メロディだけが命じゃない
| メロディだけが命じゃない |
| Supergrass…そもそも既に並のバンド以上のユーモアのセンスを持ち合わせているバンド…のドラマーで、間違いなく最もコミカルなメンバーであるDanny Goffeyが、まるでズボンが少々キツ過ぎるとでもいうかのように声のピッチを上げている。
彼と2人のバンドメイトたちは、マンハッタンのミッドタウンにあるガラガラのバーの一番隅のボックス席に落ち着いたのだが、バックにかかっているR&Bの曲の音量があまりに大きく、会話がほとんど聞こえないのだ。 Dannyが身を乗り出して、一番近くにあったスピーカーからワイヤーを数本引き抜いたが、大した効果はなかった。というわけで、とっておきの歌姫ヴォイスで彼は提案した。 「ねえ、いいじゃん、みんなでこうやって喋ろうよ」 もっともそんなジョークでは、疲れ果てた2人のバンドメンバー、ヴォーカル/ギターのGaz Coombesとベース/ヴォーカル担当のMick Quinnからは、苦笑いを引き出すのがやっとだ(キーボードをプレイしているGazの兄弟のRobも知られざる第4のメンバーとして行動を共にしている)。 日本から飛行機でやって来たばかりの3人組は、故郷イギリスへと向かう前に、このNYで48時間足止めを食うことになっている。時差ボケだけなら我慢できるかも知れないが、彼らはこのほどアメリカでリリースされることになった新作『Supergrass』(文句なしに素晴らしい)について、あと丸2日間も質問責めに遭わなければならないのだ…完成させてから既に7ヵ月が経過し、アメリカ以外の世界各国ではもう散々プロモーションし尽くしたこのアルバムについて。デジャヴュを感じることはないのだろうか? 「うーん、インタヴューって案外いつも、行く先々の国でちょっとずつ違うもんだよ」 Gazはそう言うが、その口調にはあまり説得力はない。 「みんな色んな質問をしてくるからね。でも確かに、しまいには全部一緒くたになっちゃうし、時には一体自分がどのアルバムの話をしてるのかさえ忘れちゃったりして」。 実のところSupergrassはもう既に次のアルバムの制作に取りかかっているのだ。だが、これから追いつこうというアメリカのリスナーのために、再び古いニュースをひもとくことになったのである。 最初の2枚のフルアルバム(’95年の『I Should Coco』と’97年の『In It For The Money』)を、英国コーンウォールの人里離れたSawmills Studioでレコーディングした後、彼らは変化を求め、落ち着き先をロンドンのわずか南に位置するRidge Farmに定めた。Mickによれば、最大の決め手になったのはこのスタジオの中の巨大なライヴルームで、そこならより大きなドラムサウンドを得ることが可能だったからだ。 「それとさ、『In It For The Money』は、かなりサウンドを重ねた、しっかり作り込まれたアルバムだったんだよ」と彼は言う。 「俺たち、そこから脱すると同時に、プロダクションとして強力って言うより曲単位で強力なものにしたかったんだ」 新曲はどれも彼らの過去の作品で聴けるものと同じくらい創意に富んでいる…ティンパニやヴィブラフォーン、ストリングス、ハープシコード、その他の様々な興味深いサウンドを、彼らのソリッドなロックの基本であるギター/ベース/ドラムス/キーボードという骨組みに混ぜ込む…が、こうした添加物は、実はスタジオの中に転がっていた音楽のオモチャを適当にヒラメキで使ったもの、ということではないらしい。 「違うよ。まず自分たちがコレって思う楽器を探さなきゃならなかったんだ」とMickが説明する。 「例えば、元々あそこでティンパニを使うっていうアイディアはあったんだ。で、俺たち実際に自分らで近くのパブリックスクールまで車飛ばして、音楽科に入っていって、ケトルドラムを借りられないかって頼んだんだから。借り賃として10ポンド渡して、その日の午後じゅう借りてトラックを仕上げて、夕方にはまた車飛ばして返しに行ったわけさ」 「けどプロダクションはいつもかなり練られてるんだよ」と彼は続ける。 「俺たちの使ってる楽器は、みんなその時、その場で借りてきたものだけど、どの楽器をどんな風に使うかっていうのは、ちゃんと俺たちには分かってるんだ。フルサイズのハープシコードを1週間ぐらい借りっぱなしだった時には、その週に録音したものにはことごとくハープシコードが入ってたよ」 今回レコーディング作業がスムーズに運んだもうひとつのカギは、前もってなされていた周到な準備だ。 「俺たち、スタジオに入る前に3ヵ月間デモ録りをやってたんだ」とGazが言う。 「そうそう、今回はスタジオに入る前に、ほとんどの曲のベーシックは出来あがってたんだよね」とDannyが付け加える。 「『In It For The Money』の時は、スタジオに入ってから随分色んなところを変えちゃったけど」 その曲にもっと手を施すべきだという判断はどうやってつけるのだろう? 「(ラフミックスを)家に持って帰って家族とか友達に聴かせるんだよ。そうしてるうちに、曲によってふっと気恥ずかしくなったり、居心地が悪く感じたりするところがあるんだ」。 そう言ってGazが微笑む。 「それが合図だね。こいつは何かマズいぞ、っていう」
