「百鬼夜行奇譚」第三夜:【回顧】~Awilda~[四]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第三夜:【回顧】~Awilda~
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   ◆   ◆   ◆

船は真っ直ぐに海を進んだ。
アルフレッドの船はとても大きく、派手な装飾で、アヴィルダはあまり父の船が好きではなかったが、そんなことはもうどうでも良かった。頬を撫でる海風が、優しく髪を揺らす。 
アルフレッドの提案で、少し遠方の別荘に向けて舵を取った。別荘までは2日はかかる。ただ暗闇の中で息をするアヴィルダにとって、それもまたどうでも良いことであった。

船上でのディナーを終え、アヴィルダは甲板に出た。永久に続く果てし無い群青色の闇。漆黒の闇でアヴィルダの白い肌が浮き立ち、不思議な色香を醸し出している。

抱きしめた薔薇の花束にくちづけて、海へと投げた。
「フランツ…ありがとう。さようなら…」

その夜。
フランツの死から眠りが浅く、不眠症となってしまっていたアヴィルダは薄闇の中でぼんやりとドアを見つめていた。

“あのドアを開けて、フランツが入ってきたら…”そんな悲しい夢を描きながら揺れる船のベッドに微睡んでいると、ゆっくりとドアが開き、ワイン瓶を持ったアフルレッドが入ってきた。


「…お父…」
言い切らないうちに、突然アフルレッドがベッドへと倒れ込む。
「どうなさったのお父様!?」
驚くアヴィルダの頭を掴み、乱暴にくちづける。
「……!!!」
「可哀想にわたしのアヴィルダ。私のアヴィルダ! こんなに美しいお前を悲しませるものなど私がひとつ残らずに切り刻んで海の藻くずにしてやる。お前は私が守ってやるからな!」
乱暴に抱きしめ、執拗に口づけをする。ぬらぬらと動く酒臭い舌がアヴィルダの唇を、頬を、首を、虫のように這いずり、唾液でぐっしょりと濡れた髭が、アヴィルダを汚していく。ドレスが乱暴に破かれ、肌が露になる。

「お父様! やめて! やめて!!」
「可哀想に! 可哀想に! 愛しいグレタ!!」
「グレタ!? それはお母様よ! 私はお母様じゃないわ! しっかりしてお父様!!」
「本当にグレタの生き写しだ…あぁグレタ!!」

自らの服を脱ぎ捨て、髪を乱暴に掴みながらアヴィルダの体中に舌を這わせる。

打ち抜かれたような衝撃と、嵐のような吐き気の中、叫び続ける。
瞬間。突然の大きな揺れに、ふいにアルフレッドの力が緩んだ。
刹那。アヴィルダはアルフレッドの脇を抜け、壁にかけられていた剣を抜き取り、叫びながら一気に振り下ろした。

   ◆   ◆   ◆

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

次回:【回顧】~Awilda~[最終話] 7月28日公開予定

   ◆   ◆   ◆

KayaNew Single
「Awilda」
2010年7月28日発売
DDCZ-1697 ¥1260(tax in)
1. Awilda
2. Sink
3. Awilda -kayaless ver.-

<Kaya“Awilda”発売記念TOUR ~Voyage Rose~>
8月8日(日)新宿RUIDO
8月15日(日)大阪RUIDO
8月21日(土)札幌MESSE HALL(ワンマン)
8月29日(日)名古屋HOLIDAY
9月9日(木)高田馬場AREA(ワンマン)

◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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