【ライブレポート】スティング、新鮮な感動と新たな輝きと味わい

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Photo by Kazumichi Kokei

スティングが、3年半ぶりに日本の土を踏んだ。あらためて触れるまでもなく、この3年半という長い時間は、世界がコロナ禍に翻弄された時期とそのまま重なるもの。「スティングのライヴ」への期待感はこれまでになく高かったわけだが、広島や大阪のファンからその熱い想いをさらに煽るような情報がつぎつぎと届くなか、3月11日、スティングの東京公演初日が行なわれた。会場は、昨年夏から本格的にイベント会場として使用されるようになったばかりの有明アリーナだ。

オープニング・アクトは、スティングの息子ジョー・サムナー。「ジェリー・ビーン」「ホープ」といったオリジナル曲をギター一本で歌い、愉快な日本語のMCでも楽しませてくれたあと、短いインターバルがあり、いよいよスティング・バンドと登場となった。


Photo by Kazumichi Kokei

ドミニク・ミラーを中心としたメンバーが定位置につくと、ステージ下手から愛器プレシジョン・ベースを抱えたスティングが歩み出てきた。やや小さめのTシャツと黒い細身のパンツ。鍛え上げたという表現は正しくないのかもしれないが、無駄な肉はまったくなく、71歳という年齢が信じられないほど。

オープニングは「孤独のメッセージ」。昨年から加わった米国東海岸出身のドラマー、ザック・ジョーンズがワン・タムのシンプルなセットで叩き出す重量感があってしかもシャープなリズムに乗って、彼らは、44年前の名曲に新たな生命を吹き込んでいく。ヘッドセット・タイプのマイクを使うようになったスティングが(つまりマイク・スタンドに正対しなくていい)、自由にステージ上を動き、リズムや歌詞にあわせて視線も動かしながら歌うその動的イメージもスティング・バンドの新たな印象に大きく貢献しているようだ。

ハーモニカのシェイン・セイガーを大きくフィーチュアした「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」「マジック」とつづいたところで、「クチブエという日本語を覚えた」というMCで笑わせてさり気なく「イフ・イッツ・ラヴ」のイントロに移り、さらに「ラヴィング・ユー」「ラッシング・ウォーター」と、最近作『ザ・ブリッジ』にスポットを当てたセクションをじっくりと聞かせてくれた。『ザ・ブリッジ』は、ある意味では、コロナ禍に仕事の機会を奪われたことを逆手にとってつくり上げた作品であり、音楽家=スティングの今を伝えるものとして、やはりこれはきっちり聞かせたいと考えたのだろう。


Photo by Kazumichi Kokei

「ルーズ・マイ・フェイス・イン・ユー」、ドミニク・ミラーがガット弦のギターで美しいソロを聞かせる「フィールズ・オブ・ゴールド」とつづいたあと、スティングがシェインを中央に呼び出し、スティーヴィー・ワンダーのハーモニカが印象的だった「ブラン・ニュー・デイ」。躍動感にあふれた力強いパフォーマンスを終えると、ふたたびドミニクがガット弦のギターに持ち替え、叙情的な「シェイプ・オブ・マイ・ハート」。そして、コーラスのメリッサ・ムジクが活躍する「ヘヴィ・クラウンド・ノー・レイン」から「セヴン・デイズ」「マッド・アバウト・ユー」と進んでいったあと、ガラリと雰囲気が変わる。

今回のツアーのステージ・セットはじつにシンプルで、基本的には照明を効果的に使って音そのものに重点を置いたものなのだが、ここで横長のスクリーンにNETFLIXで配信されたアニメシリーズ『アーケイン』からの映像が写し出され、スティングは、ケヴォン・ウェブスターが弾くキーボード中心の重厚なサウンドに乗って、そのアニメ作品に提供した「ホワット・クッド・ハヴ・ビーン」をじっくりと歌い上げていくのだ。そして、その雰囲気のまま曲はポリス時代の「アラウンド・ユア・フィンガー」に変わり、あのミュージック・ビデオを思い起こさせる蝋燭の映像がバックに浮かび上がる。なんとも美しい演出だ。


