| この世は移ろいやすいものだが、中には変わらないものもある。例えばApollo Theatreの伝統はどうだろうか。その歴史的な全盛期以来ずっと、この名高いステージにおける素晴らしいパフォーマンスはスターをスーパースターに、スーパースターを伝説へと変えてきた。そして「Between South And The East: Hip-Hop」と題された11月18日のApolloでのショウでは、Ludacris、Memphis Bleek、M.O.P.、Mystikalといったアーティストが年間最優秀ラップの候補曲を携えて、頂点の座を競いあったのである。 最もチャンスに恵まれていたのはMystikalだった。というのも最新作(Neptunesのプロデュースによる『Let's Get Ready』)を発売する前だったら、眠らない街ニューヨーク中を探してもMystikalの歌のタイトルを答えられる人を見つけるのは容易ではなかっただろう。彼の特徴的な声、カリスマ的なステージパフォーマンス、そしてすでに300万枚のアルバムを売り上げているという事実を持ってしてもである。 無限のエネルギーを持ってApolloのステージに登場したMystikalは、「Thriller」風ゾンビダンスの繰り返し(ちなみに彼の本名はMichaelだ)ですぐさま観客を釘付けにし、パワフルなJames Brown的ヴォーカルでNo Limitでのヒット「Make 'Em Say Uhh」のヴァースを歌って会場を掌中に収めた。この強力なオープニングは、続く「I Still Smoke」などのより馴染みの薄い作品に備えて観客をウォームアップさせる役割を果たしており、極めて賢明な手法だったといえるだろう。Mystikalはオーディエンスに対して「Danger」のコーラス部分“been solong”や「Shake Ya Ass」の“show me whatcha working wit”を歌えと命令したものの、それに続く観客の反応は“the man right chea”をどこにでもいるただのTHE MANに変えてしまったようだ。 次に登場したのはアンダーグラウンド界の大物グループthe First FamilyことM.O.P.である。2人組のアルバム『Warriorz』からの背筋が凍るような「Cold As Ice」の背景には、シミュレーションによる吹雪が演出された。続いてその小道具が「4 Alarm Blaze」の熱によって溶け去っていった後で、Billy DanzeとLil Fameは「G Building」と「First Time Felon」(非公式の3人目のメンバーTeflonとともに)を披露、メンバー間で激しいフリースタイルのソロが応酬された。一部の観客はハイオクタン価のアドレナリン誘発ソング「Ante Up」やM.O.P.がブレイクしたシングル「High About Some Hard Core」を熱心に待ち望んでいたが、グループのステージでのエネルギッシュな奇行も、たいていの場合は説明できないほど活気のない反応が返ってくるだけであった。 Memphis BleekはDef Jamの仲間であるJa Ruleの代役として直前に出演が決まった。しかし、DJ Premiere風味の「Hand It Down」でステージに踊り出ると、数々のゲスト出演で名を駆せてきただけのことはある途方もない安定感を示したのである。「It's Alright」「Money Cash Hoes」「What You Think Of That」のヴァースは見事につなげられ、「I Got My Mind Right」のエンディングにはフードを付けた謎の人物がマイクを持ってBleekの横に現われて、ステージ正面のエリアは興奮したファンで突然いっぱいになった。彼こそが今夜のスペシャルゲストであるJay-Zだったのである。2人はさらにJayの「Hey Papi」やBleekの「Is That Yo' Bitch」で会場を盛り上げたが、Jayはそれでも不十分だとばかりに「Yo, Bleek、コイツはあんたのショウだとわかっているけどよぉ、何かちょっと足りねえんじゃねえか」とまくしたてた。それをきっかけとしてDJが「I Just Wanna Love U(Give It 2 Me)」につながるインストルメンタルをスクラッチして、Apolloの建物は文字どおり揺れ始めたのである。 今夜のオープニングは新人のLudacrisが務めたが、彼は「Catch Up」やTimberlandがプロデュースした「Fat Rabbit」などの自分のレパートリーに、ハーレム育ちのアーティストであるCam'ronの「What Means The World To You」を自身でリミックスしたバージョンを織り混ぜて、彼に馴染みのないハーレムの常連客を魅了した。 Apollo Theatreのスター誕生伝説はまだまだ不滅のようだ。 |