次の一口を飲むのを忘れるほど聴き入ってしまっていたりもします。そしてあっという間にレコードの片面は終わってしまいます。B面はそのままじっくり聴き込むのもよし、まどろみながら聴くのもよし、何か作業しながら聴くのもよし…。

忙しい日々の中に、ほんの少しでもこんな時間を作るだけで、なんと心が穏やかになることか。そしてそうしているうちに静かに静かに気力がみなぎってくるのです。

暑い夏には男臭いサザンロックやスワンプロック、暑苦しいソウルが聴きたくなるけれど、こんな秋にはアコースティックサウンドがベースのSSW(=シンガーソングライター)ものが聴きたくなります。そんなこともあって、今回取り上げるのはNeil Youngの1974年の作品、『On The Beach』。

Neil Youngの作品の中でも、一番好きかもしれないこの作品。暗く、寂しく、儚い。そして深い。疲れているときや気が滅入っているときに聴くと、何故だか心が洗われたような気持ちになる、胸の奥深くに染み入る作品。もちろん、大名盤『After The Gold Rush』や『Harvest』は疑いようもなくいいけれど、この『On The Beach』には、この作品にしかない奥深さがあります。この作品を聴かなかったら、ここまでNeil Youngを好きになっていなかったかもしれません。

この作品ではヴォーカルのコンディションがよくないと言われることもありますが、僕はその脆さのあるヴォーカルこそが、この作品の繊細さを引き立たせていると思います。また、この作品での抑えの利いたNeil Youngのギターも聴きどころのひとつ。歌うようなギターとはまさにこれのこと。特にB-1のタイトル曲でのギターは胸に迫るものがあります。

参加メンバーは、Crazy HorseやTHE STRAY GATORSらのいつものメンバーに加え、David Crosby、Graham NashのCSN&Y勢も参加していますが、何よりThe BandからRick Danko(bass)とLevon Helm(drums)が参加しているのは特筆すべき点でしょう。特にA-3での、躍動感溢れる、歌うようなグルーヴはこのリズム隊ならではのもの。作品のいいアクセントになっています。

歌といい演奏といい、何もかもが絶妙なのです。

しかしながらこの『On The Beach』は、なんと2003年までCD化されなかったため、後追いでNeil Youngを聴いていた僕がこれを聴くためにはレコードで探さなければなりませんでした。そしてそのレコードも当然ながら廃盤になっていたので、日本盤、輸入盤問わずかなりの高値がつけられていて、簡単に手に入るものではなかったのです。

僕がNeil Youngを本格的に後追いし始めたのは大学生のときです。その頃はまだおもにCDで買い集めていましたが、レコードも買い始めていた時期で、どうしてもこのアルバムが聴きたかった僕は、その高値のついた『On The Beach』のレコードを何度も大枚を叩いて買ってしまおうかと思いました。しかし、これ一枚買うお金でほかのCDが何枚も買えると思うと、どうしても踏み切ることができず、悶々としながらほかのCD化されているNeil Youngのアルバムを買い集めていました。
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