【インタビュー】BAND-MAID、壮大な物語を描く最新アルバム『Epic Narratives』発売「過去イチを塗り替えている自信がある」

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こんな仕事に就いていながらお恥ずかしい話だが、素晴らしい作品と遭遇した時、語彙力が突然失われてしまうことがある。言葉が出てこないわけではないのだが、あれこれ言葉を足してみても、まだまだ言い尽くせないような無力感をおぼえてしまうのだ。そんな時には、感嘆の言葉をいくつも並べ立てるのではなく、愚直に一言だけ「すごい!」とか「好きだ!」と言ったほうが、こちらの本心が伝わるものなのかもしれない。

◆撮り下ろし写真

BAND-MAIDの新作アルバム、『Epic Narratives』がとにかく素晴らしい。長い制作期間を費やしながら完成に至ったこの作品には全14曲が収録されており、いわば14編の短編小説がひとつの壮大な物語を紡ぎあげているかのようなたたずまいをしている。今回は、メンバー全員による言葉をお届けするが、名盤を完成させた直後の5人の達成感と高揚感が、きっと発言の端々からも伝わるはずだと僕は信じている。

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◾︎従来の作品では見えなかった部分が赤裸々に見えてくる

──アルバム完成直後のインタビューというのは少しばかり緊張するものですね。ここ最近の取材時は「10年分の経験」とか「メリハリ」といった言葉を耳にする機会が多々ありましたが、『Epic Narratives』はそうしたものが随所から感じられる作品になっていると感じていますし、まだ何周かしか聴けていないんですが、どんどん深みに嵌まっていきそうな気がしています。皆さんとしては、このアルバムがまだ世に出ていない現時点での感触として、どのような手応えを感じていますか?

AKANE(Dr):今回、激しい曲ばかりではなく、しかも1曲の中にいろいろな展開が盛り込まれているものが多くなっているんですね。今までも激しさの中に展開を盛り込んだ曲は結構あったと思うんですが、途中で雰囲気がガラッと変わったりする曲があったり、アルバム全体を通じても、これまでにはなかった新鮮さを自分でも感じています。

──従来の楽曲には、誤解を恐れずに言うと“忙しい感じの展開”が目立つ傾向がありました。確かに今作では、展開のあり方自体に変化がありますよね。

MISA(B):はい。それは私も感じていて、しかも今回はこれまで以上に、さらに大人っぽいアルバムになっているなと感じています。アダルティな感じというわけじゃないんですけど(笑)、自分たちの成長を実感できているからこそ、そう感じるんだろうなと思っています。

SAIKI(Vo):アダルティではないですけど、ヤングな感じでもないですね(笑)。もちろん今までのアルバムも大好きなんですけど、自分にとっての過去イチを今回は塗り替えている自信があります。何故そこまで言えるのかというと、やっぱり制作期間の長さというのが理由のひとつになっていて。前作から3年半空いているわけですけど、読者の皆さんもご存知のように私たちは常に制作をしているので、その3年半がここにギュッと詰まっているんです。しかもそれは、普通の3年半ではなかったじゃないですか。コロナ禍からの復活もあり、そこから新たなものを見せていくためのヴィジョンを築いていくための月日でもあり。気持ち的にもカロリー的にも1曲1曲に込められているものが高いし、それぞれレコーディングした時期も違っているので、年々進化を遂げてきた私たちの進化がそこに出ていると思うんです。私の場合だったら声の響きの違い、みんなの場合は音の違いやフレーズを作るセンスなども変わってきているはずで、そうしたところが今までのアルバム以上に見えてくるものになっていると思います。従来の作品では見えなかった部分が赤裸々に見えてくると言いますか。これはいいアルバムだよな、と自分でも思っています。


──アダルティとか赤裸々とか、刺激的なワードが続出していますけど(笑)、やはりちょっと特殊な時期でもあったこの3年半を経てきたことによる違いというのがありそうですね。それは曲作りの段階からあったはずですし。