「多分、口論が減ったね!」とMickが笑いながら言う。 「俺たちは元々がかなりタイトなバンドで、どっちにしろ大抵の場合はものの見方が似通ってるんだけど」 その音楽性に反して、楽器のトレーニングを受けた経験があるミュージシャンは、メンバーの中ではGazだけで、彼も子供の頃にピアノのレッスンを数回受けただけだ。 「もっとも俺、1回だけドラムのレッスンを受けたことあるよ」とDannyは認める。 「けどその先生ってのが俺に課題を出したんだよ、これを家でやっときなさい、ってさ。それで終わったね。それっきり行かなかった。けど俺は今じゃピアノも弾けるし、ちょびっとだけどギターだって弾けるんだぜ」 「お前、ピアノはどこで習ったわけ?」Mickが尋ねる。 「俺らが小さい頃、オフクロがすっげえオンボロなピアノ持っててさ」とDannyが答える。 「部屋の正面に据えときゃ、それだけでカッコいいと思ってたんだろうな。けど、それが調律なんかまるでなってやしなくってさ。参ったよ」 どこかStevie Wonderを思わせるRhodesのキーボードを推進力に、フェーズのかかったヴォーカルとワウワウでトンがらせたリズムギターが冴えるトラック「Born Again」は、アルバムの中でもハイライトのひとつであると同時に、彼らが興が乗りさえすれば担当楽器を交換することすら構わない自由な発想のバンドであることも示している。 Mickが思いついていじくり回していた「おっそろしく昔に作ったギターリフ」を土台にして、ある日ジャムセッションの末に曲が生まれた時、ギターを弾いていたのはMickで、ベースを手にしていたのはGazだった。スタジオではMickは楽器をダブルベースに持ち替え、前もって雇われていたストリングセクションと共に、それまでキーボードでプレイされていたパートを忠実になぞっていった。Gazはそこへさらにシロフォンを加え、トラックは6ヵ月近くもインストゥルメンタルのままだった。 「それがこのアルバムで一番最後に仕上げた曲なんだ、何しろ俺が全然ピッタリくる詞が書けなかったもんだから」とGazが言う。 実のところこの曲にヴォーカルが加えられたのは、もう本当に最終段階も押し詰まってからのことで、彼らはそのレコーディングを、Radioheadと共有しているオックスフォードの小さなプロジェクトスタジオで仕上げなければならなくなってしまったのだった。 バンド名をそのままタイトルにした彼らのニューアルバムは、Supergrassの新たなスタートを示す幾つもの証のひとつにすぎない。最も顕著なのはアメリカでの所属レコードレーベルが替わったことで、Capitolと袂を分かつことに同意した後、彼らはIsland/Def Jamに身を寄せた。新しい“家”には満足しているのだろうか? 「あー、それはまだこれから分かることだね」とGaz。 「ただとりあえず、L.A.じゃなくニューヨークが拠点になったことに対しては、俺たちみんな凄く喜んでるよ」 Mickはもっと率直だ。 「俺、Capitolにワクワクさせてもらったことなんてなかったんじゃないかな。あったとしても思い出せないよ。とにかくあそこの連中は俺たちのことなんて一度だって理解してなかった」 「けど素晴らしいスタッフだったよ」とGazが外交官のような口調で言う(恐らく半分冗談のつもりだろう)。 「なら…」Mickが不服そうに言い、この話題を終わらせにかかった。 「ひとりでも名前挙げてみな」 2000年、バンドがアメリカで行なうライヴショウの数はごく限られている。かつてOasisが実行した“全米でブレイクするための方法論”、つまり数ヵ月間国内に滞在して、アメリカの地図に載っている町という町をしらみつぶしに回るというアプローチのアンチテーゼだ。 「そのやり方は俺たちもう前にやったよ」とMickが無表情に言う。 「けど単純にそこまでやるのは割に合わないと思ったんだ。バンドが壊れちゃうもの。俺たちはそれよりバンドとして自分たちのペースでやりたいんだ」 最後にもうひとつ。このところ注目を集めているGay Dadというイギリスのグループがいる。彼らは昨年、手堅い出来のポップアルバムをリリースしたが、批評家たちの中には、彼らの音楽が明らかにSupergrassにそっくりだとする意見もある。どう思うか? 「俺たちは自由でオープンな社会に暮らしてるんだからさ」とDannyが所見を述べる。 「別にゲイの親父(Gay Dad)がいたっていいんじゃん?」 「ああ、とりあえず21歳以上なら、別に問題ないよな」とMickが付け加える。 さすが、自分たちの音楽について述べる間だけしかシリアスでいられないバンド、期待は外さない。 by Dev Sherlock |
Supergrassはまた、今回のレコーディングに際してはセルフプロデュースを選び、エンジニアを1人雇っただけだった。自分たち自身の手でプロデュースするのはどんな点が違ったのだろう? 






