【インタビュー】三月のパンタシア、ベストアルバム『多彩透明なブルーだった』リリース「この10年間が、私にとっての青春」

三月のパンタシアが、8月20日にベストアルバム『多彩透明なブルーだった』(読み:たさいとうめいなぶるーだった)をリリースした。
湧きあがる創作への熱い想いを胸に、2015年8月16日の活動開始から走り続けてきた10年間。その間、音楽ユニット・三月のパンタシアだからこそ表現できる“青春”というテーマを見つめ、さまざまなクリエイターとともに音楽×イラスト×物語が交差する作品やライブを展開してきた。
今作には、そんな三月のパンタシアがこれまで描いてきたキラキラとした輝かしい楽曲「三月がずっと続けばいい」などを詰め込んだDISC1の「彩青」(イロドリブルー)と、それとは異なる「ビタースイート」「恋はキライだ」などのダークな世界を描いたDISC2の「憂青」(ウレイブルー)といったさまざまな“青”をモチーフにした楽曲、全28曲を収録。8月6日に先行配信された新曲「LuMiNA」(ルミナ)も加え、みあ(Vo)がこれまで表現者として培ってきたあらゆる“青春”が堪能できる2枚組となっている。
インタビューでは、そんな彼女の尽きない創作意欲の根源とこれまでの軌跡を紐解きながら、その先に見据える未来について話を訊いた。
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◼︎音楽で貰った愛を返していきたい
──まずは10周年、おめでとうございます。振り返ってみると、いかがですか?
みあ:自分の感覚的には、「あっという間だな」という気持ちが大きいですね。10年間の活動を振り返った時に、毎年いろんなことに挑戦してきたので、常に焦りとか緊張感を持ちながら走り続けてきました。10年続けられた有り難さと重みを感じますね。
──活動のなかで転機になった出来事は?
みあ:転機になったのは、メジャーデビューの翌年に行った1stワンマンライブ<三月のパンタシア ワンマンライブ~きみとわたしの物語~>ですね。そこに至るまでは、どうしても自分自身の音楽を上手く肯定できないというか、認めてあげられない気持ちがあったんです。自分が好きではじめた音楽ではあるんですけど、かといって物凄く歌唱力があるわけでもなくて…ただ、音楽が好きな気持ちだけで活動をはじめて、当初は「この先、大丈夫なのかな?」という不安を口に出来なかったんです。
──夢を叶えても、不安を抱えていた?
みあ:そうですね。もちろん、未来に対する明るい希望も持って、表では「楽しみです」「メジャーデビューうれしいです」とワクワクした気持ちばかり話していたんです。けれど、本当はそれと同じくらい不安とか自信のなさを自分の中に抱えていたんですよね。
──それがワンマンライブを経て、どう変化しましたか?
みあ:ステージに立って、お客さんの生の声援やエネルギーを受け取った時に、「三月のパンタシアとして音楽を創り続けていいんだ」「歌を届けて良いんだ」とファンに肯定してもらえた気がしたんです。
──それは、良い変化ですね。
みあ:それまで、SNSやYouTubeのコメントを通じたメッセージに励まされていた部分もあるんですけど、ただライブという生の場所で得られるパワーはもの凄いものがあるなと思いました。1stワンマンライブで自分に自信を持つこともできたし、不安な気持ちよりも、自分が自信を持って「音楽を届けなきゃ」という前向きな気持ちになれた最初のキッカケでしたね。
──三月のパンタシアのライブは、音楽×イラスト×物語という3つの軸で、多くのクリエイターさんの力を借りながらもその世界をライブでも表現してきましたよね。楽曲と連動した小説を書いたり、到底一人でやるようなことではないところまでやってのけるから、ライブを見る度に秘めた力強さみたいなものを感じていたけれど、回を重ねる度に人間味を増してゆくライブが何より印象的でした。
みあ:そうですね。ライブでも物語を体感してもらうことをコンセプトにしているんですけど、たぶんライブの中で発するみあ本人の“物語とは離れたところにある言葉”という意味では、より音楽に向き合えていたんだと思います。お客さんやファンの皆さんに対しても、「より近くに行きたい!」という気持ちが、年々強くなっている気がするんですよね。1stワンマンライブで自信が得られたからといって、それ以降も辛いこと、続けられるかどうかとか不安になることもたくさんありました。けれど、その度に救ってもらえたのはリスナー、そしてファンの存在だったと強く思うんですよね。なので、貰ってきたものが多いぶん、音楽で貰った愛を返していきたいという気持ちがありますね。

──ライブは、そんなみあさんの創作意欲をかき立てる重要なファクターでもあるんですね。
みあ:一番好きなのが、ライブだと思いますね。1stワンマンライブのタイミングから、制作に関しても意欲的になれたんですよね。
──それまでは、違った?
