「M-SPOT」Vol.065「バンドマンなら、バイト?会社員?」

今の感覚では全く理解不可能だろうけれど、昭和の初期~中期は音楽を目指す人は不良と呼ばれ、エレキギターなどを弾く若者は、まるで無法者であるかの評価を受けていた。おしなべて髪は長く、ヒッピー文化から派生したようなだらしなくも派手なファッションも、よりいっそう社会から爪弾きされてしまう要因だったんだろう。
そんな日本の音楽シーンも様々なミュージシャンの活動と文化の熟成によって、価値観も大きく様変わりした。「推し活」が一般社会の普通になり、多くの一般人が「押され活」を意識するようになってきた今、音楽を紡ぎミュージシャンとしてアイデンティティを発揮する人たちの活動様式も多様性を見せている。
常にカウンターカルチャーの象徴であったロックミュージックも、ポピュラリティをもってオルタナティブな文化醸成の道筋を見せていたりする。今回はある社会人バンドを紹介してみよう。コメンテーターはTuneCore Japanの野邊拓実、そして進行役はいつもの烏丸哲也(BARKS)である。
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──今回紹介したいバンドは、フォレルスケットです。プロフィールに「都内で活動中の女性ボーカルの社会人J-POPバンド」とあるように、要するに社会人なんです。きちんと生活基盤を持ちながら、その上で健全な音楽活動を行うというスタイルが、まさに現在のバンドマンのスタンダードなのかなとも思ったんですね。必要以上の背伸びもしないからこそ醸し出される心地よさというか、優しいサウンドが気持ちよくて。
──moumoonを思わせるボーカルですが、凄くシンプルで奇をてらう進行もなく、こころが穏やかになる。
野邊拓実(TuneCore Japan):あんまり力が入ってなくていいなって思いました。「力が入ってない」というのは、もちろん「やる気ない」みたいな意味ではなくて、すごい抜け感というかこなれ感がありますよね。ドラムなんかサビに入ったところでめちゃくちゃフィルが入っても良さそうなところで、割とずっと最小限な一定の感じを保っているし。そもそもサビのメロディも、いわゆる歌謡っぽい壮大な盛り上がりに持っていくのではなく、流れだけちょっと早くなるような印象を持つ作り方で、コーラスが入ることで少しだけ厚みを出しつつもテンション感はずっと一定で続いていく。いいですね。
──チルい感じもありますね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そう、チルい時に聞きたいな、みたいな。
──バンドと言えば、みんなハングリー精神丸出しだった時代もありましたし、情熱をかければかけるほど、鬱陶しいほどの熱量を発しがちなので、インディペンデントでこの空気感は今の時代を反映しているなと思ったんですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):メンタリティーがちゃんと音に出ている感じがしますね。
──SNSでのバズが目的になってしまう本末転倒な話も聞く中で、何より自分たちが楽しいと思うことを1番大切にすることを教えてくれているような。

野邊拓実(TuneCore Japan):会社員バンドってすごい増えているなって思っています。実際ライブハウスでも対バンの人の話を聞くと、「普段会社員やってます」みたいな人は昔より本当に増えている感じがしていますね。昔はもうちょっと退廃的な人が多かったというか、なんて言うんですかね、「もう音楽で売れなかったら死ぬ」みたいな人が多くて。
──分かります。良くも悪くも人生をこじらせていました。
野邊拓実(TuneCore Japan):会社員をやりながらバンドをやってますみたいな人が増えているのは、僕は悪いことじゃないかなって思っています。ただ、「量より質」の話をするときに「いや、質って量が生み出すよね」って思っているし、素振りをした数がちゃん質に現れますから、どれだけ音楽に時間をかけてきたかっていうところが、そのまま音楽のクオリティには出るだろうというところがあるので、やっぱり音楽にちゃんと専念して、音楽だけに時間を使ってやっている人が音楽的にレベルが上がる可能性が1番高いって思っているんです。そういう意味では、売れる売れないとは関係なく、クリエイティビティだったり先進性・独自性みたいなところの開発に関しては、時間をかけている人の方が強いなと思います。
