【ライブレポート】「ここから先は、また別のお話」…未来古代楽団、断章4で次なる世界への扉を開く

2025.10.25 17:00

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未来古代楽団が、2025年10月18日(土)に東京・有楽町のヒューリックホール東京にて、5thライブ<祝祭あるいは断章4『聖なる月と魔なる星』>を開催した。

未来古代楽団は、作家・作曲家の砂守岳央を中心とした音楽ユニット。「千年後の古代音楽」というコンセプトを掲げ、幻想的な世界観をもとに独自の物語音楽を奏でる。そのライブは「ストーリーへの没入体験」とも言うべきコンセプチュアルな演出が大きな特徴だ。

2023年に行われた初の主催ライブ<祝祭あるいは断章1『バベルの幼生』>から一貫して、彼らのライブでは公演ごとに砂守岳央が書き下ろしたオリジナルのストーリーが展開される。回を重ねるごとにその演出も洗練されてきている。歌と演奏に加えて、朗読が物語の情景を伝える。映像や照明演出が色を添える。観客がストーリー分岐の選択肢を握っているのもポイントだ。「日本のゲーム音楽カルチャーの後継者」とも呼ばれる彼ら。その呼称にもふさわしい、インタラクティブな体験設計がなされている。

ステージ前面には透過型スクリーンが設置され、案内役をつとめる“人形”が開演を待つ観客に諸注意などを伝える。物語の語り手をつとめる“精霊”は不知火フレアが声を担当。精霊は観客にこう呼びかける。

「⾒ることは観測すること、観測することは選ぶこと。ゆえに、あなたがたはこの物語の中で、⼀つの決断をすることになります」

ライブは初披露の新曲「月蝕」からスタート。ステージには、砂守岳央、松岡美弥子(ピアノ)、吉田和人(ギター)、吉田篤貴(ヴァイオリン)、田中教順(パーカッション)、豊田耕三(アイリッシュフルート/ティンホイッスル)、竹岡きなり(コントラバス)という楽団メンバー、ゲストボーカルの田野アサミが登場する。田野アサミの力強い歌声がダイナミックに幕開けを告げる。

続いて田野アサミと砂守岳央の朗読で、観客たちは「聖なる月と魔なる星」の物語世界に惹き込まれる。舞台は、文明崩壊後の森の世界。兄弟に裏切られ森に捨てられた人間の王子・セレノス、精霊と語り合う力を持たず村を追われた孤独な精霊⼈の少年・セレンが出会うところからストーリーが始まる。セレノスは「月」を、セレンは「太陽を害するという凶つ星」を意味する言葉だという。朗読のバックで流れる楽団メンバーの演奏も心地よく響く。

田野アサミ
砂守岳央

続いてのゲストボーカルにはLuciaが登場し、「銀の糸」「エデンの揺り籃」を朗々と歌い上げる。

セレノスはセレンの家に訪れ、互いの境遇を語り合って打ち解ける。王都に戻り兄弟たちに復讐することを願うセレノスに、セレンが「⼤いなる⼒に⼼当たりがある」と告げるところから物語が大きく展開していく。

Lucia

Luciaが歌う「もろびと」では客席から手拍子が響き、ヴァイオリンやフルートがメインの旋律を担いインストゥルメンタルで披露された「踊踊踊レ」ではダンサブルなリズムに合わせてペンライトの光が揺れ、会場の熱量を増していく。

吉田篤貴
豊田耕三
吉田和人
竹岡きなり
田中教順
松岡美弥子

セットリストの構成と物語の展開がリンクしているのもライブの没入感を高める理由のひとつだろう。「捨てられたもの捨てるもの」が披露された後、セレンとセレノスの二人は、かつて世界を滅ぼしたゴーレムの遺跡に向かう。目覚めたゴーレムが村を焼き払い、新曲の「火火火」が歌われる。ゲストボーカルはライブ初登場となる謎の歌姫だ。その躍動的な歌声で禍々しくも美しい瞬間が描かれる。

「約束のプリムラ」の演奏を経て、再びセレンとセレノスの二人が登場。巨大な力の代償に人の命を食らうゴーレムをどう扱うかを巡って二人は対立する。続けて披露された三拍子の「銀の旧約」では田野アサミの吐息混じりの歌声が繊細な余韻を残し、インストゥルメンタルで演奏される「吸って、吐く」「探し人の紡ぎ歌」の演奏がドラマティックな空間を作り上げる。