KANAMI(G):そうですね。実は先日、「この曲はいつ作っていたんだろう?」と思うことがあって、パソコンの中にある作曲のデータを確認していたんですけど、2021年の時点ですでにこのアルバムに向けて作り始めていたことがわかったんです。そこで改めて、『Unleash』(2022年)の発売よりも前から作っていたんだな、と気付かされて。今はもう2024年も後半じゃないですか。だから「そんなに前から作っていたアルバムだったんだな」と自分でも思ってしまいました。作曲においては、年や時期によって使っているアンプやサンプリングの音源も違うので、曲ごとにガラッと印象が違っていたり、「ああ、この曲のギターは他の曲たちと違って重い音だな」とか、そういった形でこの3年半ぶんの変化がわかるものになっているんです。自分の機材の違いや作曲段階でのテンション感の違いも随所から感じられるものになっているんですよね。これはもちろん、作ってきた本人だからこそ感じることかもしれないんですが。

──当事者にしかわからない部分というのも当然あるはずですよね。ただ、いわば随所からこの3年半の記憶が蘇ってくるような、どこかドキュメンタリー的なところのある作品でもあるわけですね?

KANAMI:はい。私の中ではまさにドキュメンタリーで、曲を聴くとその時々の気持ちまで思い出されるんです。「この曲は当時こんな気持ちだったから作ったんだな」とか、そういったものが各曲にあって、1曲1曲にエモいものが含まれているなって感じているんです。

小鳩ミク(G, Vo):本当にそうですっぽね。とてもバラエティに富んだアルバムになっていますし、制作期間も今まででいちばん長くなったので、そういう意味でも私たちの歴史を表しているかのような、この3年半の歩みや海外でのお給仕(ライブ)といった活動の流れが見えてくるものになっていると思いますっぽ。

──海外アーティストとのコラボレーションも含め「あの時、あんなことが起きていなければ、こんなふうにはならなかった」みたいなことがたくさん含まれたアルバムでもありますしね。

小鳩ミク:そうですっぽね。本当に、人との出会いがこの3年半にあったからこそできた楽曲があったり、久々に海外ツアーができたからこそ生まれた曲があったり。そういったいろいろな思い出が1曲1曲に伴っているんですっぽ。しかもツアーだけではなく、日々の生活の思い出もすごく詰まっているなあと感じるんですっぽ。


──『Unseen World』が2021年1月、『Unleash』が2022年9月にリリースされています。『Unleash』はEPという名目でありながらフル・アルバムに近い収録量ではありましたけど、ある意味、『Unseen World』と今作を繋ぐ中継地点のような役割を果たしていたのではないかと思えます。

SAIKI:そうですね。『Unleash』についてはアルバムだとは思っていなくて、あれは私たちにとってはあくまでEPなんです。アルバムだったら多分もう少し静かめな曲が入ってきたり、アルバムならではのストーリーをつけたくなるところなんですけど、あの作品については敢えて激しいものばかり詰め込んでいて。あの当時、ホントに鬱憤が溜まっていて、それを解放したい気持ちが強かったので、その想いを『Unleash』に凝縮した感じでしたね。

──途中にそうした段階を経ていたからこそこの地点に到達できた、という部分があるわけですね。そして今作の『Epic Narratives』という象徴的なタイトルについてなんですが、これは直訳すると「壮大な物語」というか、わかりやすい単語に置き換えると「超ドラマティック・ストーリー」みたいな感じになってくると思うんですが、このアルバムを作ってきた過程自体を物語として捉えているようでもあります。同時にアートワークをよく見てみるこれまでのシングルなどとも関連性があって、1個1個の物語が繋がりながら大きなものになっているという印象があるんですが、このタイトル自体はどんな発想から出てきたものなんでしょうか?

