【インタビュー】ゆとりくん、2nd EP『ミラーボールを消して』という衝動に「経営者である自分が音楽をやっている意味」

2026.07.13 18:00

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ゆとりくんが7月3日、2nd EP『ミラーボールを消して』を配信リリースした。アパレル企業“yutori”創業者にして、国内ファッション業界にて創業から史上最短で上場した経営者。さらには、自身が率いる音楽プロジェクトの69(無垢)のメンバーであり、2025年秋にゆとりくん名義で1stシングルを発表したソロアーティスト。ファッション、経営、音楽。果たして、音楽を鳴らす経営者なのか、ファッションビジネスを手掛ける音楽家なのか。

そしてリリースされた2nd EP『ミラーボールを消して』のタイトルに掲げた“ミラーボール”とは、“資本主義的なもの”や“第三者的なもの”の象徴として、ゆとりくん自身がイメージしたものだ。EPにはミラーボールが消えたあとに残る内省的な自分自身と向き合った全5曲を収録した。

そのサウンドは五曲五様だ。生身のバンドサウンドによる王道ロックンロール、哀愁漂うタンゴmeetsレゲエ、16ビート基調のギターカッティングがクールなダンスチューン、ダークで艷やかでエモーショナルなファンクサウンド、80sテイストを感じさせるシティポップなど、70〜80年代サウンドを根底としながらも、モダンな輝きを放つアレンジには隙がない。1st EP『KINGDAMN』から楽曲の幅を大きく広げてジャンルを縦横無尽に駆けながら、『ミラーボールを消して』というタイトルに集束するサウンドは、全曲の作詞作曲に携わったゆとりくん自身の現在の音楽観の成せる業。とりわけルーズなノリに渋みと色気を潜ませたオープニングナンバーの「fashion」はゆとりくんの新境地と言っていいだろう。

ファッション、経営、カルチャーの領域を軽々と越えてきたゆとりくんが、音楽表現の根源と最新作『ミラーボールを消して』についてじっくりと語ったロングインタビューをお届けしたい。

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■僕は思っていることを瞬時にメタ化するんです
■ただ、音楽は感情的で瞬発的なものでないとダメ

──学生時代に組んでいたアカペラグループは、ワンマンライブで600人集めるほど人気だったそうですね。だけど卒業後は音楽の道には進まず、アパレル業界へ進んだ。そして今は、yutoriの代表取締役社長を務めながら、音楽活動も行っている。ご自身の中でどのような変化があったんでしょうか?

ゆとりくん:社交の場でカラオケをする機会が多いので、“歌が上手くなったら得があるんじゃないか” “ボイトレに行ってみよう”というところから始まったんですよ。それで歌を練習したら、“自分の歌っていいな”と素直に思えるようになった。それがちょうど、yutoriが上場した2024年頃でした。当時は出張が多かったんですが、飛行機の中でSpotifyのカラオケモード(トラックだけが流れる機能)で曲を聴きながら、歌詞とポエムの間のようなものを作ってみて。それをDannie Mayのマサ(Vo/G)に送ったら「これはゆとりくんにしか書けない詞だ、面白い」と言ってもらえたんです。自分はヒップホップ的な出自ではないけど、アカペラではボイパをやっていて、リズム感はあるから、音楽的な手法としてのラップならできるんじゃないかと。そこで自分がラップして、友達のKOHEI (69 [無垢])がトップラインを歌って、マサがギターを弾いて……とジャムセッション的な感じでできたのが、69の一発目の曲「junk(ey)」でした。なので、最初は遊びの延長線上という感じでしたね。

──“歌いたい”という欲求は元々あったんですか?