Photo by Kazumichi Kokei

いよいよコンサートも終盤。「ウォーキング・オン・ザ・ムーン」、そして「ソー・ロンリー」と、ポリス時代の、どちらも強くレゲエのリズムとイメージを打ち出した曲がほぼメドレーの形で演奏されたのだが、スティングのベースに導かれて曲が移り変わった瞬間、その鮮やかさに、思わず息を飲んだほどだった。

そしてそのメドレーの後半ということになる「ソー・ロンリー」では、ボブ・マーリィーの名曲「ノー・ウーマン、ノー・クライ」が歌いこまれていく。ただし、誰もが知るそのタイトルの部分ではなく、“Good friends we have, Good friends we've lost, Along the way / 良き友を持ち、良き友を失い、道を歩む”というラインを強調する形で。いかにもスティングらしい、メッセージの伝え方といえないだろうか。

つづいて「デザート・ローズ」で満員のオーディエンスを北アフリカの砂漠地帯へと誘ったスティングは、「キング・オブ・ペイン」「見つめていたい」と、やはりポリス時代の名曲をほぼメドレーの形で聞かせ、いったんコンサートを締めくくっている(この2曲には、ジョー・サムナーもヴォーカルで参加していた)。


Photo by Kazumichi Kokei

アンコールは、まず、オーディエンスと一体となっての「ロクサーヌ」。そして、ガット弦のアコースティック・ギターを手にしたスティングが「今夜はこれで終わり」と語りかけてから、「フラジャイル」。この曲での、聴く者の心を強く引き込むギターの美しさには、毎回、新鮮な感動を覚えるのだが、今回はまた新たな輝きと味わいが加わっていたようだ。

アルバムのタイトルでありツアーのタイトルでもある『マイ・ソングス』の中心テーマはReimagine=再考し、見つめ直すということ。それは自らの作品群の普遍性を強く自覚しているスティングだからこそできる創作行為だと思うのだが、彼はツアーを通じても、日々、その意欲的な取り組みを続けているのだろう。

とはいえ、今回はまずなによりも、長い空白の時期をへて再会できたことをファンとともに喜び、楽しむことに、ポイントが置かれていたようだ。そのうえで、「ホワット・クッド・ハヴ・ビーン」や『ザ・ブリッジ』からの3曲などによって今後の方向性や可能性もきちんと示した、スティングらしさ満載の2時間だった。ジョー・サムナーが冒頭で話していた愉快な日本語を借りるなら、まさに「マンプク」。幅広い年齢層のオーディエンスの皆さんもきっと、同じような想いで家路につかれたのではないだろうか。


Photo by Kazumichi Kokei

文◎大友 博

<スティング@有明アリーナ | 2023/3/11>

1.Message in a Bottle
2.Englishman in New York
3.Every Little Thing She Does Is Magic
4.If It's Love
5.Loving You
6.Rushing Water
7.If I Ever Lose My Faith in You
8.Fields of Gold
9.Brand New Day
10.Shape of My Heart
11.Heavy Cloud No Rain
12.Seven Days
13.Mad About You
14.What Could Have Been
15.Wrapped Around Your Finger
16.Walking on the Moon
17.So Lonely
18.Desert Rose
19.King of Pain
20.Every Breath You Take
21.Roxanne
22.Fragile



スティング『マイ・ソングス』(2LP)

2023年3月8日発売
UIJY-75233/4 6,600円(税込)
*日本製造/完全生産限定盤
・2LP / 180g / ブラックヴァイナル
・スティングによる全曲解説・日本語訳、解説、歌詞・対訳付
https://umj.lnk.to/Sting_ms









スティング『ザ・ブリッジ』

2021年11月19日発売
※日本盤のみSHM-CD仕様
2CDスーパー・デラックス:UICY-16080/1/3,850円(税込)https://umj.lnk.to/Sting_TheBridge_Sd
CD+DVDデラックス:UICY-79755/4,070円(税込)https://umj.lnk.to/Sting_TheBridge
CD通常盤:UICY-16021/2,750円(税込)https://umj.lnk.to/Sting_TheBridge

<スティング 「マイ・ソングス」 ジャパンツアー2023>

3月8日(水)広島サンプラザホール
3月9日(木)大阪城ホール
3月11日(土)有明アリーナ
3月12日(日)有明アリーナ
3月14日(火)日本ガイシホール
https://www.livenation.co.jp/stingjapan2023


Photo by Eric Ryan Anderson

◆スティング・レーベルサイト
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