【インタビュー】 マキシム(from The Prodigy) 、「昨日よりも良い明日を生きたいと思う」

ポスト

今年の3月、音楽シーンに激震が走った。UKレイヴのパイオニア“The Prodigy”のメンバー、キース・フリントの死。多くのファンが悲しみに暮れる中、同じくバンドの一員であるMaximが1枚のアルバムをリリースした。キースの死からわずか9か月、自身のルーツに、そして親友の死に真正面から切り込んだ渾身の作品である。そこで歌われているのは、悲しみや怒りではない。極めてポジティブな「愛」であった。──『LOVE MORE』。彼は最新アルバムをそう名付けた。より良い明日を生きるために。

◆撮り下ろし画像(9枚)

なお、インタビュアーはマキシムとティーンエイジャー以来の再会を果たし、マキシムがMM名義で行うアート活動にまで話が及んだ。個人的な話で恐縮であるが、The Prodigyは時に肉親より親しみを感じる存在だった。

  ◆  ◆  ◆

■ 彼の死に立ち向かうには、音楽に打ち込むしかなかったんだ

──最新アルバム『LOVE MORE』は今まで以上にご自身のルーツを反映した作品とのことですが、確かにレゲェやダブの要素が多く含まれている印象があります。

マキシム:これまでに出たアルバムも自分のもので間違いないけど、今作に関しては僕がティーンエイジャーだった頃にまで遡っているよ。他のアルバムは“その時の自分”って感じだけど、『LOVE MORE』は完全にルーツだね。若い頃はレゲェばかり聴いてたんだ。

──今、原点に立ち返ることに特別な意図はあったんですか?

マキシム:もう少し自分を出しても良いかなって思うようになったんだよ。今まで自分のルーツを晒して音楽を作ることをしてこなかったから。Chronixxのような若手にインスピレーションを受けたことも重要だ。ロンドン・レゲェシーンの中心的存在、「Trojan Records」が昨年設立50周年を迎えたことも大きい。だから、周りの影響も少なからずあったね。


──レゲェ一辺倒でないのも面白いですよね。「ON AND ON」や「LIKE WE」ではトラップの方法論も反映されていて、アメリカからもインスピレーションがあるように感じました。

マキシム:ここ最近、The Prodigyのメンバーとしてフェスのステージに立つかたわらで、DJをやる機会が増えてきたんだ。ライブ終わりに楽屋で好きな曲を掛け合う簡単なヤツから始まったんだけど、アイデアとしてトラップが入ってきたのはその頃だね。もちろん僕の周りにはドラムンベースやダブステップをかける人もいるんだけど、僕は結構トラップが好きでね。今回『LOVE MORE』でプロデューサーを務めてくれたBlaze Billionsは、僕よりもさらにアメリカ寄りだよ。実際に彼はアメリカでも仕事してるし、彼の存在も大きく影響してる気がする。

──普段と表現のスタイルが異なるDJをやることで見えてくる景色もあるんですね。聞く話によると、The Prodigyの楽屋はかなり騒がしいとか……。かかる曲のジャンルもバラバラであると。

マキシム:DJを始めたのもここ4、5年間の話なんだけど、当初は聴いてる人に「何?この曲?」って思わせたかったんだ。そうすると必然的にジャンルはバラバラになるんだよ(笑)。UKには元々フィーチャリング文化もあるし、イギリス人は違うジャンルを掛け合わせることに抵抗はないんじゃないかな。僕らの国はアメリカに比べると経済規模も国土も小さいけど、そのサイズ感の違いがキーになってる気がする。アメリカは広すぎるよね。同じヒップホップでも南部と北部ではサウンドもスタンスも全然異なるし、実際の距離も遠いからお金がないと共作も難しい。その点、イギリスは対照的だよ。海外から新たに音楽が入ってきたとしても、人とシェアしやすいんだ。たとえばレゲトンは元々カリブ海の音楽なんだけども、それが西インド諸島を超えてコミュニティごと僕らの生活に入ってきた。その時にお互いの距離が近ければ、そのような新しいカルチャーを友達と共有するのに時間がかからないわけだね。インターネットが登場してから共作は簡単になったけど、そのシステムが完成するずっと前から、イギリスにはシェアの文化があった。『LOVE MORE』では、そういう矜持も見せたかったのかもしれない。


──今作は「キースに捧げた作品」とも銘打たれています。恐らく多くのファンは未だに踏ん切りがついていないでしょう。彼の死に対し、深い悲しみ、あるいはやり場のない怒りを感じているかもしれませんし、私個人の中にも様々な感情が渦巻いています。その中で、『LOVE MORE』で打ち出しているメッセージは限りなくポジティブです。

マキシム:うん、その通りだよ。そして君が言うように、怒りに任せたダークな作品を作ることもできた。でも、このアルバムは“ヒーリング”にしたかったんだ。僕だってまだ辛いんだよ。全然立ち直ったわけじゃない。今も毎日キースのことを思い出す。常に戦いだよ。実はアルバムが完成するのだって、ずっと先だった。彼の死に立ち向かうには、音楽に打ち込むしかなかったんだ。だから予定よりもずっと早く出来上がったんだよ。

──あまりにショッキングな出来事でしたよね……。「FEEL GOOD」のリリックで強迫観念的に頻出する“My people”は、自分も含まれているのではないかと想像しながら聴いてました。

マキシム:まさに。自分と同じ境遇の人が多くいるだろうと思ったし、その人たちに向けて書いた曲だよ。今も毎日のようにファンから僕らに向けてメッセージが届くんだ。今後の人生でもずっとこの悲しみは背負わなければいけないだろうけど、みんなそれぞれ向き合い方がある。悲しみから癒える速度も人によって違うだろうし、だからこそ「FEEL GOOD」はポジティブなメッセージとして伝えたかったんだ。ただひたすら前を向こうって。


──そういうポジティブなエネルギーがキースの死とは違うベクトルにも伸びてるのが、この作品の素晴らしさだとも感じていて。「CAN’T HOLD WE」(俺たちを止められない)からは、それこそレゲェ本来のレベルミュージック性があるというか。

マキシム:そうだね。ボブ・マーリーの「Get Up, Stand Up」的な側面は少なからずあったよ。「CAN’T HOLD WE」は今の社会全体に投げかけたかったメッセージでもある。でも実はこの曲の中にもKiethについて綴った部分はあるんだ。

“Too Many Times In Life You See The Things In Front Of You” “You Broke Down And You Cry”(生きていると しょっちゅう目の前で様々なことが起きる 崩れ落ちて 泣くこともある)

レベルミュージックは必ずしも社会に対する不満や怒りをぶつける音楽ではなくて、純粋に人を励ます特性もあるんだよ。「MANTRA」や「RISE」も同じようにレベルミュージック的な曲だけど、やはり同じように人をエンパワーメントする意図があった。

▲『LOVE MORE 』ジャケット

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報