【ライブレポート】和太鼓奏者・黒流(和楽器バンド)の『RE:奏 -Riso-』と「理想」

芸歴50年、3歳から楽器に触れ伝統の道へ。伝統と革新の狭間でヴィジュアル系バンドのボーカルを担当したり、数々の音楽ユニットにも参加、紆余曲折を経て志を同じくする仲間と共にバンドを結成し横浜アリーナなど大きな舞台に何度も立つ。さらには某有名テーマパークでの指導・振付や歌舞伎のレコーディングにも参加したり、先日はNightRangerの武道館公演にもゲスト出演──。
こう聞くと、ちょっと意味がわからないとまで思ってしまう。これは和太鼓奏者・黒流の経歴である。改めて、意味がわからない。
2024年に彼が和太鼓で参加していた和楽器バンドが活動休止。いつか再会するときに向けて、メンバーたちはそれぞれの道を歩んでいくこととなった。しかしバンドが活動休止していてもメンバーたちは色々な形で音楽を届けてくれており、バンドのときよりも濃厚な個性を魅せてくれているように思う。そして黒流もまたそのひとり。自身の音楽性に振り切ったメンバーもいれば、より近い距離感での活動を行うことにしたメンバーもいたり様々な中、黒流は前述した幅広い経験からくる“エンタメ力”を魅せてくれているなというのが私の所感だ。
黒流は9月に初のソロミニアルバム『RE:奏 -Riso-』をリリース、それに付随して福岡、大阪、東京の三か所でソロイベントを開催した。ちなみにこのミニアルバムは全曲、和楽器バンドの町屋が編曲を担当。「落陽」「マルサンカク」では彼のギターソロも聴けるという豪華版だ。このソロイベントのファイナルにあたる東京・神楽音公演にお邪魔させてもらったので、黒流がどんな“エンタメ”を魅せてくれているかをお伝えしようと思う。

開演時間、“AI黒流”による前説が流れ始める。AI風に淡々として語られていくライブの注意事項……と思いきや、だんだんとAIが意思を持ったように「いまこそやりたいことをやる時期だと思っているので、久々に好き勝手やらせてもらってます」と語り始める。そして、そうできるのはファンあってこそと感謝を伝えたと思ったら、もっとライブをやりたいのに早くしないと還暦になっちゃう!といった自虐ネタまで(笑)。
そんな黒流の人柄そのものが現れたような前説が終わると、今回黒流と共にライブを盛り上げてくれるDJ:KAI_SHiNE(山嵐)が登場、EDMビートとラップでフロアの熱を上げる。ファンの手が高く掲げられたところで黒流が登場。ステージ中央に据えられたTAIKO-1(電子和太鼓)で、早速光るスティックを使って和太鼓プレイを見せてくれる。和楽器バンドでは大きな会場ばかりだったので、こんな間近でプレイを見られることに感動。
そこから『RE:奏 -Riso-』1曲目に収録されたオリジナル曲「リズムイズム」へ。和太鼓に合わせて観客は折りたたみ。黒流らしい人を励ますようなキャッチーなサビでは、左右に手が揺れる。続いての「大団円」でも拳が上がり、さすが黒流ファンの精鋭たち、激しい熱狂っぷりだ。
和楽器バンドのEP「REACT」に収録された黒流曲「Break Out」もセルフカバー。なんとこちら、音源とは異なるプロトタイプ版での披露だった。ちなみに和楽器バンドのベース・亜沙も気に入っていたとのこと。

ここで黒流が「和楽器バンドが活動休止してそこからどういう風に活動するかと思ったときに、和楽器バンドを経て僕しかできないものをやると決め、メロディや言葉を皆さんにお伝えしたい、そしてまず最初に「リズムイズム」という曲を作った」と活動の経緯を明かす。そして昔からの付き合いであるKAI_SHiNEと、過去に2人で作った曲を聴いてもらって、そこからまた新たなものを生み出していきたいと語った。
そんなKAI_SHiNEが作った楽曲を披露するのだが……またここでひとつ黒流の異色な経歴を紹介しよう。黒流は過去に、イケメン和楽器奏者を集め、白いスーツを着てホストクラブ設定のユニット「ASH-Roty(アッシュロティ)」を結成していた。当時ホテルなどでディナーショーを行っていたが、そのときの曲をKAI_SHiNEが制作していて、これを披露してくれるというのだ。
まずはレゲエ調の「アイコトバ」。左右に体を揺らすファンの姿が、ビーチの波のようにも見えるチル曲だ。和太鼓のリズムもアッパーで、明るい気持ちになっていく。
そして15年ぶりにホストクラブも開店。黒流はサングラスをかけ、「男前NIGHT CLUB」へ。ファンの「わっしょい!」という掛け声に「もっといけるね子猫ちゃん!」とすっかりいにしえのホストに戻った黒流。ふざけた楽曲なのか?と思いきや、これは“和楽器だけでどうやって踊らせるか”を考えて和楽器だけでトラックを作っているという挑戦的で本格的な楽曲だった。歌詞にはホストっぽいワードが盛り込まれており、お祭りサウンドが楽しい。黒流も「キミのハートにバキュンバキュンバキュン!」と狙い撃ちするなどノリノリだ。もちろん黒流指名客たちはノックアウト。
これだけで驚いていてはいけない。今度はホストからヴィジュアル系に変身。黒流がボーカルを務めていた和楽器V系バンド・Crow×Class~黒鴉組~が復活だ。今日はもちろん黒流だけだが、過去には和楽器バンドのメンバーも参加していたこのバンド。和楽器バンドの原点のひとつと言ってもいいだろう。
「月恍蝶」は古き良きヴィジュアル系の切ないメロが良い曲。ファンも手扇子に拳ヘドバンに折りたたみと、まるでここは池袋CYBERのよう。「螺旋回廊」はアップテンポな楽曲で、KAIのラップもかっこいい。「男前NIGHT CLUB」のときの甘い表情とは違い、黒流は凛々しい表情を見せ、“それぞれのジャンルの人”に七変化しているのもすごいポイントだ。