ゆとりくん:アカペラをやってた頃は全くなかったです。自分の声を自分で聞くのって、結構恥ずかしいじゃないですか。だけど、ある時から違和感なく聞けるようになって。今思えば、若い頃は“人に伝えたい” “盛り上げたい”と力んでいる瞬間が多かったから、自分の声と“本当の自分”の間にちょっと距離があったのかなと。だけどいろいろな経験を経て、そういう違和感がなくなっていって、自分そのものをまるっと受け入れられるようになってから、自分の声も好きになって。すると、声や歌を褒められることが増えてきて、“じゃあ歌ってみようかな”と思えた、という流れでした。最初のうちは“自分がメロディを歌って大丈夫なのかな”と自信を持てずにいたけど、曲を作っていくうちに、“これが自分のスタイルだ”と腹落ちして。今はラップかメロディかという枠にとらわれず、自分自身を活かしながら作るという、ニュートラルな方向へどんどん向かっていっています。

──歌詞もフィクションではなく、自分のことを歌ってますよね。

ゆとりくん:そうですね。自分のエピソードを面白く加工したり、演出したりしながら、楽曲を作るというアプローチは、自分にとって取り組みやすかったです。なぜかというと、自分のストーリーは明らかに特殊なので。そこを歌うだけで、面白いものにはなるというか。

──今日初めてお話を伺うので、どんな方なんだろうと調べさせてもらったんですが、そのなかで、『俺は起業家になり、親友はメジャーデビューした。あるグループが解散した後の話。』というnoteに辿り着いたんですよ。

ゆとりくん:ありがとうございます。だいぶニッチなところを掘っていただいて。

──そのnoteには、自分の思っていることをステージで披露するというより、「Tシャツのプリントでそれとなく語るくらいが僕の身の程に合っている」と書いてありました。あの頃から、認識が変わったということでしょうか?

ゆとりくん:20代前半の頃は、自分が本来持っているものをそのまま表現するよりも、“前振り”となる社会的な記号を先に取りに行ったほうが、コントラストが出て、自分のスタイルを面白く表現できるだろうと思っていたんですよ。例えば、“上場企業の社長なのに、歌を歌っている”とか。“経済・資本主義の人っぽいのに、スピってる”とか。だから自分にはまだ早いという考え方でした。

──自分自身のことをかなり俯瞰しているんですね。

ゆとりくん:そうですね。僕は、思っていることを瞬時にメタ化するんですよ。よくも悪くも、みんなに披露する段階では“これは僕が表現しても大丈夫だ”と思えるものに必ずなっている。ただ音楽は、エネルギッシュで、感情的で、瞬発的なものでないとダメなので。

──曲を書く時は、普段とは違うスイッチを入れていると。

ゆとりくん:入れてますね、はい。

──では、今回の2nd EP『ミラーボールを消して』収録5曲をあとから振り返った時に、どう思いましたか?

ゆとりくん:暗いなと。だからこそ、いいものができた、面白いものができたと思ってます。

──暗いものができた理由に、心当たりはありますか?

ゆとりくん:去年の春ぐらいから、本格的に発信活動を始めたんですよ。そのなかで、自分が通ってきたファッションや音楽の文脈を大きく超えて、いろいろな人と交流する機会が増えていったんですけど、僕自身、“人の期待に応えたい”という潜在的な思いが強いのもあって、どんなバックグラウンドを持つ人ともコミュニケーションをとりたいと思ったんです。すると、その善意によって、自分の輪郭がぼやけていって……。

──相手に寄り添いすぎてしまうということですか?

ゆとりくん:それに近いですね。共鳴する必要がないところまで共鳴していっちゃう、みたいな。上手くバランスがとれず、変な浮遊感の中で、“あれっ? 自分って何なんだろう?”という錯乱状態にありました。

──その状態に、危機感を抱いたのでしょうか?

ゆとりくん:危機感というより、もっと手前の感情ですよね。自分の好きなことさえも分からなくなっているような状態だから、ご飯を食べても、あまりおいしく感じなくて。

──それはつらい。そこで心が音楽へ向かっていったわけですね。

ゆとりくん:“今、これが気持ちいいな”という感じで、無意識に聴いちゃう曲ってあるじゃないですか。そこから「じゃあ、こういうフィーリングの曲を作ってみよう」と、曲が出来ていきました。

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