マリオン・レイヴン(以下マリオン):ううん。特に決めていなかったと言うか、今までやって来たとおり、自分が感じるままに曲を作ればいいんだと考えていたわ。今はロックに夢中なの。エレキ・ギターも弾きはじめた。だから、『ヒア・アイ・アム』も自然とロック・アルバムになったのよ。
──ロックを聴きはじめたきっかけは?
マリオン:18歳の時に聴いたニルヴァーナね。今はドアーズやレッド・ツェッペリン、それにAC/DCが大好きよ。
──ニルヴァーナはわかるんですけど、それ以外はマリオンの両親と言うか、ひょっとすると、お祖父さんやお祖母さんの世代のバンドですね(笑)。
マリオン:そうかもしれない(笑)。アトランティック・レコードと契約したとき、オフィスにあったレッド・ツェッペリンのボックス・セットをもらったんだけど、試しに聴いてみたら、すごくかっこよくてハマッちゃった。ドアーズはたまたまドアーズのヴォーカリストだったジム・モリソンの伝記を読んだ時、彼の詩にすごく惹かれたの。
──ジム・モリソンの詩ってダークかつシュールですよね。
マリオン:元々、私、音楽でも映画でも何でもダークかつメランコリックなものが好きなのよ。
──ところで、曲作りは何歳の時に始めたんですか?
マリオン:13歳よ。M2M時代は大人が10代の女の子はきっとこんなことを考えているんだろうって勝手に想像して作った曲を歌わされていたんだけど、それって私達が本当に考えていることとは全然違ったから、じゃあ自分で作ろうって思ったの。ちょうどその頃、学校に好きな男の子がいたんだけど、彼は私がブロンドじゃないからって見向きもしてくれなかった。その怒りを曲に書いたのよ(笑)。
──そう言えば、『ヒア・アイ・アム』に入っている「ブレイク・ユー」も浮気者の彼氏に対する怒りを歌ったものでしたね。
マリオン:ここ数年はネガティヴな気持ちになることが多かったから、アルバムはそういう曲が多いかもしれない。
──フェイヴァリット・バンドの大半が’60~70年代のアーティストでしたけど、『ヒア・アイ・アム』はモダンなグルーヴを取り入れた今風のロック作品ですね。アルバムを作るにあたっては、どんな作品にしたいと考えていたんですか?
マリオン:何も考えず、曲を作ったときの感情に、ただ従っただけ。だからこそ、アルバムには多彩な曲が入っているんだと思う。
──つまり、ありのままの自分を表現すればいい、と?
マリオン:そう。ジャム・セッションを楽しむように作っていったの。プロデューサーのマックス・マーティンやスティーヴ・トンプソンはアイディアを押しつけるのではなく、一緒に作り上げていくタイプの人達だった。だからこそ、今回プロデュースを頼んだんだけど、いろいろアイディアを交換しながら作っていったのよ。
──そういう一流プロデューサー達とのレコーディングは、マリオンにとって大きな自信になったと思うんですけど、レコーディングを始める前は、彼らと対等に向きあえるのかという不安はなかったですか?
マリオン:それはちょっとあったわ。1年ぐらいかけて、マーティンのスタジオで一緒に曲を作ったんだけど、そこにジョン・ボン・ジョヴィから電話がかかってきたりすると、そんなすごい人と自分が一緒にいることがすごく不思議に感じられたわ。でも、自分は自分らしいことをやるしかないと思ってがんばったのよ。
──アルバムにはエヴァークリアーのアート・アレサキスやモトリー・クルーのニッキー・シックスが参加していますね。
マリオン:2人とも、今アルバムを作っているという話をしたら、じゃあ一緒に何かやろうと言ってくれたのよ。特にソングライターとしてもシンガーとしても大好きだったアートと一緒に曲を書けるなんて、とても光栄だったわ。彼がギター、私がピアノを弾きながら作ったんだけど、作った曲(「エンド・オブ・ザ・デイ」)を一緒に歌っていたら、すごくよくて、じゃあデュエットにしちゃえって。
──今、ロック・シーンで活躍中の本音で勝負している女性アーティストに比べると、男達は「男とはこうあるべきだ」という昔ながらの固定観念に囚われているように思えるんですけど、世の中の同世代の男の子達に言いたいことってありますか?
マリオン:そうね、もうちょっとタフになって欲しいし、もっとロックを聴いてほしいわ(笑)。この間、男の子にライヴを見に行こうと誘われたんだけど、何のライヴと聞いたら、トランス系って言うから、言われた瞬間バーイって言っちゃった(笑)。
取材・文●山口智男