【インタビュー】ツチヤカレン、“命の物語”を描く新曲「ユメノツヅキ」リリース「この先も想いを込めて歌っていきたい」

2025.12.02 18:00

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──「ユメノツヅキ」は、鈴ノ木ユウさんが作詞作曲をしたんですね。

ツチヤ:はい。鈴ノ木さんは音楽ユニットのyou two..としても活動をしていて、相方さんがIn the Soupの中尾さん(中尾諭介)なんです。私はyou two..のドラムをいつも任されていて、今年の10月にカホンでレコーディングにも参加しました。

──「ユメノツヅキ」を初めて聴いたのはいつでした?

ツチヤ:2年くらい前です。you two..がライブで必ずやる曲が「ユメノツヅキ」でした。鈴ノ木さんは漫画家のお仕事で忙しくて、しばらく曲を書いていなかったそうなんですけど、「諭介と一緒に歌う新曲を書きたい」という熱量で「ユメノツヅキ」を書いたとおっしゃっていましたね。当時、私はこの曲を聴きながらドラムのアレンジをして、「すごくいい曲だな」と感じていました。

──どのようなところが心に響きました?

ツチヤ:自分はyou two..にドラマーとして関わっていますけど、作詞作曲をする人間として「ユメノツヅキ」のテーマは書けないなと感じたんです。今でもそうですけど、当時も自分が生きることで精一杯なので、社会で起きていることを歌う怖さがあったというか。「若い女の子がなにを言っても……」と諦めちゃう気持ちもあった中、大好きで尊敬している先輩がこういう曲を形にしてくださったんです。ニュースとかに触れても、「見たくない。知りたくない」と思っちゃう自分の感覚を変えてくれたきっかけにもなりました。

──鈴ノ木さんは、この曲に関してどのようにおっしゃっていましたか?

ツチヤ:「これは今書かないと意味がない」とおっしゃっていました。昔の私はお酒を飲んでいる場とかでこういう話題が出ると、「ここでそういうことを話しても何かが変わるわけではない」みたいな感じで、そこに参加したくない気持ちがあったんです。鈴ノ木さんは一緒にスタジオに入った時も、プライベートでもそういうお話をすることがない柔らかい雰囲気の朗らかな方なんですけど、そんな鈴ノ木さんがこういう曲を書いたので、「自分も知らなきゃな。目を向けないといけない」という気持ちになりました。

──ツチヤさんが今年の7月にリリースした「残響ラプソディ」は、ご自身の作詞作曲でしたよね。あの曲も世の中に対して抱いている違和感を表現していたので、「ユメノツヅキ」に通ずるものがあるように思います。

ツチヤ:電車の人身事故が起こった時に思ったことを曲にしたのが「残響ラプソディ」です。「曲を書きたい」と思い始めた時から、「明るいことだけを歌いたい」というのは自分の中になかったんですよね。

──「ユメノツヅキ」は、世界中で紛争が起こり続けることに対する戸惑い、怒り、憂いが伝わってくる曲ですが、サウンドと歌が感情過多になっていないのが印象的です。抑制したトーンだからこそ、時々垣間見える感情の生々しさと激しさがあるというか。

ツチヤ:レコーディングには鈴ノ木さんも立ち合ってくださったんです。自分的には「あまりくどくはしないように」というのは意識しました。歌詞の要所要所が強い言葉なので、そこに悲鳴みたいな声を入れちゃうと、情報が入り過ぎちゃうのかなと。歌いながらどんどん削いで丸くしていくみたいな感じで完成させていきました。

──感情を爆発させない抑制した表現だからこそ想いが生々しく伝わってくることがあるのが音楽だよなと、リスナーとしても改めて感じました。

ツチヤ:熱量マックスのパンクロックもかっこいいですけど、それとは別の表現ですよね。引き算、引いた部分があるからこそガッ!と行った時にグッとくるものが生まれるというか。私もそういうのをこれまでに何度か味わっているので、ピークに至るまでの助走みたいなのは、自分の中で大事にしているかもしれないです。

──サウンドアレンジもシンプルですよね。

ツチヤ:そうですね。シンプルだけど物足りなさがないと感じています。自分のこれまでにリリースしてきた曲はキラキラした感じが多かったんですけど、「ユメノツヅキ」はキラキラではないなと思ってもともとyou two..で録ったオケを使いました。基本はギター2本とカホンという、最近ではあまり聴くことのない構成なので、そこも含めてすごくいい曲になりました。ギターに関してもエレキとアコギを2、3本重ねているくらいなので、かなりシンプルです。

──you two..の「ユメノツヅキ」と、ツチヤさんの「ユメノツヅキ」を聴き較べるのも面白そうです。

ツチヤ:you two..の「ユメノツヅキ」は、キーが低いです。自分のは6度上げして歌いました。意外とそれによって不穏な感じになって良かったというか。you two..に合わせて録ったトラックのキーを機械でギュンと上げたことによって、普通に録るよりも不自然な雰囲気が出たんですよ。それが曲にマッチしていると思います。完全に偶然だったんですけど。レコーディングで時間が余って、鈴ノ木さんが「カレン、「ユメノツヅキ」を一発録りで歌ってみてよ」と言って、とりあえず5度上げしたら「もうちょっと行けるな」となって6度上げしました。それで歌ったら、鈴ノ木さんと中尾さんが「これだ!」という反応をしていらっしゃいましたね。

──鈴ノ木さんと中尾さんにとっても、音楽面での刺激と発見があるレコーディングだったんだと思います。

ツチヤ:そうですね。ボーカリスト3人で制作をするというのは私も初めてでしたし、新鮮でした。ボーカリスト同士だとそれぞれのプライドとかもあるので一緒に制作するとぶつかることもありそうですけど、you two..のおふたりとは相性がいいです。おふたりが私よりも年上で大人だというのもあるでしょうけど、いつも楽しい空気感の中で制作をさせていただいています。

──「ユメノツヅキ」を聴いたファンのみなさんの反応はいかがですか?

