| 2002年3月8日に新宿リキッドルームで行なわれたイベント<Revirth presents Earp>は人で埋め尽くされていた。
サイドラム、ハヌマンのライヴ、田中フミヤ(カラフト)のDJがフロアの熱量を上げた後には、レーベルの屋台骨的な存在であるナムとカームの別プロジェクト=オーガン・ランゲージが登場する。リヴァース初の契約アーティストでもあり、かつて短い間だがプロダクション・チームを結成していた過去を持つ2人がメイン・アクトとして控えている。
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▲NUMB
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ここ2年ほど、ナムがソロとして、あるいはレーベル・メイトである盟友サイドラムと2人で精力的に取り組んできたラップトップ・ライヴでは、従来のブレイクビーツの定型パターンから次第に外れ、電子音の粒が泡立つような、より自由で可塑的なアートフォームへと移行しつつあることが垣間見えた。
その延長線上にある今回のライヴ。
「サウンド・ファイルを用意し、どう構成するかは前もって決めないんだ」とナムは言う。原子状のパルスが次第に濁流となって渦を巻き、原始(幻視?)の海へと還っていくかのように分散と統合を操り返す…。DJミックスとフリー・インプロの中間的な作業を経てパワーブック2台から紡ぎ出されるのは、そんな起伏に富んだ音魂だ。
途中で機材のMacが止まり、急遽DJクロックが場をつなぐというアクシデントもあり。クロックが回した最初のレコードはブルー・ハーブ。“ナムのライヴにボス・ザ・MCが参加した?”と一瞬耳を疑った人もいたかもしれない。2001年、シリコム周辺の新世代が易々と海外に飛び出し、オウテカの『Confield』はロック系リスナーにまで浸透しオーヴァー・グラウンドな支持を得たが、だとすれば、既に10年の活動歴を持つナムの動きが視界に入ってきても不思議ではないだろう。
続いて登場したのはオーガン・ランゲージ。ラップトップを操るコンダクターといった趣のFarr(カーム自身)を中心に、キョート・ジャズ・マッシヴの吉澤はじめ、カームの実弟Kenkou、DJバク、ホーン・セクションを含む10名前後の大所帯バンドが、端正で内省的な構築美に貫かれたカームの音楽を、外へ外へ…とまさしく「臓器のことば」=ミュージシャンの肉体性が持つリズミックな躍動で押し広げるというもの。
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| ▲OrganLanguage |
予期せぬハイライトは、エゴ・ラッピンの中納良恵、孤高のディジェリドゥ奏者Goro、ボス・ザ・MCが色を添えてのアルバム収録曲「Colours」の演奏だった。
ボスと中納の参加は当日決まったというが、1年ぶりに公に姿を現わしたボスは「いろ、とり、どり、の、おと」という即興的なフレーズを何度も繰り返し、中納のスキャットがその上を泳ぐ。オーガン・ランゲージのアルバム中、最も混沌とした表情を持つ同曲が、既にして持っていたオープン・スペースをこの瞬間だけでしかありえない色に染め上げる。それぞれの流儀はお馴染みのものだが、やはりフロアは沸き立つ。
ラストには、ライターに火を灯すという暖かくピースフルな一幕も。それが決してイヤミではないのは、親指ピアノを模したミニマルなフレーズが耳を引く「Kagura」を始めとする楽曲性の高さと音楽に対するカームの真摯な姿勢があるからだろう。
オーガン・ランゲージ終了後、少し寂しくなったフロアを最後まで引っ張ったのは、DJクロックとブルー・ファウンデーションのタツキ(DJアフロ)によるDJライヴだった。
ピッチを落としたクリック・ハウスとヒップホップ的なアフタービートという2種類のグルーヴを、BPMとローファイなテクスチャーを媒介に自在に行き来するプレイ。スーテックの曲の後にはQティップの声が被り、ハーバートの後にはボーズ・オブ・カナダがメロディックな裏打ちを施し、最後はクロックとテニスコーツのメンバーによるプロジェクト=Cacoy(カコイ)の名曲「Piracle Pa」をテンポアップさせ、ハウシーな快感原則を引き出す。
どの曲にもDJ2人(+オーガン・ランゲージのライヴではやや抑え目だったDJバク)のエフェクトを駆使したスクラッチが、装飾音的な音遊びでもアトーナル(無調)なノイズでもターンテーブリスト的なルーティンでもなく、音楽的な楽音の一部として、あるいはその全てのように過剰に加えられる。が、決してウルサクはない。それは多彩な選曲で誰もが共感できるメロウネスを基準にしているからだろう。
硬と軟。あるいは陰と陽。
ナムとオーガン・ランゲージを両極の柱とするリヴァースが5年をかけて成熟した姿がそこにあった。ようやく、でもあり、ここから、だとも思う。ここが数多ある通過点のひとつでしかないとしても、空が白々と明けた頃、「やはり待っていてよかった」と素直に思えたのは確かなのだから。
取材/文●富樫信也(Nobuya Togashi)
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