――『EXHIBITIONIST』の全てのアイデアはどこからきたんですか?
JEFF MILLS: 音楽のDVDはある特定のライヴを録画したものだったりとか、その場だけを捉えたものっていうのが多いんだけど、あえて自分はそれをやめて、”マルチファンクション”=多様性がある機能を使えるようにと考えてこの作品を企画したんだ。だから、単に家で観てもらうだけでなくて、いろんな風に使って欲しい。そのうちのひとつはライヴ・セッティング。パーティだったり、ライヴとかのセッティングで、このDVDを映し出して使ってもらいたいなって。
――それは長年DJをしてきて、感じることがあったからですか?
JEFF MILLS: クラブではお客さんがたいていDJのほうを向いて、踊っているだろう? DJからするとお客さんが自分に何かを求めているってすごく感じるんだ。でも実際、自分はレコードをミックスするので手一杯だから、DJは音楽的なことしか与えられない。それ以上の別なものは与えられなくて、フラストレーションが溜まるんだよね。それが発端で、DJする自分をシミュレーションとして作り上げて、それが自分の分身として存在すれば、お客さんに与えたいものが、より別の形で与えられるんじゃないかってね。’90年代の後半にDJがスター的な存在になってきたっていう要素もあると思うんだけど、エンターテインメントとしてDJがこの先何ができるかって考えたときに、今回のDVDだったら曲のタイトルを映し出すとか、そういう情報をエクストラであげることもできる。そういう風に他の人のパーティでも使ってもらえるかなって。
――なるほど。それにしてもやはり”DJの真の姿”が伝わる内容ですよね。
JEFF MILLS: たいていDJブースは平らにセットされているからパーティに来ている人にとって僕がどんなDJをしているか実際に観ることは少ない。だからそれを見せようということで、今回はマルチアングルで上や横から撮ってもらうことによって、僕のDJも理解することができるし、エレクトロニック・ミュージックそのものをより理解してもらいたいって思ったんだ。あとは若い世代にDJというものを実際に観てもらって教えていきたいとも思った。
――そう思ったのはどうしてでしょう?
JEFF MILLS: 自分が若かったときに、ヒップホップとかグランドマスター・フラッシュとかのDJビデオで手元が観られるようなものがあればものすごく参考になっただろうなって思ったから、そういう気持ちで次の世代の人にはDJのビデオを観て学んで欲しいってね。僕はアメリカで何人かのDJからいろんなことを教わったけど、ヨーロッパのDJはほとんど独学なんだ。僕は若いとき、DJとしての何個かルールみたいなもの教わって。……例えば、お客さんの前で絶対に飲み物を飲んじゃいけない、背中を向けちゃいけないだとか、レコードはしゃがんで見えないようにとるとか、汗をかかないようにするとか、DJのために針をきれいにしておく、DJブースは自分が入ったときと同じ状態で去るとかね。そういうマナー的なものを教えられて、今でもそれは守ってるんだよ。それもDVDに入れればよかったかな~(笑)。でもそんなことを考えているヨーロッパのDJはあまりいない。なぜなら教える人がいなかったからね。
――そんな中で“DJになりたい”と思う人にとっては本当に素晴らしい作品になったことは間違いないですよね。でも、簡単にみえてそれをやり遂げた作品が今までに無かったですよね。
JEFF MILLS: そういうことはまあ、悲しい事実だよね。実際、レコードをミックスするっていうのがDJの仕事だから、僕にとって本来の一番ナチュラルな姿の作品なんだよ。音楽としてこのビデオを観てもらうことで、テクノDJとヒップホップDJがどう違うかとか、レコードのどういう要素を取り出してミックスし作っていくのかとか、テクノDJを理解してもらえると嬉しいんだ。あとは自分のクセやちょっとしたトリックとか、僕というパーソナル的なところもね。自分のやってきたことはエレクトロニック・ミュージックっていう大きな枠で考えると本当に1点にしか過ぎないんだけれども、今、それを記憶しておく必要があるんじゃないかって思ったんだよ。まあ、他のDJも同じように考えてくれてこういう作品が増えれば、これから先に価値のあるものになると思うんだけどね。
――今回DVDと同時にリリースするCDが最後のMIX CDということですが……。
JEFF MILLS: DVDも含めてなんだけど、内容的に僕がDJとして今やれることを表現したから、今後、これ以上DJ MIXでやりたいことがあるかって考えたときに、いわゆる”MIX CD”という形でやるのはここである意味、僕が持ってるものを全て出し切ったと思ったんだ。だけど、DVDっていうフォーマットで考えた時には、ミックスかは分からないけど、今後も積極的に考えていきたいね。
――それでは最後、DVDやインターネットに対する考えをお訊かせください。