ツチヤ:「残響ラプソディ」からの流れというのもあって、「かっこいい! 全編を早く聴きたいです」という反応を目にしています。こういう反応は、今までの曲にはなかった気がしますね。

──先ほど「あまり型にはめ過ぎない」とおっしゃっていましたが、ツチヤさん自身も曲をリリースする度に新しい自分と出会うのを楽しんでいるのではないでしょうか?

ツチヤ:そうですね。迷いもあるといえばあるというか。そもそもドラマーから始まっているので、「ツチヤカレンのカラー」みたいなのがずっとわからずにやっている部分もあるんです。自分に似合うものを自分でまだ解明できていないんですよね。それだからこそ何にでも染まれちゃうのは、危なっかしさでもあるのかなと。そういう模索をしている部分もファンのみなさんが応援してくださっているのかなと思います。今はまだ旅の途中なんです。自分がどういうものをやっていきたいのかは、これから決めればいいのかなと思っているふしもありますね。

──今後も他のクリエイターの作った曲を表現することはありそうですか?

ツチヤ:あると思います。メジャーデビューシングルの「オキナワ」は、石原寧恩さんに提供していただいた曲でした。それまでは全部自分で作詞作曲をしていて、初めて取り組んだ提供曲が「オキナワ」だったんですけど、すごく楽しかったんですよ。作ってくださった方の想いも曲に乗っていて、それを汲み取って表現できた時の達成感が、自分の成功体験になっています。あまりにも自分とかけ離れた曲を歌うことになったらどういう感情になるかわからないですけど、「自分が作った曲でなければいけない」というのは全然ないです。

──タイアップのために曲を書き下ろすのも表現を広げる体験になるかもしれないですよね。

ツチヤ:そうですね。曲を作ることに対して苦しいと思うことはあまりなかったんですけど、最近、生みの苦しみみたいなのを感じるようにもなっているんです。自分の持っているカードを出し尽くした感じもあるので、新しい創作意欲が湧くような出会いがあったらいいですね。

──映画や小説とか、心を動かされた何らかの作品がインスパイアの源になることはありますよね?

ツチヤ:あります。タイアップの練習みたいな感じの作り方をしたことはあるんです。アニメの『ハイキュー!!』を一気見し終えた後、「劇場版のエンディングを自分が作るなら?」と考えたので。自分を軸としながら日記のような感じで歌詞を書くのとは別視点の作り方だったので、そういうこともまたやってみたいです。

──「ユメノツヅキ」も、新鮮な表現に取り組む機会になりましたね。この曲、鈴ノ木さんの描き下ろしイラストのジャケットもすばらしいです。

ツチヤ:イラストを送っていただいた時、感動で胸がいっぱいになりました。鈴ノ木さんと出会ってから5年くらい経ちます。私がシンガーソングライターを始めて間もない頃に知り合ったんですけど、「いつか自分の作品のジャケットを描いていただきたい」と思っていたんです。

──鈴ノ木さんのファンが羨ましがっていると思います。

ツチヤ:そうですよね(笑)。「ユメノツヅキ」は鈴ノ木さんが作詞作曲をしたので整合性がもちろんあるし、まさか自分を描いていただけるとは。感動しています。

──原画、飾りたいんじゃないですか?

ツチヤ:もう飾っています(笑)。ジャケットのためのスキャンが終わったらすぐに連絡をして、「原画もらっていいですか?」と言ったんです。「ユメノツヅキ」は、この先も想いを込めて歌っていきたいですね。歌い続けられるように自分も頑張らないと。メッセージがいろいろな人に伝わってほしいです。「カレンの声になると、すごくすんなりと受け入れられる歌になった」と鈴ノ木さんに言っていただので、自分でもそれを意識していきたいです。

──ライブでも歌っていきますか?

ツチヤ:はい。最近、結構ライブを入れ始めているんです。私は感情の起伏が激しいタイプなので、あんまりライブをしたくない時もあるんですけど、今は弾き語りが楽しくなってきています。すごくいい波が来ているので、頑張れるところまで頑張っておきたいです。

──ライブや弾き語り動画で弾いていらっしゃるアコースティックギター、かわいいですよね。指板に猫のインレイが入っているのが目を引きます。

ツチヤ:「オーダーメイドですか?」ってよく訊かれますけど、あの猫、ステッカーなんです。事務所の先輩の中田裕二さんのA.Yairi(Alvarez Yairi)のギターで、使っていないのが私のところに回ってきました。

──いずれオーダーメイドで、白蝶貝とかの猫のインレイが入ったオリジナルギターとかを作れたら素敵だと思います。

ツチヤ:自分のお気に入りをもう1本欲しいなと思うようになっているんですよ。A.Yairiは弾いている人が周りにいなくて、個性があって気に入っているので、2本目もぜひと思っています。ギターの弾き語り動画もたくさん上げているので、たくさん観ていただけたら嬉しいです。

取材・文◎田中 大

◾️デジタルシングル「ユメノツヅキ」
配信:https://karen-tsuchiya.lnk.to/yume-no-tsuzuki

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