【インタビュー】緑仙、3rdミニアルバムに無敵のバンドサウンドと無限の広がり「何でもできるマンを目指します」
バーチャルライバーグループにじさんじ所属の緑仙が11月13日、3rdミニアルバム『ゴチソウサマノススメ』をリリースする。前作『イタダキマスノススメ』と同じく“食”と“人生”をテーマにした本作には、満たされることのない感情を描いたパワーポップ「カルカリナ」、小説『わたしの幸せな結婚』の作者・顎木あくみの最新作『宵を待つ月の物語』(24年11月15日発売)1巻のテーマソングとして制作された「夜明けの詩(うた)」、亡き祖父への思いから生まれたアルバムリード曲「終着駅から」など6曲を収録。
◆緑仙(りゅーしぇん) 動画 / 画像
緑仙が全曲の作詞に関わり(「夜明けの詩」はRUCCAとの共作)、作曲・編曲は加藤冴人、eba(cadode)が担当。演奏陣には緑仙のバンドマスター奈良悠樹(G)をはじめ、cinema staffの三島想平(B)、ポルカドットスティングレイのウエムラユウキ(B)、シンガーソングライター白神真志朗(B)、有形ランペイジの岸田勇気(Key)、ヒトリエのゆーまお(Dr)、KEYTALKの八木優樹(Dr)などバンドシーンの精鋭が参加している。
11月には初のソロツアー<緑仙2nd LIVE TOUR「緑一色」>を開催、さらに年末には国内最大の年越しフェス<COUNTDOWN JAPAN 24/25>への出演も決定。アーティストとして確実にステップアップを続ける緑仙に、本作『ゴチソウサマノススメ』についてじっくり語ってもらった。
◆ ◆ ◆
■生きるって何だろう?ってちょっと重い
■だったら“食”かなって
──3rd EP『ゴチソウサマノススメ』、素晴らしいです。緑仙さんの作詞と歌唱、バンドサウンドを含め、アーティスト性がさらに強く表れた作品だなと。
緑仙:うれしいです。前回に続いてバンドサウンドをメインにした作品を作ることができて。数年前の自分に言ったら、めちゃくちゃビックリすると思います。
──前作『イタダキマスノススメ』とのつながりもあって。最初から二つの作品をリンクさせるという構想だったんですか?
緑仙:はい。大きいテーマとして“食”と“人生”というものがあって。アートワークについても、前作『イタダキマスノススメ』の初回盤と通常盤、今作『ゴチソウサマノススメ』の初回盤と通常盤を繋げると1枚の大きなイラストになるんですよ。前作のときも“やっと出せる”と思ってたんですけど、今回が本当の“やっと出せる”ですね(笑)。
──そもそも“食” “人生”をテーマに掲げたのはどうしてなんですか?
緑仙:前作のリード曲は「独善食」だったんですけど、ごはんを食べるって、いろんなパターンがあるよねという曲だったんですよ。好き嫌いもあるし、宅配を良しとするかどうか、コンビニのごはんを良しとするかどうかとか、人によっていろいろあって。
──はい。
緑仙:自分のことでいうと、最近、普段は使わない駅でわざわざ降りて、パン屋さんでパンを買って、朝ごはんにしたり。きれいなお皿に乗せて、レンジでチンするタイプのコーンスープを用意して、猫が2匹いって…って、そこだけ切り取ると幸せそうじゃないですか。でも、まだ満たされない気持ちが残ってるんです。むしろ“一人”が浮き彫りになったりするんですけど、それも食を通じて気付けることだなと。
──なるほど。
緑仙:人生も一緒で、いろんな生き方や選択肢があるなかで、どうしても人がうらやましくなったり、自分が恵まれていることに気づけないこともある。そういうことを曲にしてみようと思ったんですよね。“生きるって何だろう?”っていうとちょっと重くなりそうだし、もともと自分は何かに例えて軽くするのが好きなので、だったら“食”かなって。
──確かに“何を食べるか”って、その人の性格や人生観が反映されますよね。疲れてると、何を食べたらいいかわかんなくなったり。
緑仙:そう考えると、給食ってよかったですよね。“決まってる”って不自由さもあるけど、それはそれで一つの幸せなのかもなって、今になって思うというか。
──そもそも何かを決めること自体がストレスですからね。オバマ前大統領も、決断疲れを防ぐためにいつも同じスーツを着てたし。