SAIKI:そのワードを探してきたのは小鳩で、コンセプト的なものは私から提案させてもらいました。この流れは、実は『Unleash』当時から続いていて、あのEPのジャケットでは海と崩れてしまった建物が描かれていますけど、そこからまた這い上がりながら自分たちの世界を作り上げていくという物語を発想したところから始まっているんです。その過程の中で意識も変わってきて、さっき小鳩も言っていたようにいろいろな方との出会いもあって、私たち自身の価値観にも本当にいろいろな変化があったんですね。音に対する視線、伝えることの大切さについての考え方も変わってきましたし。それこそ今となっては『Unseen World』以前の自分たちについて恥ずかしく思えるようなところがみんなにあって。ある意味、クールぶっていたというか(笑)。

──ほお、興味深い発言ですね。

SAIKI:なにかもう1枚、自分の前にヴェールみたいなものがあったかのような感じでしたね、今にして思えば。そういう感じが以前はあったと思うんです。歌詞についても、私は小鳩に対して「それはちょっと歌いたくない」「それはちょっと恥ずかしいよ」みたいなことを言っていたりもしましたし。もちろん時期を見ていたところもあったとは思うんですけど、それに対して今回の『Epic Narratives』にはそういうわだかまりみたいなものがなくて、まっすぐに音楽に向かえている気がするんです。自分たちはこうなんだ、と強く発信できているところもあります。去年、10周年を迎えて、その重みをメンバーみんなとも共有できたし、個人的にも感じるところがとてもあったので……やっぱり10年という長さになると、物語っぽくなってくるじゃないですか。そこで物語を語るような感じになってもいいのかな、と思えたので、その感覚に見合ったタイトルにしたいなと考えたんです。でも、storyという言葉だとちょっと違う気がしたので、それは小鳩にも伝えていて。なんだかstoryという言葉では足りないように思えたんです。

小鳩ミク:ひとつの話という短絡的なものではなくて、いろいろな感情、いろいろな気持ちが集まったものが形になった、という意味合いを持たせたかったんですっぽ。そんな時に「語り手」という言い方をしたらどうかなと思ったんですっぽね。しかもそれが自分ひとりじゃなく、いろんな人が語っている物語のようなイメージで言葉を探していって……。

SAIKI:それを何日もかけて探してもらって、まずnarrativesという言葉がいいねという話になって……。epicという言葉についても、すごく悩んだよね?

小鳩ミク:悩んだっぽ。epicには「壮大な」という意味もあるんですけどっぽ、その言葉だけで「叙事詩」という強い意味合いもあるので、意味的にstoryを含んでしまっているわけなんですっぽ。音の響きもいいし、この言葉がいいんじゃないかと思いながらも、他にもいろいろと候補を探していきながら「さあ、どれにしようか?」と、さまざまなパターンで言葉を組み合わせてみていたんですっぽ。

SAIKI:そして最終的に、ここに落ち着いたんです。「これだな」と思えてしっくりきたところがあったので。自分たちが語り手ではあるんですけど、BAND-MAIDを見ていてくださる方々にも今後語っていって欲しいと思えるところがあって、そういう気持ちも込めて『Epic Narratives』に決めたんです。

──つまり一方通行のストーリーではないということですよね? 歌詞の端々にもそういたことを思わせる表現が見受けられるように思います。

小鳩ミク:そうですっぽね。そして、このアートワークはSAIKIが提案してくれたもので、1曲1曲がひとつの街を構成する要素になっていて、そこにいろいろな人が住んでいる、というようなものになっているんですけどっぽ、そういうところともこのタイトルはリンクしているんですっぽ。

SAIKI:1曲1曲にそれぞれの物語が絶対あるじゃないですか。KANAMIが作曲している曲の最初のイメージも大切にしつつ、そこに乗せたい歌詞でストーリーを作っていっているところがあるので、ひとつひとつが大きな街を作っているというか、テーマパークのようになっているというか……ある意味、自分たちの世界における県庁所在地みたいな。(笑)そんなひとつひとつの街が、さらに大きな都市の中にあるというか、そんなイメージなんです。だからこのジャケットを見てみると、いろいろなトピックに分かれているんです。よく見てもらえると、きっとわかります(笑)。


