メロディだけが命じゃない
メロディだけが命じゃない |
Supergrass…そもそも既に並のバンド以上のユーモアのセンスを持ち合わせているバンド…のドラマーで、間違いなく最もコミカルなメンバーであるDanny Goffeyが、まるでズボンが少々キツ過ぎるとでもいうかのように声のピッチを上げている。 彼と2人のバンドメイトたちは、マンハッタンのミッドタウンにあるガラガラのバーの一番隅のボックス席に落ち着いたのだが、バックにかかっているR&Bの曲の音量があまりに大きく、会話がほとんど聞こえないのだ。 Dannyが身を乗り出して、一番近くにあったスピーカーからワイヤーを数本引き抜いたが、大した効果はなかった。というわけで、とっておきの歌姫ヴォイスで彼は提案した。 「ねえ、いいじゃん、みんなでこうやって喋ろうよ」 日本から飛行機でやって来たばかりの3人組は、故郷イギリスへと向かう前に、このNYで48時間足止めを食うことになっている。時差ボケだけなら我慢できるかも知れないが、彼らはこのほどアメリカでリリースされることになった新作『Supergrass』(文句なしに素晴らしい)について、あと丸2日間も質問責めに遭わなければならないのだ…完成させてから既に7ヵ月が経過し、アメリカ以外の世界各国ではもう散々プロモーションし尽くしたこのアルバムについて。デジャヴュを感じることはないのだろうか? Gazはそう言うが、その口調にはあまり説得力はない。 「みんな色んな質問をしてくるからね。でも確かに、しまいには全部一緒くたになっちゃうし、時には一体自分がどのアルバムの話をしてるのかさえ忘れちゃったりして」。 実のところSupergrassはもう既に次のアルバムの制作に取りかかっているのだ。だが、これから追いつこうというアメリカのリスナーのために、再び古いニュースをひもとくことになったのである。 「それとさ、『In It For The Money』は、かなりサウンドを重ねた、しっかり作り込まれたアルバムだったんだよ」と彼は言う。 「俺たち、そこから脱すると同時に、プロダクションとして強力って言うより曲単位で強力なものにしたかったんだ」 「例えば、元々あそこでティンパニを使うっていうアイディアはあったんだ。で、俺たち実際に自分らで近くのパブリックスクールまで車飛ばして、音楽科に入っていって、ケトルドラムを借りられないかって頼んだんだから。借り賃として10ポンド渡して、その日の午後じゅう借りてトラックを仕上げて、夕方にはまた車飛ばして返しに行ったわけさ」 「俺たちの使ってる楽器は、みんなその時、その場で借りてきたものだけど、どの楽器をどんな風に使うかっていうのは、ちゃんと俺たちには分かってるんだ。フルサイズのハープシコードを1週間ぐらい借りっぱなしだった時には、その週に録音したものにはことごとくハープシコードが入ってたよ」 「俺たち、スタジオに入る前に3ヵ月間デモ録りをやってたんだ」とGazが言う。 「『In It For The Money』の時は、スタジオに入ってから随分色んなところを変えちゃったけど」 そう言ってGazが微笑む。 「それが合図だね。こいつは何かマズいぞ、っていう」 「多分、口論が減ったね!」とMickが笑いながら言う。 「俺たちは元々がかなりタイトなバンドで、どっちにしろ大抵の場合はものの見方が似通ってるんだけど」 「もっとも俺、1回だけドラムのレッスンを受けたことあるよ」とDannyは認める。 「けどその先生ってのが俺に課題を出したんだよ、これを家でやっときなさい、ってさ。それで終わったね。それっきり行かなかった。けど俺は今じゃピアノも弾けるし、ちょびっとだけどギターだって弾けるんだぜ」 「部屋の正面に据えときゃ、それだけでカッコいいと思ってたんだろうな。けど、それが調律なんかまるでなってやしなくってさ。参ったよ」 Mickが思いついていじくり回していた「おっそろしく昔に作ったギターリフ」を土台にして、ある日ジャムセッションの末に曲が生まれた時、ギターを弾いていたのはMickで、ベースを手にしていたのはGazだった。スタジオではMickは楽器をダブルベースに持ち替え、前もって雇われていたストリングセクションと共に、それまでキーボードでプレイされていたパートを忠実になぞっていった。Gazはそこへさらにシロフォンを加え、トラックは6ヵ月近くもインストゥルメンタルのままだった。 実のところこの曲にヴォーカルが加えられたのは、もう本当に最終段階も押し詰まってからのことで、彼らはそのレコーディングを、Radioheadと共有しているオックスフォードの小さなプロジェクトスタジオで仕上げなければならなくなってしまったのだった。 「ただとりあえず、L.A.じゃなくニューヨークが拠点になったことに対しては、俺たちみんな凄く喜んでるよ」 「俺、Capitolにワクワクさせてもらったことなんてなかったんじゃないかな。あったとしても思い出せないよ。とにかくあそこの連中は俺たちのことなんて一度だって理解してなかった」 「ひとりでも名前挙げてみな」 「そのやり方は俺たちもう前にやったよ」とMickが無表情に言う。 「けど単純にそこまでやるのは割に合わないと思ったんだ。バンドが壊れちゃうもの。俺たちはそれよりバンドとして自分たちのペースでやりたいんだ」 「俺たちは自由でオープンな社会に暮らしてるんだからさ」とDannyが所見を述べる。 「別にゲイの親父(Gay Dad)がいたっていいんじゃん?」 さすが、自分たちの音楽について述べる間だけしかシリアスでいられないバンド、期待は外さない。 by Dev Sherlock |