【インタビュー】a flood of circle、削ぎ落として剥き出しな愛と葛藤のアルバム完成「もっとやらかしたい。不安定なほうにいきたい」

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■結構な発明だと思ってるんです
■借りてないものでやりたい


──ポジティヴとネガティヴの両方を隠さずに走ってる印象があって。ツアー<CANDLE SONGS -日比谷野外大音楽堂への道->では、ライブはかなりアグレッシヴなのに、MCが「俺なんかさ~」っていうぼやきモードでしたよね。

佐々木:そうでしたね(笑)。リアルにそう思ってたし、そういう曲を作ってたから、ライブでもそうなってたのかもしれない。言葉ではどうしてもポジティヴになれないけど、曲のパワーと一緒に、ネガティヴなことも大きい声で言うとだんだんポジティヴに聞こえてくるみたいなやり方になってるのかな。

──そういうモードで歌うからこそ「月夜の道を俺が行く」や「本気で生きているのなら」がよけいに刺さって。前作『花降る空に不滅の歌を』はご自身のことを歌ったアルバムでしたけど、あのアルバムに込めたものが改めて自分に返ってくるような部分もありましたか?

佐々木:ツアー中は特にそうでしたね。『花降る空に不滅の歌を』は……それまでメンバーチェンジとか内側の問題が多くて外に対して強がるしかなかったんです。だけど、テツが入って固まってきて、初めて自分のことを考える余裕が生まれて出来たアルバムなんです。その流れで、どんどん自意識と向き合って、カッコよく言えば自分の哲学的なことを歌ってた。そこから“武道館”っていうナベちゃんが出してくれた宿題とか、野音のライブが、自分をもう一度外に向かわせてくれた気がします。


──ニューアルバム『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』には、一人で戦っている部分と、バンドに守られている佐々木さんの両方が入っていることを感じました。

佐々木:そうですね。守られているなと思うし、どんどん甘えてます。ステージにフロアモニターを置かないとかも、歌が不安定になるリスクはあるけど、俺のやりたいことをキャッチして、みんなが「やってみれば」って言ってくれる。だから、俺が自分を曝け出すためにはこのバンドが必要だってことが逆説的にわかってきました。壊れすぎてる時は、姐さん(HISAYO / B)に「どういうつもりなん?」って怒られますけどね(笑)。

──ははは。その絆と、「虫けらの詩」にある“また一人 俺を離れてく”という喪失感が共存しているというか。ただ仲間という幸せを歌っているわけじゃない。

佐々木:たしかに、仲間って感覚ではないし、歌詞で“仲間”っていう言葉を使ったことはないかもしれない。パッと言語化できない感覚だけど……最初はロックミュージックって、俺のなかで潔癖なものだった気がするんですよ。みんなが自分の哲学を持っていて、バンドはいろんな潔癖症の塊で。それが行き過ぎて27歳で自殺しちゃうみたいなことだと思うんです。その潔癖と、歳を取ることはすっごく相性が悪いんですよね。どうしてもいろんな矛盾を認めざるを得なくなる側面がある。だから、その矛盾してること自体を自分で理解して、ごまかさず「矛盾してます」って言うことなんじゃないですか? メンバーとの関係が弱みになっちゃってるところと、同時にそれが進む力になっているっていう矛盾した状態だけど、38歳までバンドをやっててそうなんだったら、それを歌うべきでしょって。

──その矛盾も武器になると。

佐々木:そのうえで、もう何段階か突き抜けていくためには、積み重ねるっていう方法では無理な気がして。“もっとやらかしたい。不安定なほうにいきたい”っていう気持ちになってます。アルバムもいつもどおりのスタジオで録るんじゃなくて、もっと環境の悪いところで作りたかったから、山に行ったんです(笑)。


──「虫けらの詩」のミュージックビデオにも映っているところですよね。福島県の山小屋だそうですが、そこで録ったのは、高野勲(キーボーディスト/ギタリスト/プロデューサー)さんが関わっている曲ですか?

