【インタビュー】Nikoん、空っぽから至った賛否全てをガソリンに変えるスタイル「新しいコミュニティを作りたいわけじゃなくて、意見をぶつけられる場所になれたら」

2025.09.25 18:00

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オオスカ(G, Vo)とマナミオーガキ(B, Cho)が、2023年に結成したロックバンド・Nikoん。ギャンギャンに歪んだアンサンブルと肉体的な快楽に訴えかけるダンサブルなビートを軸に、正対しなければ取りこぼしてしまう怒りや葛藤を言葉にしてくれる彼らは、9月24日に2ndアルバム『fragile Report』をドロップする。

1stアルバム『public melodies』を携え全30公演を展開したツアー<RE:place public tour 2025>をはじめ、何でもござれの掲示板やレビュー企画など、Nikoんに触れる全ての人と顔を突き合わせ、賛だけではない声をどんと受け止めている2人。

これまで自分の話しか出来なかったというオオスカは、なぜNikoんで人々の声をここまで強く求めているのか──。今回、サポートドラマーのItsuki Kun(Fallsheeps)を加えた3人に、CDの購入者はいずれか1公演に無料で入場できるというサプライズを潜ませた47都道府県ツアー<アウトストアで47>を控えたNikoんの今を問う。

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◾︎色んな感情とか、悪口とかが入ってくる場所になっていた方が面白い気がする


──私はNikoんの作品を、“悩んで良いかも分からないほどに些細な鬱屈”を一緒に悩んでくれる音楽だと受け止めています。皆さんは、Nikoんの音楽をどのようなものだと捉えていらっしゃいますか。

マナミオーガキ(B, Cho):“何が正しいかを自分で決めて良い”と強く思えるものです。自分にとってNikoんは3つ目のバンドなんですけど、これまでは言葉や歌詞、音楽理論的なところも含め、世の中的に間違いとされているかどうか、世間にとって正しいかどうかの判断基準から抜け出せなかった気がしていて。でも、Nikoんはそういう判断基準を取っ払ってできているんですよ。だから、自分が思う正解を追求できるバンドだなと。

Itsuki Kun(support Dr):確かに、Nikoんは世の中にある色んな当たり前を1回更地にした上で、その後の話をずっとしている気がしていて。「これはこうだよね」って一般的に言われているポイントに対して「本当にそうだろうか?」と問い直している。もちろんアーティストはそういう存在なんだと思うんですけど、Nikoんは特にそこに目を向けているバンドなんじゃないかと思っています。

──マナミさんはNikoんの活動を通じて、自分が思う正解を追い求めることができるようになったとのことですが、世間的な価値判断から離れる勇気を持てた理由は何だったのでしょう。

マナミ:制作や活動についてメンバーと話している中で、世間一般のセオリーや理屈から考えたら正解じゃなかったとしても、やろうとしていることを純粋に格好良いと思えるんですよね。そういうことが積み重なって、正解を追い求めて良いんだと考えられるようになっていきました。

──Nikoんでやっていることに魅力を感じているからこそ、自信を持てるようになったと。オオスカさんはNikoんの音楽をどのように考えていらっしゃいます?

オオスカ(G, Vo):2人はNikoんのことを、自分の正解や信じているものを表現できる場所だと考えてくれていると思うんですけど、俺はむしろ逆で。このバンドになってから自分の正解の中に他人を入れ始めた感じなんですね。そもそも俺は演劇をやりたかった人間なんですが、監督や演出の人が考えた正解に合わせたり、他人になって喜ぶことが嫌で。これまで自分の話しか出来ず、他人に考えさせないようにしていたのを、他の人にも考えてもらえる構図にしたっていう。だから、メンバーが面白いと思えることをやってみようと強く思ったのも、このバンドになってからなんですよ。

──自分の正解に拘り過ぎなくなった。

オオスカ:自分の正解が人の正解とは限らないですし、全然不正解だって良いと思うんで。他人の正解を受け入れられるバンドだったら良いなと思っているかもしれない。

──もともと自分の正解を突き詰めていた中で、Nikoんになってから周囲の意見を取り込めるようになっていった理由は?

オオスカ:俺が空っぽだから。ぺやんぐ(※マナミオーガキの愛称)は前のバンドの最後のメンバーなんですけど、そのバンドの解散が決まった時に自分の考えだけで自分がワクワクできることはもう生み出せないと思っちゃって。自分の中にあるものを面白くしてくれる人と何かをやりたいと思ったんです。それは単純に自信がなくなったわけでもなく。正解を提示する、されるの生活に疲れたというか、自分の正解を考えるにしても人の話を聞かないと何もできない状態になっちゃったっていう。

