プロディジーは一体どこへ行ってしまうのだろう。これが、このライヴに臨む際に僕が思っていたことだった。テクノ・リスナーのみならず、ロック・リスナーをも飲み込んで一大ムーヴメントとなったビッグ・ビートのブームから早5年以上。流れの早いテクノのシーンにおいて、ビッグ・ビートは一部のアーティストをテクノ界のみならず、ポップ・ミュージック界のメインストリームにこそ押し上げた。が、それは決してヒップなモードではなくなり、加えてケミカル・ブラザーズにせよファットボーイ・スリムにせよ、それぞれが時代の流れに沿うような進化は遂げて来ているわけであって。そんな確実なモードの変化の中、既に5年ものブランクを空けてしまったプロディジーが、一体全体、どういう最新型を僕らに届けてくれるのか。僕はそれが楽しみであり、かつ怖くもあった。プロディジーはこのまま過去の遺物となってしまうのか。いや、それとも、現在のところまで誰もやらなかったような、ドえらい新展開をここでいち早く披露してくれるのか……。
オープニング・アクトのマッド・カプセル・マーケッツが、ド派手な照明とデジタル・ビートを駆使したヘヴィなロック・ショウを終えた後、随分ゆっくり時間をかけて、プロディジーはその登場をもったいぶった。オープニング・アクトのマッドがこういうライヴを披露するのならば、本人たちのライヴもこういう感じなのだろうか。まあ、それでも悪くはないのだが、しかし、それではあまりにも直球すぎるのでは……。
などと思っていると、8時30分もゆうに過ぎた遅い時間に、プロディジーはこれまでと何ら変わらず、けたたましくステージへと登場した。ステージを見上げると、何とそこには4人のメンバーの他に見なれないギタリストの姿があり、その男がハードなディストーション・ギターを弾いている! これには正直、微妙な気持ちになってしまった。確かにビッグ・ビートは、あの当時のロック・リスナーをも巻き込んだムーヴメントではあったものの、そうしたロック的なアプローチは、今現在のテクノにおいてはもはや“死語”のような存在。そうした流れに逆行するかのような、このプロディジーのロック化。これは時代の流れから完全に取り残された証拠なのか、それとも時代にあえて逆行することで新たな挑戦を挑んでいるのか……。
正直なところ、今その答を出すのは早すぎるのかもしれない。しかし、さらなるロック化を断行するには、新たなる展開があまりにもなさすぎる。キース・フリントとマキシム・リアリティの2人のMCの煽りは相変わらず強烈で、エンターテイナーとしての才を感じさせるものではある。が、しかし、これを見慣れた人たちにとっては、それ以上の何かが加わらなければ、やはり苦しい面は否めない。しかも期待された新曲は4曲だけだ。
夏にはまず新しいシングルの発表が予定されているというプロディジー。さあ、このまま突き進むのか、それとも新しい局面を見せてくれるのだろうか……。
文●沢田太陽