そしてここからは本領発揮。ついに和太鼓奏者としての顔を見せてくれる。和太鼓ソロ「五月雨」だ。黒流が作ったビートをKAI_SHiNEが紡ぎあわせ、TAIKO-1(電子和太鼓)を打つ黒流。和楽器バンドのときに使っていた大太鼓やたくさんの鳴物はないが、その代わりに目の前で聴ける贅沢さ。撥を振るう筋肉の躍動や汗まで見えるし、やはりこれだけの奏者が打つ太鼓は電子だろうとなんだろうと、体の奥まで音が響いてくる。
その和太鼓に、今度はKAI_SHiNEも参加。2人は師弟の中でもあり、“粋でいなせ”な助六流という太鼓を打っていて、TRFのSAMプロデュースで和太鼓トランスユニット「Ryo-Ma」を組んでいた過去もあるのだ。そんな2人の連撃「Two blows」もド派手でカッコよかった。光るスティックの軌跡も綺麗で、音だけでなく目にも楽しめる演奏だった。
そんなかっこいい雰囲気から突然の“AI黒流”の登場。「荷物が届かなかった、福岡公演。夜中に走った、中洲のドンキ」「中洲のドンキ」といった要領で卒業式の掛け合いのノリでツアーの思い出を振り返る。MCでも、逐一みんなを楽しませる細かなネタがたっぷり。
全員が笑顔になったところで「ラスト、大騒ぎしちゃいましょう!」との掛け声で、「花鳥風月」が始まる。綺麗な日本語が使われた、黒流らしい一曲だ。タオルを振り回したり、手拍子したりで大いに遊び、そのまま「もう一回お手を拝借してもいいですか!」との掛け声から三三七拍子。和楽器バンドの「起死回生」だ。もちろんファンの振り付けも完璧で、大盛り上がり。お馴染みの和太鼓ソロも久しぶりに聴けてグッときてしまう。

オーラスは、オリジナル曲「落陽」。黒流らしいまっすぐな歌詞とメロディーが胸に沁みる。《君に伝えたい言葉なんて 半分すら言えなかった》《いつか笑い合う未来のため》と、黒流が伝えたかった思いがそのまままっすぐにファンの心に伝播していく。今日この公演を見て、やはり黒流は“ファンを楽しませること”を何よりも大事にしていると思った。だから絶対にファンに想いは届いているはずだ。
和太鼓奏者のライブと聞けば、普通は和太鼓の演奏をするものだと思うだろう。だがしかし黒流のライブはこの通りだ。もちろん和太鼓の演奏も楽しめたけれど、それ以上に歌ったりトークで楽しませたり、色々な姿を見せてくれた。色々な経験を経たからこその黒流は、彼にしかできないエンタメを作り上げている。なお、初のソロミニアルバム『RE:奏 -Riso-』には、“この音が聴く人それぞれの「理想」へと繋がっていきますように”という想いが込められているという。そしてその『RE:奏 -Riso-』から生まれる新たな音楽やエンターテインメントでファンが笑顔になってくれることこそが、黒流の「理想」なのだろうと感じた。再出発の一枚『RE:奏 -Riso-』から始まるこれからの旅で、どんどん「理想」を叶えていってほしい。
取材・文◎服部容子
セットリスト
1.AI黒流前説
2.Overture
3.リズムイズム
4.大団円
5.Break Out
6.アイコトバ
7.男前NIGHT CLUB
8.月恍蝶
9.螺旋回廊
10.五月雨
11.Two blows
12.花鳥風月
13.起死回生
14.落陽
ec.マルサンカク
ミニアルバム『RE:奏 -Riso-』
購入:https://fanicon.net/web/shops/6217
¥2,500(税込)