──前のバンドが解散したことで、他の人の意見を受け入れていくフェーズに至ったと。

オオスカ:受け入れていくというより、受け入れていくしか面白くなる余地がないと思ったかな。自分の作品に自分でワクワクできなくなった時期だったから。で、自分以外の価値観を俺の中に入れてみたらどうなるんだろうと考えてNikoんをやってみたら、面白いと思えるようになったから、玉を入れやすくしているんですよね。例えば、生徒会に直接意見を言うのは気が引けるけれど、目安箱だったら気楽に言えるじゃないですか。そういう感じで、色んな感情とか、悪口とかが入ってくる場所になっていた方が面白い気がするんです。俺が自分で頑張るためのエンジンをみんながくべてくれる、みたいな。

──今おっしゃっていただいたリスナーからの言葉を取り入れようとする姿勢は、現在展開されている『fragile Report』のレビューや掲示板企画とも直結していますよね。

オオスカ:それもあるし、もっと言えば、みんなの意見をシュートしてもらうことで俺がワクワクしたい。シュートしてもらわないと、自分たちが何をやるかでしかないし、究極死ぬまで自分たちがやったことの結果を見続けるだけだから。それだと自分が考えていること以上の結果にはならないと思いますし、もっと訳分かんなくしたくて。現状はまだまだ優しいコメントばかりなんで、どうやったらアンチの人が意見を言いやすくなるかを考えてますね。新しいコミュニティを作りたいわけじゃなくて、あくまでも意見をぶつけられる場所になれたら良いなと。

──9月24日に2ndアルバム『fragile Report』がリリースされます。表題曲の「fragile report」や《何気ない誰かの何気ない言葉が 積み重なってく 積み重なっていく》と歌う「(^。^)// ハイ」をはじめ、自らの意志で決定した道を堂々と宣言する1枚になっていると感じているのですが、改めて本作を振り返ってどのような作品になったと感じていらっしゃいますか。

マナミ:1stアルバム『public melodies』の時は、オオスカが持ってきてくれたアイデアに対して自分がベースやコーラスを加える形で作っていったんですけど、今回はオオスカの提案で自分が全曲歌うことになって。当初は全く想定していないやり方だったんですが、自分が歌うことでよりバンドが自分ごとになったんですよね。自分がこれからどうやってバンドをやっていくのか、どういうスタンスでNikoんを続けていくのかが詰まったアルバムになったと思っています。

──マナミさんがNikoんを一層自分のものとして捉えられるようになった、言い換えれば、マナミさんが抱く正解をシュートできるようになった背景は何なのでしょう。

マナミ:これまで自分がやってきたバンドは、バンドの核となるメンバーがいた上で自分が存在しているようなイメージだったんですよ。でも、このアルバムを作り始めるタイミングで、自我が出てきたというか、自分も主体になれると感じたんです。バンドの中心メンバーがいた上での自分というよりも、「自分がいてのNikoんです」っていう気持ちに変わっていったのかなと。

──Nikoんの中で占める役割が大きくなっていったことで、自信を持てるようになっていったんですね。オオスカさんの提案でマナミさんが全曲ボーカルを担うことになったとお話いただきましたけど、オオスカさんがこのような提案をした理由は?

オオスカ:もともとバンドを組んだ時からやろうと思っていたんで、活動の中で浮かんできたアイデアではないんですよ。というのも、俺は歌を乗せているだけというか、深く考えながら作っているわけじゃないんですけど、ぺやんぐは歌を頑張っているヤツなんですよ。だから、俺の意見よりも当然価値があるんですよね。で、歌について深く考えることは、唯一自分ができなくてやっていないことなんじゃないかなと思った。でも、1枚目からいきなりぺやんぐに歌わせるのも変化球にならないじゃないですか。だから、最初は俺主体の音源を作って、2枚目はぺやんぐが歌う流れになった。

──リスナーの立場からすると大きな変化にも見えると思うんですね。そうした中で、前作から失わないように心がけた要素や、NikoんがNikoんたるために大事にしたことは何ですか。

オオスカ:「ロックバンドのアルバムを作りたい」っていう話はしていたよね。凄いテクノに進んだなとか、新しいことをやってんなとは思われすぎたくなかったので。「ロックバンドのアルバムってこれだよね」って思えるアルバムを作りたかった。本当にそれぐらいしか考えてないんじゃないかな。

──“ロックバンドのアルバム”というと。

オオスカ:人間が演奏している意味があることですかね。不完全さというか。BPMがズレていたって良いし、ビートに対して「合ってる」と思う人も「合ってない」と思う人もいて良い。ドラムを叩く人が良いと思うからそのフレーズは成立するわけで、色んな意見があるとしても、そいつが良いと思えるかが大事なんですよね。で、それがバンドメンバーで共有できている、みんなで良いと思えているかどうかを大事にしたかな。それこそ、サポートしてもらったドラムのフレーズも細かいところはあんまり直してないですし。そん時の正解を音源にするっていう。

Itsuki:このアルバムができたことで、ドラムがサポートである意味も出てきた気がしていて。僕の正解をぶつけながらも、フロントの2人が代わる代わる歌うことで2人が目立つ。Nikoんはオオスカさんとぺやんぐさんの2人でやっているバンドだってことを、強く伝えられたんじゃないかなと。

