【インタビュー】KIRITO、『SHIFT』が物語る固定観念の崩壊と劇的な変化のその先「扉を開くか開かないか。自分次第で世界は変わる」

2026.04.22 18:00

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■世界が自分になにをしてくれるかではなくて
■自分が世界にどういう愛を発していくか

──1曲目に収録された「PARADIGM SHIFT」は、永遠に続く破滅と再生をテーマにしつつ、痛みを伴う終焉と、何度でもそれを越えていく意志を歌っているように感じました。“築いては壊して得る痛み 揺れ動く残像 忘れないように傷を刻んで”という一節には、明るい未来を信じて突き進む、みたいな単純な構造ではなくて、“Into the Vortex.”(=渦の中へ)という決意が感じられるといいますか。

KIRITO:夢物語だけではなくてリアルを歌いたい、という気持ちが昔から僕の中にはあるんです。生きるということは厳しいし、辛いし、痛い。だけど、前を向いて生きることをやめるわけにはいかない。それが人生だから、生きることは夢物語じゃないと断言すると同時に、だけど踏み越えて前に進む価値がこの世界にはあるということを伝えたい。その両方が歌詞に存在しているから、聴く人にもリアルに受け止めてもらえるんじゃないかな。

──それは間違いないと思います。そういったメッセージの内容に加えて、「SIGNAL」を締め括る“糸が揺れて 生み出される 空は青く澄み渡る”という一節は表現も秀逸です。PIERROTに「SUPER STRING THEORY」という超弦理論をモチーフにしたと思われる楽曲がありますし、関連を感じさせます。

KIRITO:これもまさに量子力学ですね。すべての物事は、素粒子的な考え方で糸が揺れて、すべてが満たされるという。そうやってできた青く澄み渡る空は、実物なのか、それともプログラム上のものなのか。量子力学的にいうところの、選択したイメージの仮想世界なのかはわからないけど、大事なのはそこではなくて。自分には空が青く澄み渡って見えているということが大事なんです。それがすべてであって、現実に存在していようがいまいが関係ない。哲学でいうところの“我思う、故に我あり”みたいな。「SIGNAL」は、そういうことを伝えたいと思って書いた曲です。

──カオスを描いた上で美しい情景で締め括る辺りにセンスのよさを感じます。3曲目の「SOURCE CODE」は“プログラム”や“仮想現実(シミュレーション)”、“SCRIPT ERROR”といったデジタル的なワードが散りばめられていながら、“神の思惑”という黙示録的な一言が入っていて、おっ?と思いました。

KIRITO:それはなぜですか?

──文明が発達して神秘が解明されることは、神がこの世をつくったという思想すら否定する側面もあるように感じるからです。

KIRITO:それもわかりますけど、突き詰めると僕の中では、文明の進化も神の意志にたどり着くんです。僕がまだギリギリ10代の時に作ったPIERROTの「「天と地」と「0と1」」(『パンドラの匣』収録曲 / 1996年)の時点で、すでに根底にはシミュレーション理論があったんです。自分が見える天と地が、0と1の2進法でプログラムされる仮想現実かもしれないという。そんなことを30年も前から言っているんですよ(笑)。

「天と地」と「0と1」」収録アルバム『パンドラの匣』

──それがテーマのひとつでもある映画『マトリックス』公開が1999年のことですので、全然前ですね。

KIRITO:そういう理論が書かれた書籍もたくさんあって、そういった本を読んで影響された世界観ではあるけれど、自分が音楽を作っていくうえでの根底になっている考えですね。現代は宇宙の重力とか惑星間のブラックホールとか、いろいろなものがスーパーコンピューターや量子コンピューターで数値化されて、ものすごいスピードで解明されていくわけだけれども。突き詰めて知っていくと、そこに神の意志がないとおかしいと思っていて。たとえば、ヒマワリの種の並び方に見られるフィボナッチ数列とか、そのフィボナッチ数列を図にすると巻貝の巻き方と一致したり。これは少し迷信っぽくなるけどテスラコードとかね。

──万物の理論とか神の方程式と言われるものですね。

KIRITO:数字に関するいろいろなことに、神の思惑もしくはプログラム上のセオリーが反映されていることを感じるんです。つまり、それは同義語なんですよ。神の意志が宗教的な意味合いでこの世界を形作るセオリーだとしたら、科学的なところでいうと、この世界がプログラムされた時のソースコードは神のもの。僕の中でその2つは同義語なので、楽曲「SOURCE CODE」に“神の思惑”という言葉は必要な要素なんです。

──興味深いです。旧約聖書の冒頭『創世記』に描かれた天地創造の“暗闇がある中、神は光をつくり、昼と夜ができられた”みたいな、無秩序な状態に秩序と目的をもたらした神とは、また違った捉え方をされているんでしょうか。

KIRITO:すごく真逆のようで……僕自身も考えていると頭がおかしくなりそうだけど(笑)、宗教的な“神の思惑によって光と闇が創られて”という創世記的な話は、そのままプログラミングに置き換えると、すべてあてはまるんです。プログラムする人がソースコードで世界をつくって人間をつくって、と想定した場合と全部が一致する。だから、我々が生きているこの現実は、上の次元の存在によってつくられた仮想現実だという説も否定できませんよね。