緑仙:スティーヴ・ジョブズもそうですよね。自分もちょっとミニマリスト志向があって、普段着はほとんど黒なんですよ。どう組み合わせてもそれっぽく見えるし、ほぼ全身黒です(笑)。EPの話に戻ると、前作『イタダキマスノススメ』は自分の経験談とか、思っていることを素直に発信した曲が多かったんです。今回はそれだけじゃなくて、想像だったり、“こうなりたい”という願望、自分以外の人の思考も入っていて。そのぶん、ちょっとは広がりが出てるんじゃないかなと思ってます。
──確かに。EP『ゴチソウサマノススメ』の1曲目「カルカリナ」は、ミディアムテンポのパワーポップ。“カルカリナ”は“星の砂”のことだとか。
緑仙:そうです。この曲の歌詞は自分が経験したエピソードから引っ張っていて。子供の頃、友だちからお土産に星の砂をもらったことがあるんですけど、“こんな素敵なものがあるんだ!?”と思ったと同時に、それを知らなかった自分にすごくショックを受けたんですよ。“こんなものが砂浜にあったら、歩くとき痛いじゃん”と思ったり(笑)、どうやって小瓶に入れたのか、それが売ってるものかどうかもわからなくて。そもそも僕の家って、おじいちゃんおばあちゃん家にいくのが大旅行で、沖縄とか北海道に行ったことがなかったんですよ。それも子供の頃の自分にとってはコンプレックスでしたし。
──友だちはいろんなところに旅行してるけど、自分はそんな経験がない、と。
緑仙:そうです。でも、そのうちに“星の砂って有孔虫の死骸”ってことがわかって。“なんだ、そんなものだったのか”と思ってしまう自分もちょっとイヤだったんですよね。そういうモヤモヤした感情を言語化できるようになって、歌詞にしてみようと思って。幼少期に感じていた劣等感を昇華して、曲として表現したというのかな。そういう意味では、自分の成長を一番感じられた楽曲かもしれないです。サウンドもすごく綺麗なんですよ。加藤冴人さんのおかげで、それこそ星の砂みたいなキラキラした世界観の曲になったのもうれしかったです。
──2曲目の「夜明けの詩」は、小説『わたしの幸せな結婚』で知られる顎木あくみさんの最新作『宵を待つ月の物語』1巻のテーマソングとして制作された楽曲。
緑仙:小説を読んでから楽曲を制作するという経験も初めてで。今回のEPはチャレンジが多いんですけど、そのなかでも一番のチャレンジだったかもしれないです。
──『宵を待つ月の物語』は、高校生の女の子が、魔を退治する一族と関りを持つところから物語が始まりますが、緑仙さんはどんな印象を持ったんですか?
緑仙:最初は恋愛モノなのかなと思っていたんですが、それだけじゃなくて、人と人のつながりのなかで生まれる感情の一つが恋愛という捉え方なのかなと。何かの目的のために人と関わろうとすることってあるじゃないですか。たとえば“子供が欲しいから結婚する” “そのために相手を探して、恋愛したい”とか。この小説はそうではなくて、新しい出会いによって世界が広がったり、自分がもっと良くなっていく感覚を描いているような 気がして。
──なるほど。
緑仙:それを歌詞に落とし込みたいと思ったんですけど、主人公になり切って制作するのがすごく難しかったんです。歌詞を共作したRUCCAさんとコミュニケーションを取りながら進めたんですが、“なるほど、こういう言葉にするのか”とすごく勉強になりました。一人で歌詞を書くときは、まずプロットやラフをバーッと書くんですけど、それもRUCCAさんと共有してたんですよ。そこでしっかり汲み取っていただいて、それこそ自分が思っていた世界を広げてもらった感じがあって。それは小説の主人公と同じような経験だったのかもしれないです。自分一人ではここまで言語化できなかったと思うし、共作という形を取ることで素敵な曲になりましたね。
──ボーカルの表現も深みを増していて。
緑仙:ありがとうございます。もともと自分はいろんな音楽が好きで、アニソンも聴けば歌謡曲も聴くし、ボーカロイドもロックもヒップホップ好きというタイプなんです。歌唱で影響を受けた音楽もたくさんあるんだけど、前作、今作でバンドサウンドを体験したことで、自分のなかでまだ出してなかった引き出しに気づいたところがあって。「夜明けの詩」もこれまでの歌い方とはかなり違うと思います。セリフも入ってますからね。
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