【ライブレポート】未来古代楽団、体験型アトラクションのような異世界への扉が開かれた夜

未来古代楽団が、2025年5月17日(土)に渋谷ストリームホールにて4thライブ<未来古代舞踏祭『瞬き、やがて、永遠』>を行った。昼公演と夜公演の2公演が行われたこの日のライブの夜公演をレポートする。
この日のステージは、いわゆるライブやコンサートの枠組みを超えた、とても挑戦的な試みだった。「千年後の古代音楽」というコンセプトを掲げ独自の物語音楽を展開する未来古代楽団。過去に開催されたものも含め、彼らのライブはそのスケールの大きな世界観をもとにしたコンセプチュアルなもの。映像やさまざまな演出を通して、神秘的なストーリーを伝えるのが大きな特徴だ。
さらに今回はオーディエンスを当事者として巻き込む演出も徹底していた。
ステージ前面には透過型スクリーンが設置され、開演前から神殿をイメージさせる幻想的な映像が投影される。開演時刻となると、スクリーンには二体の人形が登場し、満員の観客に、こう告げる。
「この世界であなたは“踊り子”となるのです」
スタンディングのフロアに集結したオーディエンスに、この舞踏会の“踊り子”としての役割が言い渡される。まるでアトラクションのような参加型のエンタテインメントの幕が上がった。
ライブはオリエンタルなメロディの新曲「あはれなるは青キ赤」でスタート。舞台には未来古代楽団のメンバーと黒いドレスをまとった霜月はるかが登場し、透過型スクリーンには赤と青の頭部を持つ二体の人形がダンスする姿が映し出される。

霜月はるか
「わたしたちはこの神殿に音楽を奉納するためにやってきました。あなたたちは“踊り子”として呼ばれました。歌を、踊りを、手拍子をこの世界にささげるのです」と人形が告げ、続いてはYouTubeでMVが公開されたばかりの楽曲、アップテンポな「踊踊踊レ」へ。オーディエンスは手拍子をたたき、ペンライトを振り、いつしか一体となって“踊り子”としての役割を演じ始める。バイオリンやハープシコードのクラシカルな音色と躍動的なリズムが融合した曲調は、古代と未来が交錯する彼らの世界観を見事に表現していた。
「この神殿は地下に埋められた水の上に立っているのです」と人形が告げる。その言葉は、かつて渋谷川が流れていた暗渠の上に建てられたという渋谷ストリームホールの立地と重なり、現実と虚構が交わるような感触を生み出す。この神殿にて“踊り子”たちは生贄として捧げられてきたのだという。「もしあなたたちの踊りが十分ならば、その運命が変えられるかもしれません」という人形の言葉に、フロアの熱気はさらに高まる。
「フタハ」はアコースティックギターの哀愁あふれる音色が印象的なナンバー。未来古代楽団の楽団長・砂守岳央はコンダクターのように楽団を統率し、クラシック、民族音楽、そしてモダンな要素が融合した独特の音世界を創り上げていく。「醒めない夢の微睡みの」はティンホイッスルやバイオリンが主旋律を奏でるインストゥルメンタルのアレンジで披露され、透過スクリーンに映し出される映像と相まって、観客を幽玄な領域へと誘う。

砂守岳央
続いてはLuciaがステージに登場し新曲「けものをつぐもの」を歌い上げる。白いドレスに身を包み、クルクルと舞いながら歌うLuciaの透明感あふれるボーカルは、まるで異世界からの声のようだ。続いては「いま捧げよ、手拍子を」という掛け声とともに「もろびと」へ。プログレッシヴロックを思わせる複雑な構成を持った技巧的な楽曲に、オーディエンスは難解な13拍子のビートに合わせてハンドクラップを捧げる。その一体感は、まさしく“舞踏祭”の名にふさわしい光景だ。さらに「黄金」では、オーディエンスが黄色のサイリウムを掲げ、荘厳なムードの楽曲と歌声と共に、眩しい光の海が会場を包み込んだ。

Lucia
インストゥルメンタルの「捨てられたもの、捨てるもの」に続き、「約束のプリムラ」ではVALSHEが登場。タイトな衣装に身を包み、芯の強い歌声で会場を圧倒する。変拍子のプログレッシブな「嘆きのアウロラ」、妖艶なメロディが特徴的な新曲「ライトナル」と、ドラマティックな楽曲が畳みかけるように演奏される。

VALSHE
ワルツの優雅なリズムと繊細な旋律が紡ぎ出されるインストゥルメンタル「銀の旧約」を経て、“舞踏祭”は終盤へと差し掛かる。「吸って、吐く」では、安次嶺希和子が赤いドレスをまとって登場。力強く伸びやかで、どこかオリエンタルな風合いを持つ彼女の歌声が“舞踏祭”に相応しい存在感を放つ。

安次嶺希和子
そして、印象的だったのは終盤の演出だった。「赤と青、二つの道。次の曲のあと、あなたたちに選択をゆだねます」という言葉とともに、ドリーミーな「探し人の紡ぎ歌」が会場に静かに響く。「選択のときが来ました」と人形が告げると、オーディエンスは赤色もしくは青色のペンライトを掲げる。両者は拮抗していたが、わずかに青の光のほうが多く見えた。そして、「光あれ」のダイナミックなパフォーマンスが終わると、映像は「選ばれたのは青の道」と告げ、深遠な終末を示して物語の幕を閉じた。
そしてアンコールには、代表曲「忘れじの言の葉」を披露。『グリムノーツ』(スクウェア・エニックス)主題歌からネット発の新しいフォークロアとして広がったこの曲は、叙事詩的な物語を描く“舞踏祭”の締めくくりに相応しい余韻を残した。






「日本のゲーム音楽カルチャーの後継者」とも呼ばれる未来古代楽団。そのライブは、まるでアドベンチャーゲームのプレイヤーのように観客が物語の分岐を左右する選択を行う、体験型のアトラクションのようなステージだった。
終演後には、次回のライブの開催が発表された。
2025年10月18日(土)にヒューリックホール東京にて開催される新たな公演のタイトルは<未来古代楽団 祝祭あるいは断章4『聖なる月と魔なる星』>。「祝祭あるいは断章」シリーズは、未来古代楽団が過去に3度にわたり展開してきたライブシリーズだ。
彼らの紡ぐ次なる物語が楽しみになるような一夜だった。
取材・文◎柴那典
写真◎伊藤真広(TRANSISTOR)
<未来古代楽団 祝祭あるいは断章4 「聖なる月と魔なる星」>
@ヒューリックホール東京(全席指定席)
開場:17:00 開演:18:00
最速先行(抽選)受付期間:2025/5/17(土)16:30~2025/5/28(水)23:59
イープラス受付ページ https://eplus.jp/miraikodai/
アーカイブ配信<未来古代舞踏祭「瞬き、やがて、永遠」夜公演>
+配信アーカイブ特典として「選ばれなかった《赤の道》」の映像も収録(ZAIKO)
https://miraikodai.zaiko.io/item/371834
チケット販売期間:~5/25(日)21:59まで
視聴可能期間: 5/25(日)23:59まで
※視聴時間を過ぎますとアーカイブをご覧いただけませんので、お時間に余裕を持ってお申し込み・ご視聴ください。