松田美緒 アルバム『ピタンガ!』特集INTERVIEW

松田:ポルトガル語特有の言葉なんですが、“郷愁”と訳されます。私の解釈では、ものすごく大好きなもの、愛しているもの、大切なものから遠く離れているときや失ってしまったときに持つ“切なさ”という感情だと思うんです。ちょっと甘くて余韻に浸るような。英語の“I miss you”に似ているかもしれませんね。男女の話だけではなく、国が懐かしい、あの時代が懐かしいというときにも使います。人間の感情には必ず出てくるものですね。暖かくて繊細で。
松田:元々はファドの「黒い艀(はしけ)」という曲で暗い曲だったんですが、レコーディングのときにこういう雰囲気にしました。ブラジルには、黒人の奴隷が自分の子どもには乳をあげられないのに、白人の主人の子どもに乳をあげて、子どもを育てたという歴史があります。それから黒人と白人の混血が進んで、いまのブラジル人になったんです。だから“黒人の母”というのは、ブラジル人の誰にとっても“母”であるという感覚があるんです。力強い母と不幸な母という複雑な2面性を持っているんですね。だから、アルバムには絶対にこの曲を入れたかった。シャシャードとクアドリリャが混ざった複雑なリズムで、これはヨーロッパ人が持ち込んだものなんです。だからある意味、白人の子どもたちが黒人の母に捧げて歌っているような。アイロニックなんだけども、いまのブラジルそのものかもしれない。
松田:この始まりと終わりは最初から決めていました。最初は航海の無事を祈りを込めて朗々と歌いたくて。そして最後には、さぁ海に出ようという力強い心を歌いたかったんです。その間に、ブラジルのバイーアの街に行ったり、内陸のパライーバの街に行ったり、いろいろな場所でいろいろな人に出会って、最後はもう一度海に出て船出をしようというイメージですね。
松田:「IGNOPOR(編註:逆から読むとロッポンギ)」ですね(笑)。バックはバンドリンと7弦ギターで、まさにリオの夜の街ラパの雰囲気ですね(笑)。
松田:「オラソン」ですね。普遍的な意味なんですが、祈りたいっていう気持ちがあって。祈っている対象はイエマンジャーというブラジルの女神なんです。あと「愛の歌」もかなり昔作った曲で思い入れがあります。これも祈りが込められた歌です。
松田:曲によっていろいろですね。「オラソン」は気持ちが良い日に太陽の光を浴びながら作ったものです。…あまり覚えてないものが多いですね。作ろうと思って作るというよりも、ポーッとしてて自然に浮かぶことが多いものですから。歌詞とメロディが同時に出てくるんです。録音するものがないから、それを一所懸命覚えてるんです。録音機があれば、もっとできてたかもしれない(笑)。
松田:歌を通して祈る気持ちというか。歌うときって、自分自身に対して純粋になっている瞬間なんです。その瞬間がいちばん大事なものだと思っています。そして、人間と人間はつながるんだということ、愛が大切だということを伝えて行きたい。私にとって歌うということはすごく自然なことなので、それを意識して歌っているというわけではありませんが。