──今作で掲げられた『fragile Report』というタイトルは、先日の<RE:place public tour 2025>ファイナル公演で「自分の言葉が誰かに侵食されている気がした」という旨を語られていたように、言葉に対する不確かさや自分の言葉で話したいという思いが反映されているのだと受け止めています。

オオスカ:ぺやんぐからポンと提示されたものが、そうだったんです。日記を見ているみたいだった。だから、剥き身で書こうと思って書いたんじゃなくて、剥き身で出てきたものに対して、そのまんまのアルバムタイトルを付けるしかなかったっていう。逆に言うと、そこでハッとした部分もあるんですよ。ぺやんぐの歌詞をちゃんと読んだことで、自分の書いた歌詞を振り返った時に「こういう言い回しは格好付けていたかもな」と思えたんですよね。

──言葉に対する違和感が先行していたわけではなく、先にありのままの言葉があり、それを見て自身の言葉の在り方を考えた。

オオスカ:俺はそうですね。他人の言葉に大きな違和感を抱いたわけではなく、俺がぺやんぐの歌詞を通じて「変に取り繕ってないか?」と思ったから、俺と同じ感覚にみんなもなってくれたら良いなと。「お前って他人の言葉で喋ってるよね」って決めつけているんじゃなくて、「お前は他人の言葉で喋っていないか?」っていう問いかけをしたかったんです。なので、タイトルに関しても変に華美にせず、日記という言葉を変換しただけかな。

──マナミさんが裸一貫の歌詞を書いていたからこそ、本作のタイトルやテーマに繋がっていったとのことですが、マナミさんはどういった思いで歌詞を綴っていったんですか。

マナミ:本当に自分が日々思ったことを書いただけというか、自分が歌うことを考えた時にしっくりこない言葉を使うのは恥ずかしかったので、勝手に出てきた言葉をそのまま書いていて。で、今回は最後の悪あがきみたいな気持ちというか、「めっちゃしんどいけど最後っぽいし頑張ってみるか」ってことを言葉にしましたね。というのも、何歳でバンドをやったって良いと分かっているとはいえ、良い歳こいてバンドをやっている自分を振り返ってしまう時があったから。それでも、自分がやりたいからバンドをやっているし、Nikoんが自分にとって最後のバンドだと思っている気持ちを歌にできた気がしています。

先人のやってきたことを踏まえて自分のものに差し替えることができれば、きちんと吸収できるんじゃないか

──みんなの意見を受け止められる場になりたいというお話や、決めつけではなく問いかけをしたかったということをはじめ、改めてNikoんは体温を大事にしているバンドだと感じました。それは『fragile Report』のレビュー企画や掲示板、ツアーの本数にも現れていると思うんですが、こういったダイレクトなやり取りを大事にしている背景は何なんですか。

オオスカ:自分が格好良いと思っているバンドたちが、そういうバンドばかりだからです。これは明らかに。

──過去のインタビューでは、LOSTAGEやGEZANを挙げられていましたよね。

オオスカ:LOSTAGEもGEZANもですけど、例えばELLEGARDENもデビューしたての頃に路上ライブをやっているんですよ。正直、それってやらなくても別に良いじゃないですか。でも、彼らはそういう手間暇を惜しまないわけで。理屈は分からないけど、俺はそういう先人たちがやってきたことを格好良いと思っているし、単純にそれを自分もやっているだけ。とはいえ、先人がやってきた格好良いことと同じものをやっても仕方ないから、自分がやるとしたらどうしようかと考えた結果がレビューだったり色んな企画だったんです。

──先人がやってきたことを自分の形に落とし込む上で、どのようなことを考えていますか?

オオスカ:先人たちがやってきたことの、ざっくりとした意味を考えるようにしていますね。例えば、サブスクをやらずにCDだけに拘る理由を考えた時、自分たちが面白いと思っているCDショップやライブハウスで作品に触れて欲しいっていう考えがあるんだろうなと推測する。そしたら、俺にとって面白いと思える場所を考えてみるんです。で、俺はYouTubeのMVやライブハウスで音楽に触れたことが多かったから、YouTubeにMVは上がっているけれど、CDを買うためにはショップやライブハウスに行かなきゃいけないようにした。自分流に変えているというよりも、ざっくりとしたコンセプトや思想を考えた上で、自分が触れてきたものに移し替えている感じかな。

──先輩たちのアイデアを大枠にしつつ、中身を詰め替えていくというやり方を取るようになったんですね。

オオスカ:俺は自分が格好良いと思うものをみんなにも知ってほしい節があるんで、「こういうことって格好良いですよ、面白いですよ」って言えるやり方に差し替えているんだろうなと。最初に話したみたいに俺は空っぽだから、格好良いと思ったことをそのままやるだけじゃ他人事になってしまう。でも、先人のやってきたことを踏まえて自分のものに差し替えることができれば、きちんと吸収できるんじゃないかと考えています。

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