「M-SPOT」Vol.031「ポストロックやオルタナの流れを汲んでいる人たちにとって、今は頑張り時かもしれない」

2025.08.26 20:00

Share

前回のVol.030では「時代性や流行に乗ることのない、ニッチな音楽」と題し、不夜城(フヤジョウ)というバンドの「Otherside of the Moon」という作品を紹介した。ポストロック~ブラックメタルの激しさとダークさを全面に押し出したそのサウンドは、冒頭2分40秒までイントロが続き曲の長さは10分に及ぶという、SNSからのバズを期待するようなことは一切眼中にないであろう作りに徹したものだった。

音楽は自由だ。作り手にも聴き手にも成約はない。だからこそ、世のトレンドに乗ることがなくても注目すべき作品は数多存在するし、ネット文化の潮流に乗りにくても世に知られるべき作品はたくさん存在する。

前回に引き続き、マニアックな音楽性を内包しながらも意外性を感じさせるキャッチーさに耳を引いた作品を取り上げてみたい。いつも通り、ナビゲーターはTuneCore Japanの野邊拓実、進行役は烏丸哲也(BARKS)である。

   ◆   ◆   ◆

──今回ご紹介したいアーティストはTHE ANDS(ジ・アンズ)というバンドの最新曲「after all」です。サウンドそのものや楽曲アレンジの尖り具合に対して、メロディとその聴かせ方がやけにキャッチーなんです。キャッチーと言っても、迎合して売れ線に走るというものではないんですね。決してポップスではないので。2011年結成のバンドなので、ここに来るまではいろんな試行錯誤もあったと思われ、そこに興味を惹かれたんです。

野邊拓実(TuneCore Japan):2011年といったら僕は大学1年生の時です。キャリア長いですね。

──で、2021年にプライベートレーベルを発足しているので、インディペンデントで地に足をつけて活動しているんです。

野邊拓実(TuneCore Japan):最初ぱっと聴いた感じは、やっぱりポストロックとかオルタナなどの影響を受けてるのかなと思うんですけど、歌が始まってみると「歌もの」というか歌の軸がしっかりしていますよね。なので、なんて言うんですかね、「ポストロック初心者に聴かせたい」というか「入門の入り口になりうる音楽だな」って思ったりしました。

──思うに、バンド結成当初とか、悩み始めた頃とか、いろんな道を辿って今この位置にいるのかなって気がします。お客さんに届けたいもの、届けるべきもの、自分たちができるもの…そういったことを悩みながら、どこに自分たちのアイデンティティがあるのかを一生懸命探してきた…そんな足跡がこの曲に刻まれている気がしたんですよね。完全に妄想ですけど(笑)。

THE ANDS

野邊拓実(TuneCore Japan):それこそ僕もそうなんですけど、ポストロックとかをやろうとしている人たちは、やりたいこととやるべきことが乖離するんです。「やっぱりどう考えても世間的に求められてないな」みたいな。シューゲイザーに関しては、最近その流れはちょっとあるなとは思うんですけど、でもそれも求められているものは女性ボーカル系…要は羊文学からの流れだよなあ、みたいなことを感じます。

──わかる気がします。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうなった時、「自分のやりたいことってこういうものなんだけど、それをそのまま出しても誰にも何も伝わらなくて、伝わらないんじゃやってないのと一緒だよね」というところに行きついちゃって、その結果、わかりやすいポイントを作ろうとアプローチしていきますよね。そういう試行錯誤のひとつが、このバンドにもあるのかもしれない。あるいはやりたいことのど真ん中がこれなのかもしれない。

──なるほど。

野邊拓実(TuneCore Japan):僕なんかは、ど真ん中でこういう音楽をやりたいタイプですから。いい感じの歌もののポップスでありたいし、でもディープなシューゲイザーやアンビエントあたりからの影響を受けたところもやりたい。でも対バンの人たちなどを見ていると、本当にやりたいことはもうちょっとわかりづらいものだったり、ニッチな人もいっぱいいて、アーティストというのはそこのせめぎ合いを考えながら音楽をやっているんだなって日々感じます。

──でもそこから、これまでにないような匂いをまとった新たなポップスが生まれてきたわけですから。

野邊拓実(TuneCore Japan):それは確実ですね。あとね、全く同じ音楽をずっとやってても、3年前だったら流行んなかったけど、今だったら流行るみたいなものもあったりするので、ここは難しいですね。

──時代が追いついたってやつですね。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうです。時代って周期になっていて、ブラックミュージック的なものと非ブラックミュージック的なものが繰り返してループしている感じがするんですけど、そこにどうフィットするかもありますよね。今ってシティポップムーブメントが終わって、次どうする?ってなったまま何も固まらずに「何が流行ってるか誰も答えられない」時代だと思うんです。順番としては非ブラックミュージック的なものですから、シューゲイザーあたりが目立ちつつあるのは頷ける文脈ですけどね。

──なるほど。

野邊拓実(TuneCore Japan):そういう流れを考えても、THE ANDSを始めポストロックやオルタナの流れを汲んでいる人たちにとって、今は頑張り時かもしれないなっていう気もします。

──時代における大きな音楽の動きの中で、自分たちがどういう流れに乗ってどちらに舵を取ってオールを漕ぐべきなのか、アーティストってそういう視点も必要なんですよね。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。何になりたいのか、どこに到達したいのかによるんですけど、まずそこを見定めて、それまでの道のりはどうするかを決めて、さらにその周辺がどうなってるのかを考えて、ちょっと修正する…みたいなことって大事です。これはバンド活動に限らず、企業活動でも同じですけどね。

──一般的なビジネスよりよっぽど厳しいのが音楽の世界でもあるから。

野邊拓実(TuneCore Japan):バンドって、どう考えたって死ぬほどレッドオーシャンですよ。競合が死ぬほどいる中で、消費のサイクルもめちゃくちゃ早い。そんな中で自分たちを売っていかなきゃいけないっていう超難しい経営だと思いますよ。

──そうですよね。こんなに難しいビジネスってないですよね。

野邊拓実(TuneCore Japan):だから結局「運ゲー」みたいになっちゃうのも、ある種しょうがない。当てるためにバイラル狙いになってしまうのも仕方ないところもありますけど、だからってバイラルを狙ったところで、やっぱり保証はないんですよね。「これやればバイラルする」っていう銀の弾もないので、結局バイラルしなかった事を踏まえての活動をきちんと考えておかなくちゃいけない。自分で言いながら、自分で耳が痛いんですけれね(笑)。

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

THE ANDS

ポスト・ロックやオルタナティヴ・ロックをベースに多彩な要素が混在した音楽性が特徴。これまでに、THE VELVET TEEN(UK)、Mariko Doi /YUCK(UK)、Last Days Of April(Sweden)、ADELAIDE(Chile)など、海外アーティストの来日サポートアクトなども行っている。近年は、台湾のロックフェス「Spring Scream」、中国大陸最大級のロックフェス「MIDI FESTIVAL」への出演など、台湾、香港、中国大陸など東アジア圏へ活動シェアを拡大。その他、ニトロプラス キラルのBLゲーム・ドラマCD『スロウ・ダメージ』への楽曲提供なども行っている。2021年プライベートレーベル『vorfahr』を発足。
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=739328

◆「M-SPOT」~Music Spotlight with BARKS~
◆BARKS「M-SPOT」まとめページ