佐々木:そうです。勲さんは、音楽面はもちろん人間性的にもすごく優しくて、上手く取り持ってくれて。最初に「山でやりたい」って言った時は、「え?」って言われましたけど(笑)。もっとシンプルにしたいという方向性を理解して、「もうイントロをなしにしちゃってもいいんじゃないか」って言ってくれたり。逆に、シンプルすぎてつまらない曲になっちゃいそうなところも上手く導いてくれました。

──山だからって、ただただ楽しいテンションになってしまったら狙いと違いますもんね。

佐々木:それを一番危惧してて。「山」ってアイデアを出した時に、「沖縄のスタジオとかどう?」って話も出たんですけど、「求めてるのはチルじゃないんですよ」って(笑)。イライラしてここに逃げてきたっていうことをやりたかったので、チルにならないように気をつけましたね。でも、それこそライブでグチグチ言うくらいには閉塞的な状況だったので、開放感は求めてて。みんなで一緒に過ごすなかで、何かを生み出す喜びにピュアに触れられる環境にしたいとは思ってました。

──結果、むしろソリッドな印象の楽曲が生まれていて、「ひとさらい」は50秒で終わるという。

佐々木:「ひとさらい」は、山でゼロから生まれた曲がほしいなと思って作った曲です。もしかしたらTikTok的な意味で言ってたかもしれないんですけど、「40秒くらいの曲作ってみたら?」と言われて、その場でパッと作って録っちゃいました。


──「 D E K O T O R A」もそうですが、ここまでガレージな音像とか、リフ1本で押す曲は意外と新鮮でした。「D E K O T O R A」はベースのイントロからインパクトがあって。

佐々木:姐さんのべース、いいですよね。ライブでも、ベースで始まる曲はそれだけでキャッチーになる印象がある。この曲は最初、ギターのイントロをつけてたんですけど、どんどん減らしていったら“ベースだけでよくね?”となってこういう形になりました。

──環境や音像だけじゃなく、アレンジも削ぎ落としてシンプルにするという方向性だったんですか?

佐々木:そうです。“本当に剥き出しになっても君たちは面白いんですか?”っていう試験を自分たちに課したというか。「虫けらの詩」も、俺は最初から最後まで同じギターのコードをずっと押さえてるんですよ。それでもちゃんとドラマチックになるようにメンバーのフレーズを考えてて。

──佐々木さんのギターだけワンコードでステイして、他の弦楽器隊はコード進行していく?

佐々木:結構な発明だと思ってるんですけど、そうやって引き算しまくった挙げ句、誰もやってないロックミュージック、アートフォームみたいなところまでいけたらいいなって。それが評価されるかどうかは別として、絶対俺しかやってないことを持っているのは重要だと思うんです。たとえばラウドロック風とか、ハイパーポップ風とか、何かを足すほうがラクだけど、それは借りてきてるだけになっちゃうから。借りてないものでやりたい。


──なるほど。山でのレコーディングで、これだけのものが4人で作れるんだっていう手応えは感じられたんですか?

佐々木:そんな確信めいた感じではなかったかも。“やってみたけど、どうなんだろう?”って思いながら帰ってきて、野音でまた意識が大きく変わって。そのあと、後半の「ファスター」「ベイビーブルーの星を探して」「屋根の上のハレルヤ」の3曲を東京でレコーディングして、今回のアルバムでやるべきことが固まったかな。

──「野音で意識が変わった」というと、そこでちょっと確信が持てたとか?

佐々木:いや、“こんなにやってきたつもりだったけど、こんなにまだ不確かなんだ”と思った。満足とか、何かを達成したっていうポイントはほぼなかったです。だから、もっと速度を上げていかないといけないと思ったし、引き算して曲を作る方向も、もっとやれることがあるなって、ライブやりながら思ってました。もちろん、チケットが売り切れたのはひとつ自信になりましたけどね。有り難いことに、マンガ『ふつうの軽音部』に「理由なき反抗 (The Rebel Age)」を使われたことによる追い風もあって。

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