【ライブレポート】本当の“なとり”を見せつけたワンマンツアー<摩擦>

2025.06.02 00:00

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以下にお届けするのはなとりのワンマンツアー<摩擦>、5月22日の東京・Zepp DiverCity公演のレポートである。だがライブの内容について触れる前に、まずは今回のツアーになとりが込めた思いを記しておきたい。

◆ライブ写真

ライブ中盤、なとりの名刺といえる「Overdose」から新曲「SPEED」への怒涛の流れでフロアを完全に盛り上げ切ったあと、なとりは今回のツアーに<摩擦>という名前をつけた理由を切々と語り出した。その理由のひとつは、「みんなと摩擦するほどの熱いライブがしたい」というもの。そしてもうひとつは、より彼自身の内面にかかわる理由だった。「人はそれぞれの形を持っている生き物だと思っていて。その形は出会った人、出来事、自分の気持ち、そういうものによって摩擦してすり減らされていく」。そう前置きした上で、彼は音楽を始めて今に至るまでの心境の変化をこう表現した。

「音楽を始めたての頃は、すごく美しい形でいられていたと思うんですけど、最近はありがたいことに僕を摩擦してくれる要因がすごく多くて。すごくありがたい環境にいさせていただいているんですけど、たまに、すり減った後の形というのが、もしかしたら自分が思っていたものと違うんじゃないかなって思ったりするんですよね」

それはアーティストにかぎった話ではない、となとりは続ける。みんなにも、学校や仕事で摩擦を受けてすり減っている自分をどうしても愛せない日はあると思う、と。「この<摩擦>というツアーを通して、今自分が愛せない形を無様に曝け出して、それでも『美しい』と言ってもらえるような、そして僕もみんなが曝してくれている、もしかしたら無様だと思っている形を『愛してるぜ』って言ってやれるようなライブをしたかった」。

その言葉の通り、今回のなとりのライブはこれまで観た彼のライブのどれとも違っていた。ライブハウスという環境もあるのだろう、演奏も歌もパフォーマンスもすべてがアグレッシブで生々しく、とても攻撃的だった。自身がイメージしていた以上に状況が発展し、なとりという名前とアーティストイメージがひとり歩きしていくような感覚を、もしかしたら彼は覚えていたのかもしれない。それくらい、この1年ほどのなとりの活躍は目覚ましく、その軌跡は輝かしいものだった。そんな葛藤をぶち壊し、なとりを再び自分の手元に引き寄せ、その剥き出しの自分でオーディエンスと向き合う──それがこの<摩擦>というツアーのテーマだったのかもしれない。そしてライブを観るかぎり、そのテーマはちゃんとフロアにも伝わっていた。ステージから放たれる熱とフロアが打ち返す熱が音を立ててぶつかり合うような会場のムードは強烈に刺激的で、とてもスリリングだった。

フロアを埋め尽くしたオーディエンスの熱い歓声とともに幕を開けたライブ。バックライトに浮かび上がったなとりのシルエットが1曲目「DRESSING ROOM」を歌い出すと、手拍子と掛け合いの声が飛び、一気に熱を高めていく。「遊ぼうぜ、東京」。ライブハウスならではの密度の高いサウンドと分厚い重低音。ツアーの中で磨き上げられてきたアンサンブルが力強く押し寄せてきて圧倒される。「今日は最高に『摩擦』していきましょう」。そんな言葉とともに突入した「食卓」でもオーディエンスとのコンビネーションが曲を盛り上げ、早くもZepp DiverCityは一体感に包まれた。さらにサウンドが加速するにつれてなとりのアクションも激しくなっていった「金木犀」、ジョージ林のサックスが鳴り響く中スタンドマイクで歌い上げた「Cult.」を経て、ここで早くも新曲 (※曲名は現時点では未公表)を投下。軽やかなリズムとピアノの音色にオーディエンスの手拍子もさらに熱を帯びていった。

ジャジーなムードが漂う大人な新曲「FLASH BACK」を終えると、なとりは一拍置いて「大切な曲をやります」と告げる。そして大きく息を吸って歌い出したのは「糸電話」だった。オレンジの光のなか、切なさを帯びた歌声が響き渡っていく。だがそれも束の間、ダンスビートが流れ始める。「みなさんが歌って踊る、大好きな時間がやってきました」という宣言とともに「Sleepwalk」へ。ループするリズムがじわじわと気分を高め、自然に体が動き出す。なとりもステージの両サイドに置かれた台に上がり、オーディエンスに向かって体を揺らしながら歌いかけている。

