教授の新作が出る。’04年1月21日にシングル「undercooled/Ngo」、そして’04年1月25日にはアルバム『CHASM(キャズム)』。手元の資料では今回のアルバムを「9年ぶりのソロ・アルバム!」と紹介している。’98年にはピアノ・ソロ・アルバム『BTTB』(そのシングル「ウラBTTB」は大ヒット曲「energy flow」を収録して100万枚突破)を、’01年には『CASA』など一連のボサノヴァ作品もリリースしているが、どうして9年ぶりなのかというと、 「企画内容が限定されていない“フリーフォーム”の作品としては、’95年の『SMOOCHY』以来となる」からだ。
それはともかく、確かに『SMOOCHY』以降の流れを追っていくと、ピアノ・ソロ、トリオ、さらには壮大なオペラなどと、アコースティックな楽器を重視した傾向が目立つ。その昔、アナログ・シンセのイマジネイティヴな極上サウンドを聴かせてくれていたころからのファンからすれば、この時期の教授は自身の音楽の原点とも言えるピアノと、がっぷり四つに組んでいるような印象だったと思う。
「それは「energy flow」が売れたからでしょう。“癒し”とか言われて(笑)。でもその間、他にもいろいろとやっていて、必ずしもピアノ一辺倒になっていたわけじゃないんですよ」
つまり教授の自己分析では、アコースティックなものとテクノなものの波があって、’90年代の後半にかけては(最先端のレコーディング技術などを用いつつも)気持ちはアコースティック方面に振れていったということらしい。だとすればまた、逆もあり。もう教授は、いわゆる“ポップ”のフィールドには戻ってきてくれないのでは……、というお節介な心配を抱いていたファンの一人としてはちょっと安心するのだが、そもそも教授にとって“ポップ”って何だろう。
「(ポップというものが)何かを人に伝えるときの“伝え方”だとすれば、そのことは今でもよく考えます。たとえば政治では、“人にどう伝えるか”は、とても大事な問題ですよね。個人的なことでも、結婚するために女性を口説くとか、恋人に真意を伝えるとか。ほんとんど生活のあらゆる局面というのは、実は“人に何をどう伝えるか”っていうことなんじゃないかと思えてくるんですよ」
政治と言えば、かつては与党政権の一角を担ったものの、最近はやや生彩に欠くあの政党について、
「どんなに言っていることが正しくても、伝え方が悪いと、むしろマイナスになってしまう。耳も傾けてくれなくなっちゃうということがあるわけですよね」とも……。
そして今回登場する新作。まずはシングル「undercooled/Ngo」について。「undercooled」は、韓国のラッパーMC Sniperによる強烈な反戦メッセージを含みつつ、これをオリエンタルで哀しくも優しいメロディで包んだナンバー。
「“undercooled”ってのは聞き慣れない英語ですけど、直訳すると“不十分に冷却された”という意味です。最近、ちょっと世界中が頭に血が上っている状態というか、クールじゃないですよね。僕としては、“ちょっとクールダウンしてよ”って言いたいわけ。“結局、お山の大将には逆らえないこの世界ってどうなのよ、これでいいわけ?”みたいな気持ちがとても強いんです」
一方の「Ngo」(ンゴー)は、なかなかに心地よいボサノヴァ調。それも教授のフィルターを通してひねりを利かせたような、実に軽快なチューンだ。
「これは100%“new balance”のために作った曲。“N”はnew balance。つまり“ニューバランス、ゴー!”っていう造語です(笑)」
そして待望のアルバムは、取材した時点(’03年12月25日)で「ほぼ終わりに近づいた」とのことだが、そのサウンドとは?
「デジカメとかカメラ付きケータイを使って撮った写真をパソコンに取り込んで加工したり、最近はみんな自分なりのデザインを作って楽しんでますよね。それと同じように、面白いなと思った音を取り込んで、チョキっと切り取って、グワーンと引き伸ばしたり、ぼかしてみたり。そんなphotoshopみたいな感じで、僕にとっての’03年という一年間の日記のようなものを、グシャッと集めたようなアルバムですね」