【インタビュー】a flood of circle、削ぎ落として剥き出しな愛と葛藤のアルバム完成「もっとやらかしたい。不安定なほうにいきたい」
猛暑真っ只中の8月12日、a flood of circleのデビュー15周年記念公演<LIVE AT 日比谷野外大音楽堂>は、立見も含めた完全ソールドアウト、3時間超え全32曲の熱演で幕を下ろした。そのステージでリリースを発表しつつ「まだ出来ていない」と語っていたニューアルバム『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』の完成だ。
◆a flood of circle 動画 / 画像
これまで以上にソリッドなロックが詰まったアルバムには、山小屋でメンバーと向き合って生まれた楽曲や、野音でオーディエンスと向き合って生まれた楽曲など、外に目を向けた佐々木亮介の葛藤と愛情が満ちている。前作『花降る空に不滅の歌を』で“気づけば結局 佐々木亮介” (「月夜の道を俺が行く」)と自らをぶった切っていた佐々木は、どんな道のりを経て今作を作り上げ、どんな想いで“武道館”という目標を見据えているのか。どんどん“剥き出し”になっている心境を、じっくり語ってもらった。
◆ ◆ ◆
■「俺は君たちが好きだ」って
■4人で集まって愛の告白から始めました
──まずは、10年ぶりの野音の感想からお伺いできればと思います。3時間におよぶ大ボリュームのライブでしたが、振り返っていかがでしたか。
佐々木:10年前の野音ライブには悔しい気持ちもあって。さらにそのあと、事務所が崩壊して独立したり、メンバーチェンジを繰り返したり、なかなかうまくいかない時期に突入したんですよね。だから、個人的な野音へのリベンジと、もう一回バンドを作り直した10年間を振り返るようなエモさもありました。あと……野音に向かっていく流れの途中で、ドラムのナベちゃん(渡邊一丘)と10年ぶりくらいに2人で飲みに行った時、「このままだとバンドを続けられない」みたいな話をナベちゃんからされたんですね。
──脱退を視野に入れた発言ですか?
佐々木:そういう訳ではないんですけど……俺は体が動く限りバンドを続けたいし、今のメンバーでやりたいから、“これはどうにかしないと!”という想いで、楽曲「ゴールド・ディガーズ」(2023年9月発表)で“武道館 取んだ3年後”って宣言したんですよ。そういうことがあっての野音だったから、とにかく先へ行くために最高の形で成功させないと意味がなかった。
──たしかに、今できることを全部出し切るんだっていう気迫を感じました。ステージセットもほとんどなく、照明も最低限で、バンドだけで見せるスタイルも潔くて。
佐々木:そうですね。今はどんどん削ぎ落とすモードになってます。最近、自分がロックバンドに感動してるポイントって、音楽的な成長とはあんまり関係ないなと思って。現代的にアップデートしていくのはむしろ逆で、ティーンエイジャーの時にグサっときたようなことが一番大事なことなんじゃないかって。だから、今は曲を作る時もどんどんシンプルになってるし、言葉も“これ歌詞って呼んでいいのか?”ってくらい剥き出しにしていこうと思ってる。それがライブにも繋がっていて。…誰も気づいてないと思うけど、ヴォーカルのフロアモニターも置いてないんですよ、俺。
▲<a flood of circleデビュー15周年記念公演 “LIVE AT 日比谷野外大音楽堂”>2024年8月12日(月/祝)@東京・日比谷公園野外大音楽堂
──え! ライブのステージ上で演者がバンドサウンドを正確に捉えたり、自分の声を返してもらうためのスピーカーですよね。
佐々木:そう。それに足元のギターエフェクターとかボリュームペダルも全部なくすっていう、みんなにあまり伝わらないボケをかましてます(笑)。“モニターって、東京ドームとかでやってる人のためのものじゃね?”って感覚があって。武道館まではモニターなしでいけると信じてる。
──むしろ中音を排除してイヤモニだけでステージ環境を作るバンドが増えてる時代ですけど。
佐々木:俺のなかで、イヤモニはつけてるだけでちょっと減点です(笑)。“ああ、音源どおりにやりたい人ね”ってことで。
