「誰も、こんなことになるなんて思ってもいなかったはずだぜ」。Nextのメンバーの1人、TweetyはTシャツの袖をまくり上げ、たくましい腕に刻まれたバンド名のタトゥーを見せながら言う。バンドに対する彼の熱意に、たとえ一瞬でも疑いを抱くことがあったとしても、このタトゥーが打ち消してくれるだろう。「Nextの存在する意味は、まさにそれなのさ。それが真実なんだよ。誰も俺達がこんなことを成し遂げるなんて信じちゃいなかったんだ」 大げさなジェスチャーはともかく、彼の言葉は核心をついている。'97年に彼らがデビューシングル“Butta Love”を、Arista傘下のDivine Mill(Naughty By NatureのメンバーでプロデューサーでもあるKay Geeのレーベル)からリリースした時、彼らのことを成功に最も近いグループと見抜いたマスコミの人間はほとんどいなかった。実際、このシングルが静かにチャートを上昇する姿を見て、ショックを受けたのはNextのメンバーも同じだろう。翌'98年の夏には“Too Close”がスマッシュヒットとなり、“I Still Love You”がそれに続いた。Nextのアルバム『Rated Next』の売り上げは100万枚を突破。あっという間に国中でその名を知られるようになり、Billboard Music Awardsでは7部門で賞を獲得することとなった。そして今、彼らにとって非常に重要な新作『Welcome To Nextacy』のリリースを前に、このミネソタ出身のヴォーカルトリオ(Tweetyと兄弟のT-Low、そして2人の親友のR.L.)は、さらなる飛躍に向けて準備万端の構えだ。所属レーベルの人間ですら、数年前には、彼らが果たして3ヶ月も生き延びられるかと危ぶんでいたというのに。 もともとはStaright4Wardと名乗っていた彼らが大きなチャンスを掴んだのは'95年、Mall Of AmericaでラップグループNaughty By Nature(以下NBN)に出会った時だった。ラッキーなことに、コンサートのために街へやってきたNBNは、既に地元のDJからStaright4Wardの名を耳にしていた。TweetyとT-LowとR.L.は、ここでデモテープをNBNのKay Geeに手渡す。このデモはプロデューサーにProf Tと(Perspective Records/A&M所属のLo-Keyから)Lance Alexanderを迎え、Jimmy Jam & Terry LewisのFlyte Tyme Studiosで録音されたもので、その内容に感心したKay Geeは、彼の新しいレーベルの最初の所属グループとして、彼らと契約を交わしたのだった。 『Rated Next』のリリースに伴い、彼らは様々なツアーに参加し、アメリカ中をプレイして回った。不断のツアーによって、グループとしての強固なバックボーンを得たことを、彼らは今、非常に感謝している。「俺達にとって初めてのツアーは“Butta Love”が出たばかりの頃でね」とNextの最年長メンバーでスポークスマンのT-Lowが振り返る。「コメディアンのChris Tuckerと一緒に回ったんだ。あれは凄い経験だったね。観客は俺達よりずっと年上で、俺達のことを知っている人も、期待している人もまるでいなかったんだから。ただChris Tuckerが見たいって人ばかりで……」 「その後、今度はUsherやMary J.Bligeと一緒にツアーに出たんだけど、これはあまりよくなかった。俺達が登場するのは一番最初で、誰も俺達に興味を示さなかったんだ。Usherは俺達に対して敵意を持っているようだったし、Mary J.Bligeにしても悪口を言うつもりはないけど、どうも俺達と仲良くしようって感じではなかった。あのツアーは凄くピリピリしてたよ。でも、その次のツアーは正反対でね。Boyz II MenとDestiny's Childと一緒のツアーだったんだけど、両方ともまるで家族みたいに仲良くなった。その頃になると、“Too Close”が売れ出していたんだ。最後に参加したツアーは「Budweiser Superfest」で、これはGerald LevertやO'Jays、Maseなどと一緒だったんだけど、まるで自分達のおばあちゃんに向かってやってるみたいだったよ! このツアーは俺達にとって学校みたいだった。若い観客相手にやるのと同じことをやっていては通用しないっていうのがわかったんで、パフォーマンスのやり方を変えて、歌うことに集中し、衣装ももっと派手にしたんだ。でも、あれはいい経験だったな。今はもうどんな観客相手にも歌うことができるからね。こんな話をしていたら、新しいアルバムを出して早くツアーに出たくなってきたよ。負け犬達が戻ってきたぜ!」 アルバム『Welcome To Nextacy』について、T-Lowはこう述べる。「基本的には、最初のアルバムの延長線上にあるんだ。2つのアルバムの間で、完全にレコーディングから離れるということはなかったから。ツアー中に少しでも暇があると、俺達はスタジオに戻っていたんだ」。延長線上にある作品、そうかもしれない。しかし『Welcome To Nextacy』は前作よりずっと優れた内容となっている。サンプリングが全く使われていないこの作品で、Nextは音楽の面でも歌詞の面でも成長したことを明確にした。Next自ら“4人目のメンバー”と呼ぶKay Geeが再びプロデュースを務めてはいるが、前作と違い、この2作目には、もっと保守的なR&Bアーティストですら避けてしまうような曲がフィーチャーされている。 「あれが現実なんだってば!」アルバムの中で最も問題となりそうな曲、“Jerk”について質問すると、T-LowとTweetyは声を揃えておどけてみせる。この曲はいわゆる……、あー、つまりその……マスターベーションについて歌われているものだ。「あの曲はね、本当に真剣につき合っているのなら、自分の彼女を裏切るような真似をするよりも、マスターベーションしたほうがましだって言ってるのさ。確かに問題になるかもしれないけど、本当のことだぜ」 同じように現実に即した内容を持つ曲が“Beauty Queen”だ。この曲で彼らは若い黒人層に対して、非常に重要なことを問いかけている。「この曲は黒人の女性達に『どうして自分を安売りするんだい? もっと凄い存在になれるのに』と言っているんだよ」真面目な顔でT-Lowは語る。「『なんで父親の違う子供が6人もいるんだい? なんでストリップなんかするの? なんでこんなことをするんだい? きみは女王様なのに』ってね」 中でも一番目立つ曲といえば“Underdogs”だろう。ほとんど軍歌ともいえそうなスタイルのヒップホップ/R&Bソングは、ダークホースから生まれたチャンピオンという、音楽業界ゲームにおけるNextの位置を示している。さらにこの曲は、R.L.がソロ活動のためにNextを離れるのではないか、という噂を打ち消す役割も果たしている。「言いたいことを言ってすっきりする、という類の曲だよ」とT-Lowが説明する。「R.L.はDeborah Coxのレコード(“We Can't Be Friends”)にも参加しているし、『Best Man』のサントラにも参加(“The Best Man I Can Be ”でGinuwineとTyreseと共演)しているんだけど、そうしたらみんなが俺達に、なんで解散したんだ、なんでR.L.はソロになったんだ、って訊くんだぜ」 「R.L.は未だにNextの一員だからね。俺達は1人ひとりがこのグループを代表しているんだ。この三角形は壊れっこないのさ」 |