──上辺をすくっただけの浅い知識で表現できるものではありませんし、宗教とサイエンスの両方に造詣の深いKIRITOさんならではの思考といえますね。

KIRITO:僕の中では、神がつくった世界でも、コーディングされた仮想世界でも、どっちでも構わなくて。だけど、真実を知りたいという気持ちが強いんです。それを自分でどう解明するかという方法論は、僕には音楽しかない。音楽という世界をクリエイトすることで、その真相に近づけるようなストーリーを仮説すること。それこそが、自分が世界観や歌詞をつくっていくためのモチベーションなのかもしれないですね。そして、そこには宗教やサイエンスが背景としてあるけれども、究極は“愛”なんです。LOVEというものが大前提として存在している。だから音楽にする意味もあるんです。

──“愛”という言葉が出ましたが、『SHIFT』を締め括る「GEARS OF FATE」は救済がテーマになっていますよね。“この世界を君から愛して 世界は君を愛しているから”という言葉に深い愛情を感じます。

KIRITO:この曲には僕の思いのすべてが込められているかもしれない。やっぱりラブソングにならなければ、という気持ちがあるから、宗教に振り切った音楽とかサイエンスに振り切った音楽ではダメなんです。その背景があったうえでのラブソングでなければ、そこにはロマンがないし提示する意味もない。“世界が自分になにをしてくれるか”ではなくて、“自分が世界にどういう気持ちを持って、どういう愛を発していくかが大事”ということが、僕が一番言いたいこと。これは音楽の中の夢物語ではなくて、現実的な側面だと信じている。だから、自分が世界に向けたものを、世界は自分に向けてくれるということを伝えたかったし、そうできたらもっと楽になるよということを歌ったリアルな曲だと思います。

──孤独感や疎外感などを抱いている方にとって、“世界は君を愛している”という言葉は大きな救いになるのではないかと思います。

KIRITO:自分次第で世界は変わる。僕は本当にそう思っているんです。自分が憎しみを向ければ、自分も憎まれるようになってしまうけど。世界は自分を愛してくれていて、世界は愛に溢れていることを実感できれば、もっと素晴らしいのに、と思うんですよ。要は扉を開くか開かないか。“扉を開けば幸せになれる”と言われたからといって、ダウナーな人の気持ちは簡単に開かないだろうけど、それでも僕の曲を通して、“もしかしたら”と思ってもらえたら、それだけでいいんです。

──“がんばれよ”という上から目線ではなくて、“傍にいるから”という歌詞ですよね。

KIRITO:そうですし、もっと言えば、この曲で歌っていることは僕自身がもがいてもがいて、やっと気づけたことだから。自分自身ですら簡単にたどり着けなかった気持ちを、上から押しつけたところで“はい、そうですか”となるわけがない。難しいことなのは十分わかっているけど、僕が噛みしめている確かな思いだからこそ届いてほしい、という切なる願いでもありますね。

『SHIFT』通常盤

──そして『SHIFT』は、良質な楽曲や歌詞を表現する秀でたボーカルも注目で。特に細やかな抑揚のつけ方はさすがです。

KIRITO:昼夜関係なくプライベートスタジオでボーカルレコーディングができる環境なんですね。ただ、時間的な制限がないぶん、出口もなくて。自分で自分の歌をジャッジするわけだけど、自分がなにを求めているのかが、経験を積むうちにだんだん分かってきた感じですね。

──それを言葉で説明していただくと?

KIRITO:ピッチやリズムが合っていればいいとか、声量に優れたものであればいいということでもなくて。言葉では説明しづらいけど、敢えて言語化すれば、自分が思い描いた景色の中にある感情が、しっかりと見えるものになっていること。それがゴールというか。

──今作の歌の温度感や表情の豊かさは絶妙です。

KIRITO:もう長く歌ってきたので。抑揚のつけ方という意味では、思いきりデフォルメしたような脂っこい歌い方も若い頃はやってきたけど、それを反省して修正していく過程があって。感情を出し過ぎずに敢えて淡々と歌ったほうがリアルに伝わるってことも経験として得てきましたから。

──プロデューサーとして自身の歌唱を客観的に判断できるということですよね。それにしても、著名プロデューサーと組んでの制作ではなく、ご自身だけで楽曲、歌詞、歌唱、サウンドなどを形にされていることに圧倒されます。

KIRITO:絵画や美術品みたいなもので、決して他人にはわからない、作り手にしかわからないゴールがあるんです。自分のジャッジで、一切妥協せずに、求める完成形へ向けて取り組むことの喜びを感じている。同時に、単なる自己満足で終わらせるのではなく、それをセールスに乗せないといけないという側面もあるから。自分がやりたいことをやり切ったうえで、皆さんへ届けるものとして昇華させなければいけない。そういうバランス感がないと作品にはならないんだろうなと思っています。