──厳しい(笑)。
佐々木:入場時のSEもなしにしたんです。SEがあってちゃんとモニターを聴いて…って誰かがやってるフォーマットを真似してるだけだなって思ったんですよ。この先、フラッドらしく成功するってどういうことなのかを考えたら、研ぎ澄すことじゃないかなと思って。逆に言えば、研ぎ澄ました時に面白い音楽とか言葉、人間性が出てこなかったら、もう俺たちには勝負するものがない。38歳まで死にもせず、止まりもせず、生き延びちゃったからこそ俺たちだけは、もう一回ロックミュージックの何が一番ドキドキするのか、それを俺たちなりのやり方で挑戦しないといけないんじゃないかって。そう考えた時に、すべてを削ぎ落とす方向にいきました。
──そのスタンスがa flood of circleのライブとしてちゃんと形になっていたと思います。
佐々木:そうなってるといいですけどね。悪あがきを見せてる感じです(笑)。
──野音で新曲として披露されたのが「虫けらの詩」で。会場で聴いた時はエネルギッシュで前向きなロックに聴こえたんですが、改めて聴くと、野音の前にいろいろ危機があったんだろうなということが伝わってくる歌詞になっています。
佐々木:そうですね。さっき言ったナベちゃんの話と、そのあとにもいろいろあったんですよ。まあ、大変をアピールするのも恥ずかしいんですけど……3月頃に自分がやってる事務所のスタッフが辞めるという話になって。どうしようと悩んでたら、10年以上一緒にやってきたレコード会社のディレクターも辞めるって話を聞いて、「マジで!?」っていう状態になったんです。
──そういうことが重なったんですね。
佐々木:ただでさえ、ナベちゃんとの話とか去年テツ(アオキテツ / G)が入院しちゃったことでバンド内が不安定だったから、ここで体制が崩壊するのは本当に危ないと思って、メンバー4人で集まって話したんです。まずは「この4人ありきで、俺はメンバーが好きだからやってる」ということを伝えないといけないと思って、「俺は君たちが好きだ」って愛の告白から始めました。環境よりもまずは4人なんだという気持ちを共有したことでグッと距離が近くなって……今思えば、追い詰められたおかげで4人が向き合えたので良かった面もありましたね。
──度重なるメンバーチェンジや事務所の独立を経て、2016年にテツさんが加入してようやく落ち着いたと思ったところに、そんな事態が。
佐々木:俺もそう思ってました(笑)。バンドがやっと固まったと思ってたけど、やっぱり目に見えないものを俺が作ってたんだなって実感しました。でも、ここがおじさんになったなと思うところなんですけど、“あ、曲のネタができたじゃん”って。
──さすが(笑)。
佐々木:経験上、曲を書くという行為はネガティヴじゃないって知ってるから。発端はネガティヴな気持ちだったとしても、それを伝えようという感情自体は超ポジティヴじゃないですか。だから、「虫けらの詩」を書いてる時も、変に希望の歌にしようとは思わなかった。
──冒頭から“こんな日がどうせ来るってわかってた また一人 俺を離れてく”と。
佐々木:そう。結局自分の問題だから、俺には本当に人を幸せにする才能がないなって思ったんですよ。卑屈になってるんじゃなく、普通にそう思ったし、それでもまだやるんだっていう想いのほうが強くて。どうしてそれを歌うのかって…それしか歌うことがないのもあるんだけど、野音に集まった人たちもそうなんじゃないかなと思ったんですよね。人生イケイケでうまくいってたら、a flood of circleを聴かないでしょ(笑)。“人生こんなもんか”ってわかってきちゃった人に、“まだ行こうとしてるやつがいる”ってことを伝えたい。
──“俺の生き方はこれだけ”という叫びにすべてが詰まってる気がします。
佐々木:だから、意外と俺は元気なんですよ。悩んでても曲は書けてるし、バンドを組めてるんだから、14歳の時に描いた幸せは手に入れてる。だから、欲張りなんでしょうね。まだ生き延びようとして……終わらせる勇気がないんですよ。
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