Ian McCullochは、'99年にリリースされた『What Are You Going To do With your Life』がまだレコーディングされていない頃、このアルバムについてエキサイトした様子で語ってくれた。彼は炭酸ドリンクをすすりながら、これほど早い時期に内部情報をあまりにも多く提供しすぎる危険性を考慮するため、話をストップさせた。 「これはインターネットに載るのかい?」 そう尋ねた後で、彼は心を決めたようだ。 「分かった。構わないさ。インターネットに載ってる噂の類いは面白いね。ついでに僕が豊胸手術を受けたって、ほのめかしといてくれるかな?」 かつて英国の音楽プレスが“Mac The Mouth(大口マック)”と名付けた、カラフルなフロントマンの弁舌が今も絶好調なのは間違いないようだ。『What Are You Going To do With your Life』は、疑いもなく'84年の金字塔『Ocean Rain』(「史上最高のアルバムのひとつ」と、McCullochは今でも当然のように主張する)以来の彼らの最高傑作である。このアルバムは、『Ocean Rain』や'87年の『Echo & The Bunnymen』と同様、ゴージャスで思索的な作品集で、ストリングスの繊細な感触、アコースティックギターのストローク、そしてWill Sergeantのトレードマークであるエレキギターの音響といった彼らの長所が活かされている。だが、その一方でBunnymenとソングライターのMcCullochにとっては明らかに転換点でもあり、従来とは違った領域の感情をカヴァーする、より内省的なソングライティングが行なわれている。これを、“メロウになったBunnymen”と表現する人もいるほどだ。 「たしかにそうだね」とMcCullochは認める。「僕に言えるのは、この時期に作らなければならないアルバムだったということだけだよ。僕が感じていたことを誠実に反映させたのさ。それ以外の理由、例えば、生きている間にトップ5シングルを出そうとかいう目的で音楽を作っているわけじゃない。その内容が何であれ、自分が思ったことをすべて曲にして、それを歌うことだけが動機なんだよ」 それはまた、より成熟したMcCulloch個人ということでもあるのだろうか? 彼はほんのかすかに微笑んだ。 「老化のプロセスが始まったと言いたいのかい? 誰だって認めたくないことだよね。少しだけ自己弁護させてもらえるなら、「Rust」(アルバムのリードシングル)みたいに、自分の老化について歌うのは、正直なところ僕にとっては今の時点で“月を殺して”とか“壁を乗り越えて”とか歌うことよりも、ずっと先鋭的で冒険的な行為なんだよ。だって、リスナーにとってのつらさ以上にずっと僕自身がつらい歌なんだからね」 実際にアルバムでは、悪名高い大酒飲みだったMcCullochの、プライベートの転機も暗示されている。いくつかの点で、まるで非常に長い二日酔いから覚めたばかりの人間が歌っているように聞こえるのだ。McCullochはくすくす笑って言う。「そう、きっとヘミングウェイ以来の長さだろうね」 そんなにも朦朧とした時期だったのだろうか? 「そうだね、正直なところ、数年前までは確かにそうだったよ。だけど、それが曲として出てくるまでには少し時間が必要だったのさ。つまり僕はBill Grahamでもなければ、Bonoなんかじゃ絶対ないからね。今は多少は落ち着いた状態にあるよ。そのほうがしっくりくるんだ。でも時々は、ちょっと酔っぱらってるのもしっくりくるけどね。今のところはしらふと酔っぱらいの両方の組み合わせといったところだよ」 「知ってるだろうが、僕は女房や子供のことは歌ったりしない」と、彼はシリアスな表情で付け加えた。 「でも、今ではもっと“完全な”自分がいるんだ。僕がより完全な自分になれたのは、家族とそして友人たちのおかげだよ」 Bunnymenの大酒飲みの習慣は、バンドのヒストリーを通じてかなり記録に残っているが、時にはレコーディングセッションにも溢れ出してきていたようだ。バンドのメンバーが薮の中で目覚めて、犬になってしまったと思ったとか、その手の話は枚挙にいとまがない。McCullochは、以前のエキセントリックなマネージャー、Bill Drummond(後のKLFのメンバー)が選んだノルウェーの最北部という辺境の地で行なわれた、奇妙な(「Broke My Neck」と「Fuel」のための)B面セッションが印象に残っているという。 「ヤツはいかにもBill Drummondらしい方法で、可能なかぎり辺ぴな場所にあるスタジオを探しだしたのさ。そこは誰かの家の地下にあって、何だか不思議な感じだったね。僕は現地産のブラッドアルコールだか、ヌーのエキスだか変なものを飲んでいたらしい。覚えているのは3枚のシーツのようになって激しい北風に吹かれていたことだけだよ。僕は完全にイカれちゃってたから、あの時のトラックにはあまり歌詞が付いていないし、ほとんど歌っていないだろ」 『What Are You Going To do With your Life』は'97年の“再結成”アルバム『Evergreen』に続く作品である。その前の正式なBunnymenのアルバムは、グループと同名の'87年のリリース作で、そこから彼らにとって米国での最大のヒットとなった「Lips Like Sugar」が生まれている。その後には、New OrderとGene Loves Jezabelを従えた、ヘッドライナー・ツアーが行なわれた。 だが、'89年にMcCullochはソロキャリアを追求するためにバンドを離れる(Bunnymenは彼抜きのアルバムを1枚リリースしている)。'94年になって、McCullochとギタリストのWill Sergeantは再会、Electrafixionを結成するものの期待外れに終わっている。そして'96年になり、ベーシストのLes Pattinsonが2人に加わってBunnymenは再結成された(残念なことに、ドラマーのPete De Freitasは'89年にオートバイ事故で亡くなっている)。しかし、Pattinsonは'98年になって、家庭を離れて音楽ビジネスの世界でもう1年過ごす見通しに嫌気がさしたらしく、友好的な形でバンドを離脱している。'99年に、予定されていた夏の米国ツアーを延期する決定をしたことで、欲求不満をますますつのらせていたようだ(「ただミュージシャンを交代させる必要があっただけさ」とMcCullochは説明している。「それにアルバムがアメリカで出るまで待とうと思ってね」)。 だが、このことは新たなBunnymenのリリース2枚を仕上げる時間を与えた。1枚はクリスマス商戦に合わせた新しいベスト盤コンピレーション、もう1枚は先に触れた次のスタジオアルバムで、これは「よりロックしていて、より不気味なものになるだろう」とMcCullochは約束してくれた。彼はバンドとして初めてアメリカでレコーディングする計画、しかもアメリカのプロデューサー、David Fridmannと彼が手がけたMercury RevやFlaming Lipsといったバンドのメンバーと一緒にやるという可能性まで明らかにした。「かなり『Crocodiles』みたいなものになるだろう。'60年代のアメリカのサイケデリックのようだけど、ポップな感じのヴァイヴがあるやつにしたいんだ。2週間くらいで仕上げたいね。きっとブッ飛ぶようなものになるよ」 だがMcCullochは、他にも次のアルバムを素早く仕上げたい動機があることを認めている。「だってそうすれば他の重要なサイドプロジェクトに取り掛かれるだろう。例えば、Leonard Cohenを僧院から連れ出すとかね」。Cohenは彼にとって常にソングライターとしてのヒーローのひとりであったという。 Cohenを禅修業から引っ張り出したいと思う理由は何なのか? McCullochは深呼吸し て、あたかもとっておきの秘密を明かすかのようにそっとつぶやいた。 「彼を連れ出すのは僕の人生に課せられた使命のひとつなんだ。だって、彼が茶碗を持ったままフリーズしちゃう前に1曲は一緒にやりたいからね」 |