トラブルとセンセーションを彩りに
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「不愉快な人々につきまとわれて困ってるバンドはそんなに多くないんだ。僕らもそれに関してムカつくってことはないし」と、UKのロックバンド、ChumbawambaのヴォーカリストであるDunstan Bruceは笑う。 「起こりうるサイアクの事態ってのはさ、僕らがアルバムをリリースして、それを聴いても誰も卒倒しないってこと」 いや、そんな心配はないだろう。'97年の驚異のスマッシュヒットアルバム『Tubthumper』に続く作品『WYSIWYG (What You See Is What You Get)』は、メインストリームをゾワッと毛羽立たせること請けあいの悪ノリもいっぱいだし、その一方で、キラキラと光弾ける曲も満載だ。 Partridge Familyばりの威勢のよさで上流階級を攻撃する「She's Got All The Friends」から、底意地の悪いジョークでCharlton Hestonをストレートに揶揄した「Moses With A Gun」、そしてまったり風味の「Ladies For Compassionate Lynching」(情け深いリンチを求める貴婦人たち)まで、Chumbawambaの痛烈で左翼ちっくなウィットは、これまで以上に冴えている。 しかしながら、ニューChumbawambaと言える曲の中でも、もっとも扇動的な曲は、実は『WYSIWYG』アルバムに収録されているものではないのだ。 ヨーロッパ盤のシングルB面曲である「Passenger List For Doomed Flight #1721」がそれ。Bonzo Dog Bandの「The Intro And The Outro」と同様の流儀で、彼らはビル・ゲイツやCourtney Love、ルパート・マードック、ビル・クリントン大統領、それにBonoといった名士たちの名前を唱え…つまり、“死刑執行フライト1721便の搭乗客リスト”という曲のタイトルどおり、彼らをみんな悲劇に遭遇させてしまったのだ! 「僕らのアメリカでのレコードレーベルであるUniversalが、その曲をアルバムに収録するのを望まなかったんだ。というのもさ、Edgar Bronfman(Universalの親会社Seagramのトップ)の友人が何人か、その搭乗客リストに挙がっちゃってたからね」とDunstan Bruce。 「ただの、ほとんどゴミ箱行きのアイディアだったんだよ。だけど、いやもう凄まじく怒っちゃった人たちもいてさ。特にU2のファンとか」 現在、ヴォーカルのDunstan Bruceの他は、Lou Watts(ヴォーカル、キーボード)、Jude Abbott(トランペット)、Harry Hamer(ドラム)、Neil Ferguson(ベース)、Danbert Nobacon(ヴォーカル)、Boff(ギター)、そしてAlice Nutter(ヴォーカル)というラインナップのChumbawamba。彼らにとって騒動を引き起こすことは、ぜんぜん物珍しいことでもなんでもない。 自称アナーキストたちは'80年代中頃に、かのチャリティイベント『Live Aid』をパロった作品、『Pictures Of Starving Children Sell Records』(=餓えた子供たちの写真がレコードを売る)でアルバムデビューを果たしている。その後は、トンがった政治色の強い歌を多種多様な音楽スタイルにのせて発表しながら、10年かそこらの間、比較的不遇の時代を送ってきた。 そんな状況がガラッと一変したのは'97年。 アルバム『Tubthumper』とヒットシングル「Tubthumping」がきっかけだった。特に足踏み鳴らしまくりの大騒ぎアンセムである「Tubthumping」は、労働者階級たちの憂さを、もう踊らずにはいられないダンスグルーヴで晴らしてやった。 アルバムセールスは最終的に500万枚を超え、Chumbawambaは、彼らの破壊的発想を支持するワールドワイドなファンを獲得した。 「成功がもたらした最もありがたいもののひとつは、僕らが何をやろうとプレスが騒いでくれること」とDunstan Bruceは言う。 「アジテーションとプロパガンダに邁進するバンドとしちゃあね、これは最高だよ」 そう、メディアに接触できさえすれば、波紋を呼び起こすのは確かに簡単だ。たとえばAlice Nutterが'98年の初めに『Politically Incorrect』というテレビ番組に出演し、自分たちのCDが家族経営の小さなショップで、ではなく、大手チェーンストアから万引きされているとほのめかした時は、もちろん大騒動に発展し、ヴァージンメガストアに至っては『Tubthumper』を本当に店の棚から引き上げてしまった。 このところChumbawambaは、商業的な意味での大躍進をさらにダメ押しすべく専念してきた。が、そのことに関してDunstan Bruceは、 「プレッシャーに感じてないか?…そんなこと尋ねられてばっかりさ。でも僕らは、次のリリース作品にキャリアアップを重ね合わせるようなバンドだったことは、一度だってないからね」と語る。 「僕らは常に楽しむために音楽を創ってきたし、言うべきことがあるから発言してきた。僕たちが感じた唯一のプレッシャーは、自分たち自身が成長できたかどうかってこと。だからこそ、前のアルバムの公式なんてものをなぞりたくはなかった。最初のデモテープがあまりに『Tubthumper』っぽかったんで、捨てちゃったぐらいさ」 果たして『WYSIWYG』は、22曲のキャッチーな歌とはじけるサウンド満載、しかもファンクからヒルビリーまで、とにかくクラクラするほどヴァラエティに富んだスタイルを取り入れた活気あふれるアルバムに仕上がった。 中にはThe Bee Geesの「New York Mining Disaster 1941」の湿っぽいカヴァー(!)なんてのもあり。ニッコリ笑って騒ぎを巻き起こしつつ、最先端のステージショウをオリジナルキャストで再現したアルバム、というところか。 Dunstan Bruceいわく、 「僕らはミュージックホールやキャバレーの音楽にも影響を受けてきたし、Frank ZappaやBonzo Dog Bandみたいなやり方でレコードを作りたいとずっと思っていた。リスクもあえて冒し、ゴッタ煮の音楽を創り、スタイルを次から次へ変えまくる、というふうにね」 レコードビジネスがいつもの気まぐれで、急にChumbawambaに冷たくなったら? そんなこと全く意に介していないとBruceは言う。 「もしレコード会社から契約を切られたとしたら…っていうか、そんな可能性はいつだってあるけど、とにかく僕らはシンプルに違う仕事を探すだけさ。他の何かに向かってまた突き進んでいくだけのことなんだ」 Jon_Young |