みあ:それまでの自分は、物語を伝える語り部的な想いがあったんです。けれど、作家のみなさんに物語を書き下ろしていただいて、声で伝える立場だと思って活動していたんだけど、「みあが歌いたい物語はこういうものだ」とか「サビではこういう感情を強く訴えかけたい」という創作意欲が膨らんできて、自分で作品に血を流してみたいなと思うようになったんです。
──凄い創作意欲が湧き上がってきましたよね。
みあ:その想いがカタチになったのが、<ガールズブルー>という企画でした。「青春なんていらないわ」(2018)という楽曲と、自分が書き下ろした作品を連動させた自主企画を始めたのが2018年ぐらいだったかな。
──それ以降も、物語性に富んだステージを続け、2024年3月には音楽とともに紡いだ春の出会いの物語<ブルーアワーを飛び越えて>というライブを開催しています。短編小説がnoteで公開されていて、その作品に飛び込んだようなライブの演出が面白かったです。こんなことやってのけるアーティスト、他にいないよなと純粋に感じました。
みあ:嬉しいですね。改めて、「自分は物語が好きなんだな」と思うんですけど、もともと漫画とか映画とか小説が小さい頃から好きでした。もちろん、音楽も好きでその中に流れる物語に没頭するのが好きで、だからこそ自分で書いたり物語を紡ぐっていう行為も楽しいんです。なので、自分が三月のパンタシアをやるからには、何か音楽だけでなくて物語まで体感してもらえる、物語と音楽をシンクロさせる音楽体験を楽しんでもらえるようなことを提供できたら良いなという想いを持ちながら活動を続けていました。
──体感したことが無い人には、ぜひ体感してほしいライブですが、その没入感を与えたい気持ちは強い?
みあ:そうですね。やはり三月のパンタシアの“物語世界”に、その時間だけは日常を忘れて没入してもらいたいですね。非日常体験って人間が生きていく上ですごい大切だと思うんですけど、その大事な時間、ライブのチケットを買ってきてくれている大切なリスナーに、三月のパンタシアだからこそできる“ライブ体験”を楽しんでもらいたい気持ちは毎回ライブをするたびに思います。
──けど、それを完成させるのにはエネルギーが必要だと思うんです。どこからそのエネルギーは出てくるの?
みあ:三月のパンタシアは制作スタイルも独特で、まず私が曲にしたい物語を短編小説にして、その小説に合わせて曲を作ってもらって、それに合わせて歌詞を書くスタイルなんです。「小説を書くのってめちゃ手間じゃないですか」っていろんな人によく言われるんですよ。でも、やっぱり書いてる時間は楽しいんですよね。ありがちな答えになっちゃうんですけど、自分の書く物語やそこから生まれる音楽を楽しみにしてくれているリスナーの顔が思い浮かぶと大きな原動力になりますね。
──2021年にはご自身の書き下ろし小説『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』(幻冬舎)も出版されていますね。
みあ:自分の主軸は音楽にあると思っているけれど、一冊の単行本として書くときは、自分が書きたい物語をひたすら書いてます。
──作家としては、どんな影響力を与えたい?
みあ:「いま学生時代を過ごしている若い世代の方に共感できるな」とか、「同じ痛みを抱えている読者の人がいたら自分が小説の中でその痛みを拭い去ってあげられたらな」みたいに思ったりします。あと、学生時代を過ぎた大人の方に読んでいただくなら、あの頃の甘酸っぱい気持ちやどうしても言えなかった切なさとか、若い頃に抱えていた焦燥感や苛立ち、モヤモヤしていただけで上手く言葉にできなかった感情を、小説の中で言語化して描くことで、「あの時わからなかった気持ちってこういうことだったんだ」と思ってもらえると嬉しいな、と思いながら青春小説を書いてますね。
──10年も同じテーマと向き合うこと自体珍しいけれど、そもそも“青春”というテーマにはどのような経緯で辿り着いたんでしょうか?
みあ:それこそ、活動当初からそのテーマがあったわけではないなと、振り返ると思っているんですけど。最初は“出会いと別れを空想する音楽プロジェクト”というざっくりしたテーマがありました。そこから、ボカロPのすこっぷさんに書き下ろしてもらった「day break」という楽曲をレコーディングして、それをもとにイラストレーターさんにミュージックビデオで使用するイラストを書いてもらったんです。その時に、こちらから「こういうふうに書いてください」とかオーダーは全くしていなかったんですけど、そんな中で描かれたイラストが凄い美しいブルーで描かれたイラストだったんです。それって、自分の歌声とか曲の世界観でブルーの色彩が思い浮かんだのかなと思って、その時に「三月のパンタシアはブルーが似合うんだな」と思って、それ以降も色味として青を大事にしてきたんです。
──浅見なつさんのイラストが素敵なミュージックビデオですね。第三者によって、自分の長所を発見できたような感覚に近いのかな。
みあ:そうですね。そこから「青ってどういう色なんだろう?」と思った時に、やっぱり青春って言葉が浮かんで、青春の青臭さだったり、ブルーな感情、憂鬱さが連想されて三月のパンタシアが歌ってきた感情に寄り添ったものだし、大事なテーマだから「これからも歌い続けていきたいな」とインディーズ時代に曲を作りながらそのテーマが形作られていきましたね。
──そこからさらに多面的に“青春”を描いています。
みあ:女の子の青春期の心の揺らぎや憂鬱を歌うという2ndアルバム『ガールズブルー・ハッピーサッド』(2019)のタイミングで、より具体的なテーマが出来て、どんどん青春を歌っていきました。その後2023年からは“青春を暴く”という、それまで歌っていた青春のキラキラしたものや片思いの切なさとか、美しい煌めきではなく、「青春ってそれだけじゃなくて、本当はもっとみっともなくて滑稽な部分だってある」というところも歌うようになりましたね。
──“青春を暴く”では、これまでのイメージを大きく変えた「ピアスを飲む」(2023)も衝撃的でした。
みあ:いままでは、綺麗な音楽を届けるべきだと思ってたけど、「その裏側にあるドロっとした部分も、音楽として届けていきたい」と思ったんですよね。青春を一面だけ描くのでなく、多面的に描くことこそが青春を極めることじゃないんだろうかって思ったりしました。






