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凄腕のミュージシャンと組み、大胆なエンジニアを起用する。依頼されれば瞬時に曲を書き、’77年のデビュー当時と変わらぬ強力で自信にあふれたヴォーカルを聴かせる。だがエルビス・コステロの人気の本当の秘密は、音楽に心底没頭していることだ。新しいアイディアの飽くなき追求と、貪欲なまでに音楽を吸収する姿勢にある。
「今でも外へ出かけてたくさんのレコードを買うんだ」と彼は言う。「レコード店の雰囲気が好きなんだよ。こうしてレコードを買い続けることができるのも、お金を十分稼ぐからできることのひとつだね。僕はあまり贅沢するほうじゃないけど、これはそのひとつなんだ」
そのコステロの最近の贅沢がアルバム『ホエン・アイ・ワズ・クルーエル』である。ここ数年コラボレーションやバラードを歌うことが多かったが、今回はロックン・ロールに戻っている。アトラクションズのメンバーのスティーヴ・ニーヴ(Key)とピート・トーマス(Dr)に、ベースのデイヴィー・ファラガー(クラッカー、レッド・ハウス・ペインターズ)、それに3人組のエンジニアが大きな貢献をしてくれたという。
「一緒にプロデュースをしてくれた連中のおかげで、この圧倒的なハチャメチャサウンドが生まれ、さらに面白い仕上がりになった。僕のリズム・スケッチを、もっとハッとするような新しいリズムにして、曲のテンションを高めてくれているんだ」
“同じことの焼き直しはやらない”を信条とする以上、何か工夫を凝らしたものでなければ気がすまない。
「今回は今までと同じリズムを使いたくなかった。僕にとって面白いビートを考え出したいんだ。R&Bとか自分では進んでやらないような音楽からアイディアを取り入れて、僕が面白いと思うサウンド、例えばヒップホップやレゲエのレコードでやっているベースなんかを使ってみたい」
『ホエン・アイ・ワズ・クルーエル』はずっしり響くボトムエンドのビートが基調で、「スプーキー・ガールフレンド」とタイトルトラック、それに「アリバイ」は緻密に構成されたミステリー小説のページをめくるような曲だ。
「うちでドラムボックスを使ってたんだ。もちろん僕の手にかかると普通のドラマーが考えつきもしないようなパターンができ上がる。そこがいいんだよ、ドラムでは絶対にできっこないパターンになるわけだから。これも機械の良さで、物理的に不可能なクロス・リズムなんかができる。その上で、人間でも十分できて、かえって人間のほうがよりうまく表現できるエレメントはどれか、あるいはリズムボックスやサウンド合成だけでやったほうがいいものはどれかを決めればいい」
「ピアノで書いたものはひとつもないよ。まったくコードがなくて、リズムと短い言葉だけのものも多いし、リズムのような歌い方がメロディを作り上げている。“ソウル・フォー・ハイアー”や“スプーキー・ガールフレンド”を聴くと、歌がほとんどチャント(リズムと単調なメロディーで歌うこと)になっているのが分かるはずだ。初めはメロディは全然なかった。でも僕にとっては、メロディが全くないのと、(バート・バカラックとの)コラボレーション・アルバム『ペインテッド・フロム・メモリー』でメロディを前面に出したのとは、大して変わりはないんだよ」
コステロのレコード・コレクターおたくの一面と、テクノロジーおたくの一面がレコーディング・スタジオで合体すると、凡人がとっくに眠りに着いた時間でさえ音楽作りに熱中する、という事態になるのだ。
By Rob O’Conno/LAUNCH.com |