松田美緒 アルバム『ピタンガ!』特集INTERVIEW

2006.11.20 10:56

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──今回のアルバムもそうですが、ファドではサウダージという言葉がキーワードになっていますね。この言葉にどういう思いを乗せていますか?

松田:ポルトガル語特有の言葉なんですが、“郷愁”と訳されます。私の解釈では、ものすごく大好きなもの、愛しているもの、大切なものから遠く離れているときや失ってしまったときに持つ“切なさ”という感情だと思うんです。ちょっと甘くて余韻に浸るような。英語の“I miss you”に似ているかもしれませんね。男女の話だけではなく、国が懐かしい、あの時代が懐かしいというときにも使います。人間の感情には必ず出てくるものですね。暖かくて繊細で。

──では収録曲について。「マエ・プレタ(黒き乳母)」という曲は、歌詞の内容とは違って明るい曲なんですね。

松田:元々はファドの「黒い艀(はしけ)」という曲で暗い曲だったんですが、レコーディングのときにこういう雰囲気にしました。ブラジルには、黒人の奴隷が自分の子どもには乳をあげられないのに、白人の主人の子どもに乳をあげて、子どもを育てたという歴史があります。それから黒人と白人の混血が進んで、いまのブラジル人になったんです。だから“黒人の母”というのは、ブラジル人の誰にとっても“母”であるという感覚があるんです。力強い母と不幸な母という複雑な2面性を持っているんですね。だから、アルバムには絶対にこの曲を入れたかった。シャシャードとクアドリリャが混ざった複雑なリズムで、これはヨーロッパ人が持ち込んだものなんです。だからある意味、白人の子どもたちが黒人の母に捧げて歌っているような。アイロニックなんだけども、いまのブラジルそのものかもしれない。

──アルバムは「オラソン(祈り)」で始まり「オラソン(海の女神への祈り)」で終わります。どういうアルバム全体の流れを作っていこうと意図していたんですか?

松田:この始まりと終わりは最初から決めていました。最初は航海の無事を祈りを込めて朗々と歌いたくて。そして最後には、さぁ海に出ようという力強い心を歌いたかったんです。その間に、ブラジルのバイーアの街に行ったり、内陸のパライーバの街に行ったり、いろいろな場所でいろいろな人に出会って、最後はもう一度海に出て船出をしようというイメージですね。

──六本木にも来ますね。

松田:「IGNOPOR(編註:逆から読むとロッポンギ)」ですね(笑)。バックはバンドリンと7弦ギターで、まさにリオの夜の街ラパの雰囲気ですね(笑)。

──思いがもっとも深い曲は?

松田:「オラソン」ですね。普遍的な意味なんですが、祈りたいっていう気持ちがあって。祈っている対象はイエマンジャーというブラジルの女神なんです。あと「愛の歌」もかなり昔作った曲で思い入れがあります。これも祈りが込められた歌です。

──両方ともオリジナル曲ですね。曲作りはどんなときに?

松田:曲によっていろいろですね。「オラソン」は気持ちが良い日に太陽の光を浴びながら作ったものです。…あまり覚えてないものが多いですね。作ろうと思って作るというよりも、ポーッとしてて自然に浮かぶことが多いものですから。歌詞とメロディが同時に出てくるんです。録音するものがないから、それを一所懸命覚えてるんです。録音機があれば、もっとできてたかもしれない(笑)。

──歌にどんなことを託していますか?

松田:歌を通して祈る気持ちというか。歌うときって、自分自身に対して純粋になっている瞬間なんです。その瞬間がいちばん大事なものだと思っています。そして、人間と人間はつながるんだということ、愛が大切だということを伝えて行きたい。私にとって歌うということはすごく自然なことなので、それを意識して歌っているというわけではありませんが。

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