──確かにそれはそうですね。経験の深さがあって初めて到達しうる世界もありますから。
野邊拓実(TuneCore Japan):ただ、本当にすごいところに到達するためには、学校を卒業した後はフリーターをやらなきゃいけないわけですよね。実際にバイトで生活しながらバンドマンをやっていきますってなると、週4~5ぐらいのバイトは必要じゃないですか。って考えたら、別に会社員やっても変わんなくねえか?みたいな。
──会社員とフリーター、音楽に注げる時間がどっちが多いのか問題ね。
野邊拓実(TuneCore Japan):実はそんなに変わらない説で、なんなら会社員の方が有給取りやすいみたいなところはあると思いますよ。僕もフリーター/バンドマンを3年間ぐらいやっていた時期がありましたけど、結局週5ぐらいバイトしていて、「あれ、なんかこれ会社員やったら給料も増えるっぽいし、なんか有給とかも手厚くなりそうだし…」みたいな。で、さらに会社員のほうが収入が安定するじゃないですか。収入が安定すると、心に余裕が出てくるんですよね。で、心に余裕が出てくると作曲ってしやすいんですよ。「どうしよう、エフェクター買っちゃった。来月の振り込みヤバい」みたいなことに脳みその何%かを取られた状態で作曲をするのと、そういう悩みが一切なく作曲をするのとの違いですよね。
──心の安定度は随分変わってきそうですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):もちろんそういう焦燥感みたいな感情が表現に表れることもありますから、良し悪しでもないんですけど、どっちが快適かって言ったら、会社員やりながらの方が快適だよなとは思っています。よっぽど困窮した何かを描きたいとか、貧困層や劣等感のメンタリティーを徹底的に描きたいとして、そういう立場に自分を置いておくことは凄く大事かもしれないですけど、そうじゃないのであれば、快適な環境の方がいいですよね。
──経験者による良きアドバイスをいただきました。
野邊拓実(TuneCore Japan):僕は、自分がいかに音楽をやるのに最適な環境になるかってことだけを考えて転職をしていった経歴があるので(笑)。会社員バンドマン、いいですよ。
──そういうバンド、水面下にもたくさんいるでしょうね。
野邊拓実(TuneCore Japan):かなりいらっしゃると思います。最近よく見る形態ですから。それもまた2つに分かれていて、とにかく会社員をやりながら好きな音楽をやっていくんだっていうスタイルの人たちもいれば、売れたら会社はスパッと辞める、みたいな考えの人たちもいますね。そのあたりも普通に選択肢にあるのはいいことだなと思いますね。
──それだけバンドマンが市民権を得たという話だとも思います。
野邊拓実(TuneCore Japan):だいぶ得たと思いますね。今回のフォレルスケットもそうですけど、おしゃれ音楽が増えた気がします。パンク~ロック的なものじゃないというか攻撃的じゃない音楽が、バンドの世界でも凄く増えたなと思います。歴代のアーティストたちがそういう印象のものを作り上げてきてくれたおかげで、バンドでできる音楽性の選択肢も凄く増えたわけで、例えば星野源さんを見て「不良」って思う人はいないじゃないですか。
──そうですね。アウトローと思う人は皆無ですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):みたいなところを、いろんな歴代の方々が作ってきてくれた。選択肢はかなり多様になった時代だなという風に思います。
フォレルスケット
都内で活動中の女性ボーカルの社会人J-POPバンド。キャッチーなメロディと、初見でもわかりやすい曲が特徴。楽曲の配信や、DJ兼配信者・YoutuberのDJ SHIGEとのコラボ楽曲製作など幅広く活動中。
https://www.tunecore.co.jp/artists/FORELSKET
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.