『Cydonia』 ユニバーサル インターナショナル UICI-1010 2,548(tax in) 2001年2月21日発売 1 ONCE MORE 2 PROMIS 3 GHOST DANCING 4 TURN IT DOWN 5 EGNABLE 6 FIRESTAR 7 A MILE LONG LUMP OF LARD 8 CENTURIES 9 PLUM ISLAND 10 HAMLET OF KINGS 11 1, 1, 1 12 EDM 13 THURSDAY'S KEEPER 14 TERMINUS | | 大西洋を股にかけてOrbのAlex Patersonと語り合ううちに、アンビエントすべての黒幕たる、つるりと丸い顔をした男と私の会話は急な方向転換を見せた。自身の最新作『Cydonia』をめぐる当たり障りのない回答を述べるに飽き足らず、性の抑圧やら荒れ狂う電流のうねりやらといった新鮮な話題へと、Patersonは矛先を変えていったのだった。 「新曲がひとつできていて」とPaterson。「“EDM”というタイトルなんだ。つまり、“Electro Dissolving Memory”の略で、人間がいつまでたっても賢くならないのは、地球上の鉄塔から鉄塔へと飛び交う電流のせいだという内容でね。いや、心配はいらないよ、僕は正気だから。ただ、そういう陰謀が疑われるということさ。例えばレイラインがそうだが、いずれもエネルギーなんだから、そのエネルギーを連中が我々から切り離すに任せておくようでは、我々はバカだってこと」 どうして、それで我々がバカということにになるんでしょうか、魔法使いのAlexさん? Patersonはこの質問を無視し、代わりに話題を変えるのだった。 「もしも我々が永遠に続くオルガズムの中で暮らしていくことができたら、一体どうなるだろう。ペニスの話じゃない、頭の中の話だよ。セックスをいけないものとするカソリックの抑圧下で2000年。僕は何も、Aleister Crowley的な意味合いでセックスの魔法を説こうとしているわけじゃないんだ。あくまで、これもまた可能性を広げるひとつの手段ということさ。オルガズムにはその力がある。生殖器は満たさずとも脳ミソを満たすことのできるような、形の違う喜びを見出すことができるなら、僕は是非それを手に入れたいと思うけれど……一体どこにあるのやら」 こんなとりとめのない問答は、Orbのユニークな音楽の特徴でもある。過去の名シングル“Little Fluffy Clouds”や“A Huge Ever-Growing Pulsating Brain That Rules The Centre Of The Ultraworld”に始まり、近年のOrbの大作『Orbus Terrarum』や『Orblivion』に至るまで、Orbは新たな音響の世界へと大胆に足を踏み入れてきた。真の“音を巡る旅”である。 『Cydonia』はPatersonの隠遁生活を経て発表された作品だ。当人は今、Guy Pratt、Witchman、ヴォーカリストのNina Walshら、コラボレーターの顔ぶれを入れ替わり立ち替りさせながら音楽活動を進めている。『Cydonia』の音楽は、きらびやかなリズムとメロディ、そして謎めいたメッセージと愉快なサウンド・サンプルに満ち溢れたOrb一流のオデッセイだ。“Egnable”“A Mile Long Lump Of Lard”、そして“Terminus”といった曲でのPatersonはオカルト調の語り口を繰り広げているが、他に例えば“Thursday's Keeper”あたりの曲は、ゾロアスター教の古代の4行詩を起源としている。 夜を徹した英国のレイヴ明けに、チルアウト系のレコードを回した最初のDJのひとり(一番最初ではなかったとしても)であるPatersonは、しみったれた地下室から国際的なスターへとDJが出世するのを目の当たりにしてきた。Paterson自身、広東からクリーヴランドまで、かつてない忙しさで各地の大衆にチルアウトのメッセージ込めてレコードを回しているのだから、現状を喜んでいるものと人は思うだろう。 「電子音楽とともに訪れて、そして生きながら恐竜化しつつあるのが現状さ」とPatersonは嘆く。「ひとりのDJを見るために誰もが金を払い、2万人の目がこっちを見つめている。まるでロック・バンドを見るようにね。これではDJならではの親密感が台無しだ。プログレッシヴ化してるんだよ。どこへ向かっているのかって? 正直な話、知ったこっちゃないさ。夏ごとにいくつこなす気があるのかにもよる。僕は今年、世界中で小さなフェスティヴァルやギグをやる予定で、今月は広東のジャズカフェ、そのあとは上海の巨大ディスコ、それに札幌の小さな会場でプレイすることになっている。グァダラハラの廃屋で6000人を前にやるというのもある。そういうのは気持ちが良いね」 「とはいえ誤解しないでほしい。僕も自分の身に起こったことを非常にありがたく思ってはいるんだよ。最初のアルバムはサウス・ロンドンにあるちっぽけなスタジオで作ったもので、当時は僕も空きビルに不法侵入して住まいにしていた。それでも皆、スカイダイヴィングをする時やメイクラヴする時に僕の音楽を聴いていたと言ってくれる。いまだに僕はステージに上がるにもスタジオに入るにもやたらと緊張するんだが、その緊張感を失くして自惚れるようなことになったら、その時は自ら“このバカもの”と言い放つべきなんだろう。皆に僕の音楽を好きだと言ってもらえて本当に嬉しいよ。人を結び付けたり、純粋な愛というものを示しているようだから。普通ならエゴだらけになるところが、Orbに関してはそれをすべて超越してしまっているらしいんだ」 しかし、今日のPatersonは音楽とメッセージの話だけでは満足しない。「僕はできるだけ格好つけずに、村の道化役に徹することを心掛けているんだ。楽しいもんだよ」。生まれたばかりの赤ん坊をあやしながら彼が言う。 「相変わらず、何事にも興味がある。Orbは当初からずっとそうだった。不条理なユーモアというやつはOrbから消えていない。今もそこらに漂っているよ。音楽的趣向からいって僕はいささか変わり者だと思われているしさ。好きで聴いているのは日本の笛の類いとか、野生の哺乳類が海中で放つおかしな音。そういえば、うちの庭にはテラピン(カメの一種)が住みついているんだ。少し怯えているようだから、鯨の声を流してやった。そこら中を飛び交っているのは車ばかりじゃないってことを教えてやろうと思ってね」 By Ken Micallef/LAUNCH.com | |