さらに「祭りの時間です」と「猿芝居(Remix)」、さらになとりがAdoに提供した「MIRROR」のセルフカバーへ。まるでクラブのようにビートを繋ぎながら、Zepp DiverCityをダンスフロアに変えていく。「踊り明かそうぜ」というなとりの声にフロアが揺れる。ミラーボールがキラキラと光を放ちながら回転し、ムードをぐんぐん高める。そして、「ここからだぞ、楽しいの」という言葉とともに大歓声渦巻く中「Overdose」を投下。力強いローがずしりと腹に響いてくる。ただ曲を届けるだけではない、ノンストップでステージとフロアのあいだで濃密なコミュニケーションを生み出していくような展開が、まさにこの「摩擦」というツアーのテーマを体現しているようだ。「今日イチ、いや今年イチのジャンプを見せてくれるんだよね、みんな」──そんななとりの言葉にオーディエンスが全力で飛び跳ねて応えて、Zepp DiverCityは最高潮を刻んだのだった。

しかしそんな「Overdose」の盛り上がりも「序章」にすぎなかった。「今のより速くて熱くてかっこいいやつやります」というなとりの言葉にリズムが加速する。繰り出されるのはアクエリアスのCMソングにもなっている「SPEED」だ。アグレッシブなサウンドと乱射される言葉、超攻撃的ななとりのニューモードを刻んだ新曲が鮮やかに会場を踊らせる。一気にピークを更新したオーディエンスの盛り上がりに、なとりは「ありがとう、ついてきてくれて」と声を弾ませていた。

そして冒頭に書いた長めのMCを経て、ライブはさらに熱を高めていった。「フライデー・ナイト」で大合唱を巻き起こし、「IN_MY_HEAD」のハードなサウンドにフロア中でタオルが回る。さらに「まだ世に出てない曲をやっていいですか?」と未発表曲「EAT」へ。ゴリゴリのベースラインとギターリフが分厚いグルーヴを生み出し、クライマックスに向けての盛り上がりを作り上げていく。そこから切れ目なく「エウレカ」に突入。息つく間もないとはこのこと。「歌ってくれ、みんな!」というなとりの声にコーラスで答えるオーディエンスも我を忘れて声を上げていく。なとりも観客も、全員が文字通り生身の自分自身を曝け出していくような、圧巻の展開である。

そしてそのままシンバルのカウントから「絶対零度」が始まっていく。性急なビートに乗せて、なとりが歌というよりも叫び声を上げる。彼自身の言葉を借りるなら「無様」な自分自身を剥き出しにするようなそのパフォーマンスが、場内の興奮をどこまでも高めていく。「本当にありがとう、また会いましょう。愛してます」。すべてを吐き出すようにそう絶叫すると、ギターの残響音が鳴り響くなかライブは終わった。なとりという人の殻が音を立てて破れていくような、あるいは本当のなとりをまざまざと見せつけられるような、新鮮でエモーショナルな一夜。一言でいえば、とても凄まじく、そして心揺さぶられるショウだった。

取材・文◎小川智宏
写真◎タマイシンゴ

<natori ASIA TOUR 2025>
2025年10月26日(日)
台北 Taipei / Zepp New Taipei
INFO : 大鴻藝術BIG ART / contact@abigart.com / 月〜金 11:00 〜18:00
https://www.facebook.com/bigart.tw

2025年11月8日(土)
バンコク Bangkok / Union Hall 1
INFO : Avalon Live / https://www.facebook.com/share/16GZXPr8jH/?mibextid=wwXIfr

2025年11月22日(土)
ソウル Seoul / YES24 LIVE HALL
INFO :LIVET:hello@wanderloch.com
Ticket:https://to.livet.one/natori

2025年11月28日(金)
上海 Shanghai / TBA

2025年11月30日(日)
北京 Beijing / TBA

※録音・録画機材(携帯電話)使用禁止
No recording or video equipment (including mobile phones) allowed.

※上海公演・北京公演の詳細は後日発表

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