| Police解散後の最初のソロヒットでStingは、“誰かを愛したら、その人を自由にしてやれよ”と歌っていたが、最新作『Brand New Day』のリリースから1年半も経つというのに、ファンはなかなか彼のことを解放してくれそうもない。 「このツアーの成功には驚くほど感謝しているんだ」とアルバムが発売されてから何度も世界中を回ってきたStingは語る。「これで18カ月になるけど、何事もすごいスピードで移り変わる今の時代では期待できないような生活だよ。結局は700万枚売れたことも嬉しいし、2つのグラミー賞にも不満はないね。当たり前に思えることなどないさ。すべては時間の問題にすぎないし、今回は単にうまくいっただけだよ。次のことはわからないな」 正直なところ、最初から『Brand New Day』がStingに光り輝いていたわけではない。'99年の秋にアルバムが発売された当時のセールスは、がっかりするほど鈍いものだった。だが過去の大成功のおかげで金もうけやぜいたくを望むこともないGordon Sumner(Stingの本名)には、創造面で満足できる作品であったとしてこれを帳消しにする余裕があったのだ。この歌心に満ち、ジャンルを飛び越えた傑作は、James TaylorやStevie Wonderといった個人的なヒーローと共演するチャンスを彼に与えてくれたのである。 そしてStingはJaguarのフロントシートに飛び乗った。 それは『Brand New Day』からのセカンドシングル「Desert Rose」のビデオの1シーンだったが、この映像と音楽を自動車メーカーのJaguarが2000年度のキャンペーンに採用した結果、世界的なスマッシュヒットになったのである。「もちろん、あれは計算されたうえでのリスクだったよ」とStingは認める。 「とても組織的な方法で進行していったんだ。僕が新型Jaguarに乗っているビデオを彼らが見て、“まるで我が社のCMにうってつけの映像だ。使えるかな?”ということになって、僕らがOKを出したのさ。だってあれ以上のプロモーションに払えるお金なんてないからね。あんなことをやるのには何百万ドルもかかるはずだよ」 「それで僕らも“よし、できるだけ多くの人たち、普段なら聴かない人たちにまで、この曲を届ける努力をしよう”ということになったのさ。そしたら水が堰を切って溢れ出したようだったよ。人々が曲を知るようになったら、ラジオもとても好意的に扱ってくれたし、ついに僕たちはSuper Bowlで演奏するまでになったんだ。だから、限られたリスナーしか得られなかったかもしれない曲が、最終的に膨大なオーディエンスを獲得することになったのさ。めったにないことだから、とてもうれしかったね」 実際に「Desert Rose」の成功で最も良かったのは、エキゾチックなサウンド構成を再びポップスのメインストリームにもたらす機会が得られたこと、というのがStingの見解である。つまりこの場合には伝統的なアラビア楽器とアルジェリアのライ歌手、Cheb Mamiのヴォーカルであった。 「Cheb Mamiが歌うアラビア語で曲は始まるんだけど、誰でも最初にこれを聴いたときにびっくりして引いてしまうのさ。アラビア語をラジオから流すなんて不可能だと考えてしまうんだ」とSting。(彼は9月5日に“先住民と環境に対する取り組み、さらに文化間の相互理解の促進への貢献”を認められて2001 Kahlil Gibran Spirit Of Human AwardをArab-American Instituteから受けている)。「だから僕らがそれを成し遂げたことを誇りに思っているんだ。リスクを冒してよかったよ」 もちろん、リスクはStingのパフォーマーとしてのキャリアの一部であり、重要な部分でもあった。Police時代にはレゲエとポップスを融合させて金を(さらにはプラチナも)生み出し、さらにバンドが成功の頂点を極めた瞬間にソロ活動に乗り出す決断をした。その後もStingの核にあるのは、予想どおり気まぐれで、意図的かつ嬉々として複数の音楽ジャンルを激突させ、それでもなおエアプレイやチャートでの成功に充分なメロディックで親しみやすい新たな音のシチューを創作してきたということである。 しかも、それは音楽にとどまらなかった。彼は舞台(ブロードウェイの「三文オペラ」)や映画(さらば青春の光、デューン 砂の惑星、プレンティ)にも進出し、Amnesty Internationalや彼自身が妻のTrudie Stylerと設立したRainforest Foundationなど政治的、人道的な大義や環境問題の活動家としても働いている。彼をリスペクトするLenny Kravitzが言うように「Stingは自分のやりたいことを何でもやる。思い込んだら一直線の男」なのである。 「僕はいつだって自分のやりたいことを何とか思い通りにやってきた」とStingも認めている。今年もディズニーのアニメーション映画「The Emperor's New Groove/ラマになった王様」のサウンドトラックに提供した作品がアカデミー賞にノミネートされた。 「音楽的な面で言えば、たいていは大衆の好みとは違ったものになっている。だって“OK、ここではどのパターンかな? 今週はBritney Spears風? それとも'N Sync風?”なんてのよりはいいだろう? そんなことできないし、やりたくもないよ。だから僕は自分自身と友人たち、そしてミュージシャンのためにレコードを作っているようなものさ。それで竿のてっぺんで旗がはためいてくれたら素晴らしいことだけど、だめでも数年後に次の作品を世に問うだけだよ」 現在Stingは次の展開をどうするか考え始めている。彼は7月末にツアーを終える予定で、すでに数多くのプロジェクトが提示されているが、“現時点で詳細を明らかにできるものや決定しているものは何もない”という。だがStingは初秋にパブスタイルのギグを行なって、ライヴアルバム用に録音する計画を進めている。これは拡大バージョンのバンドと、ゲストとしてサクソフォン奏者のBranford Marsalisをはじめとする何人かの“旧友”をフィーチャーしたものになるそうだ。 「かなりアコースティックなスタイルで演奏して、小さな会場の親密なムードの中で曲を再解釈することで、ファンに対するお礼と記念の作品にしたいのさ」とStingは説明する。「これはリスクがあるけど、通常のライヴアルバムよりも少しは面白いものに仕上がると思うんだ」 その後は、再び新しい音楽を作るまでにそれほど長くかかることはなさそうだ。「その点に関してはすでに不安を感じ始めているけど、それは常に創造性に繋がる鍵なんだ。不安こそが創造の鍵なのさ」。彼は笑いながら言った。 「前にやったことを繰り返すのにはまったく興味がないんだ。たとえそれで僕が試行錯誤に陥ったと思われるような音になったとしてもね。より良いアレンジャー、より良いソングライター、より良いプレイヤーを目指して、常に向上を続けていたいというのが僕の望みなのさ。だから今でも練習は欠かさないし、音楽の勉強もまじめに続けているよ。何らかの形での前進があったことを反映するような作品を作っていきたいんだ」 By Gary Graff/LAUNCH.com | |