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今回取材したイベント<extremes44>の為にドイツから来日した、ヴィクセル・ガーランドも“エレクトロニカ”に注目が集まる現象に一役買ったアーティストのひとりであることは間違いないだろう。
今回が初来日となるだけに、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみにしていた人は多かったとはずだ。原宿にある洋服のセレクトショップn44°主宰なだけに、ファッション好きの女の子が目立ち、アロマキャンドルの焚かれた会場は、いつものリキッドルームとは少し違った雰囲気に包まれていた。
最初に登場したのはレイ・ハラカミ。実はハラカミ氏のライヴを観るのは初めてだったが、始まるや否や、一聴してそのサウンドの虜になってしまった。まず初めに脳を叩きつけたのは、複雑で自由なリズム! それと同時にその上に心地よくのっかる美しいメロディ・ライン。先の展開が全く読めない変化球だらけのトラックに、心も身体もすっかり踊らされてしまっている。 大好きなアーティストの聴きなれた曲を期待するのもよいが、これだけ予測不可能なのはそれ以上に楽しい!!! 次は何がくるの!? どんな球が飛んで来る? 最初から最後まで、とにかく期待しっぱなしの裏切られっぱなし(もちろんいい意味で)。
ハラカミ氏の奏でる音楽もまた、エレクトロニカと呼ばれるが、彼の音を聴いていると、ジャンルというものが全く無意味に思えてくる。フリージャズ~ミニマルミュージック~カンタベリー・ロック、現代音楽.…彼が影響を受けたとされるどの音も、全てハラカミ・ワールドの中に消化され、まるで原形をとどめてはいない。残念だったのは、スタートということもあり、まだ会場の入りが鈍かったこと。私はこのライヴを体験して、一人でも多くの人にハラカミ氏の音楽に触れてほしいと心底思った。
こういったイベントには欠かせなくなった、DJ Kenseiのプレイを挟みつつ、Museum of plate~ASSEMBLER(竹村延和)とライヴは進行していく。
塚本サイコさんのユニットMuseum of plateは流麗なピアノがメインのサウンドで、彼女の創り出す世界もまた、フリーで独創的だ。
少し前はかなりノイジィなライヴを行なっていた竹村延和氏も、別名義ASSEMBLERでの今回のプレイは少し趣きが違ったようだ。トレードマークの長髪にスーツを着た姿は、さながら"音響系の貴公子"といった雰囲気。竹村氏のライヴに女の子率が高い理由は、こんなところにもあるのかもしれない。
そして最後にメインのヴィクセル・ガーランドが登場。
ヨハン・フォラー率いる、4人のメンバーがステージに登場。かな~り地味めに登場した彼らは、「“エレクトロニカ/音響系”のカルト的存在」という音楽各誌の表現が、とっても大袈裟に聞こえてくる。キーボードの前に座り、ゆっくりと歌い出したヴィクセル・ガーランドの姿は、あまりにも自然体でこちらが拍子抜けする位だった。
エレクトロニカという言葉とは裏腹に、ヴォーカルや生演奏を多用したり、あくまでもアナログなライヴ演奏。来日以前の評判ゆえに、見る方も特別な"何か"を期待していた様な気がするが、彼らの音は初めから"自然体"だったのだ。
エレクトロニカという言葉が定着する遥か前から、独ケルンにはそういったシーンが存在していた。その中でケルン出身のアーティスト達は、ごくごく自然にそれを取り入れてきたのだと思う。それが"オーガニック・エレクトロニカ"と呼ばれる所以であり、普段のさりげない生活の中から、彼等の音が生まれ、溶け込んでいくのだろう。
妖艶な女性ヴォーカルの歌声は、いい意味で力の抜けた大人っぽさがあり、機会があれば今度ゆったりとおいしいお酒と食事を楽しみながら、彼等の演奏を聴いてみたいと思わせた。特別な"何か"を期待するのではなく、今度はさりげない日常の中で彼等の音を楽しんでみたい。
これからも“エレクトロニカ”という言葉を様々なシーンで見たり、聞いたりするであろう。しかしながら、エレクトロニカとはあくまでも手法であり、このライヴ・イヴェントを通じて良い音楽をカテゴライズするのは、とても無意味なことに感じた。特別な気負いなく純粋に“音”を楽しみたい。そんな基本的な衝動を思い出させてくれた今回のイベント。“KEEP TO THING SIMPLE”、音を楽しむことは、ほんとにシンプルで、自然な行為なのである。
文●三島珠美枝(Bonjour Records)
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