ライブはクライマックスへ。安次嶺希和⼦が登場し、代表曲「忘れじの⾔の葉」を高らかに歌い上げて会場を一つに包み込むと、続く新曲「⾒ル⾒エル」で神秘的な響きを生み出した。

安次嶺貴和子

そして精霊が「選択の時です」と客席に呼びかける。

王⼦セレノスの選ぶ“⾚き道”ではゴーレムの力による王都の制圧を、少年セレンの選ぶ“⻘の道”ではゴーレムの封印を。そのどちらが選ばれるかは観客が掲げる“輝く棒”(ペンライト)の色で示した意志によって左右される。

安次嶺希和⼦が「光あれ」を歌い、物語は終幕に向かう。示されたのは“青の道”だった。精霊が二人のその後の運命を語り、「これで聖なる月と魔なる星の出会いについてのお話はおしまい」と告げる。ただ、続けて「ここから先はまた別のお話です」と精霊が語ったように、この<祝祭あるいは断章4『聖なる月と魔なる星』>で示された物語も、未来古代楽団が描くスケールの大きな世界観の“断章”のひとつなのだろう。

青の道

最後にアンコールとして披露された「⽌まり⽊の歌」の、二人の少年を優しく慈しむような安次嶺希和子の歌声も印象的だった。

終幕後には、再び人形が登場し観客へ感謝を告げる。次回のライブの開催が決定したことも発表された。次回<祝祭あるいは断章6『巨いなる神のオブリビオ』>は、2026年5月7日(木)にZepp DiverCity(Tokyo)にて開催。ゲストボーカルとして、安次嶺希和子、新居昭乃、戌亥とこ、霜月はるかの出演が決まっている。特に初参戦となるにじさんじのVTuber・戌亥とこ、そして幻想音楽の草分け的存在であるボーカリスト・新居昭乃の登場には大きな歓声が上がっていた。

また、今回のライブ<未来古代楽団 祝祭あるいは断章4『聖なる月と魔なる星』>の模様はオンライン配信が実施され、10月26日(日)23:59までのアーカイブ視聴も可能となっている。

未来古代楽団の旅は続く。彼らが歌で紡ぐ物語がどこに向かうのか。期待したい。

取材・文◎柴那典
写真◎伊藤真広(TRANSISTOR)・仲村翼

<未来古代楽団 祝祭あるいは断章4『聖なる月と魔なる星』>

1.月蝕 / 田野アサミ
2.銀の糸 / Lucia
3.エデンの揺り籃/ Lucia
4.もろびと/ Lucia
5.踊踊踊レ / Instrumental
6.捨てられたもの捨てるもの/ Instrumental
7.火火火/ ???
8.約束のプリムラ / Instrumental
9.銀の旧約/ 田野アサミ
10.吸って、吐く / Instrumental
11.探し人の紡ぎ歌 / Instrumental
12.忘れじの言の葉 / 安次嶺希和子
13.見ル見エル / 安次嶺希和子
14.光あれ / 安次嶺希和子
【アンコール】
15.止まり木の歌 / 安次嶺希和子

未来古代楽団 祝祭あるいは断章4「聖なる月と魔なる星」
・配信チケット料金:3,500円(税込)
※チケット代のほかに別途手数料がかかります。
・チケット購入ページ(ZAIKO): https://miraikodai.zaiko.io/e/seinarumonogatari
・チケット販売期間:発売中〜10/26(日)21:59まで
・視聴可能期間: 10/26(日)23:59まで
※視聴時間を過ぎますとアーカイブをご覧いただけませんので、お時間に余裕を持ってお申し込み・ご視聴ください。

<未来古代楽団 祝祭あるいは断章6「巨いなる神のオブリビオ」>

2026年5月7日(木)開場
@Zepp DiverCity(TOKYO)
18:00 /開演 19:00
ゲスト
・安次嶺希和子
・新居昭乃
・戌亥とこ
・霜月はるか
チケット最速先行:〜10月29日(水)23:59
https://tix.to/mko_e7p

未来古代楽団オフィシャルサイト(http://miraikodai.com
未来古代楽団YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/@miraikodaiorchestra/