──まずはあの象徴的な塔が目に入りますよね。横浜アリーナでの10周年記念お給仕の模様を収めた映像作品のジャケットにもあの塔は描かれていましたけど、僕は当初、あの塔がどんどん高くなっていって、その中にすべてがあるという意味なのかなと思っていたんです。いわゆるバベルの塔みたいなイメージで。ところが実はそうじゃなくて、その塔を中心にさまざまなものがあって、世界をどんどん広げていっているわけなんですね?

SAIKI:そうですね。たとえば風景の中に燃えているところがありますけど、あそこは「Shambles」なんです(笑)。

小鳩ミク:「Shambles」の崖とかも思い浮かぶところがありますっぽ。

SAIKI:そんな感じで今までのさまざまなジャケットと関連性があるんです。「Protect You」の世界にメンバーが入っていく入口の部分があったりもしますし。

──こんな話を聞いているとCDサイズのジャケットを拡大してみたくなりますし、アナログ盤が欲しくなったりもします。

SAIKI:アナログ盤は私も欲しい!(笑)

──実際、このアートワークが先行公開された時点で、いろいろと細部まで分析しようと考えた人たちもいるはずです。

SAIKI:実際そうでした。すごく考察してくださっている方が結構いらして、私自身も「いいね!」と思っていました(笑)。もっともっと深掘りしてみて欲しいですね。

──アルバムに先がけてThe Warningとのコラボ曲である「SHOW THEM」も配信リリースされ、ミュージックビデオも含め話題になっています。この曲に対する反応についてはどう感じていますか? SAIKIさんは普段よりもかなり高いキーで歌っていますが。

SAIKI:そうですね。デモが上がってきた時から「これは(The Warningの)ダニー(ダニエラ)のキーなんだろうな」と思いながら準備していたら、実はダニーのキーでもなかったということが発覚して。ある意味、KANAMIからの挑戦状だったという話ですね(笑)。



──ダニーはダニーで、これはSAIKIさんのキーだと思っていたようですね。つまりこの曲を歌うことはどちらにとっても挑戦だった。そのことが明るみに出てからは「KANAMIさんがドSだということがよくわかりました」といった読者からの反応も目にしてきましたが、KANAMIさん、そのへんについてはどうでしょうか?

KANAMI:違うんですよ。それはSなんじゃなくて、希望なんです。「こんなふうに歌う様子を見てみたい!」というような。

小鳩ミク:それがSなんだっぽ。(笑)

KANAMI:そうなのかな? 自分ではよくわからないんですけど、2人がちょっと苦しそうな感じで歌っているところを思い浮かべて……。余裕をもって歌っている姿というよりも、「この曲で全部出し切らないと!」というようなところを見てみたかったというのがあったんですけど、同時に「まあ大丈夫だろう、あの2人ならば」という気持ちもあったんです(笑)。そして結果、期待していたとおりの、イメージどおりの仕上がりになったので、やっぱり2人ともホントに素晴らしいボーカリストだなって思いました。

──映像を見ていても、ずっと長く活動を共にしてきたバンド同士のように感じられました。The Warningの3人と一緒に過ごした夏というのもいい想い出になりそうですね?

小鳩ミク:暑かったっぽね。一緒にラーメンを食べに行ったりもしましたっぽ。

KANAMI:私はもう、この曲を作り始めたのがいつ頃だったのか、記憶が怪しくなり始めていて。次から次へと作ってきたので、細かいことはすぐに忘れてしまうんです。

AKANE:こちらにとっても新しい感じの楽曲だし、The Warningのみんなも「いいね、新鮮だね」と言ってくれていたので、どちらかに偏ることもなくお互いにとって新しいと思える曲になって、8人全員でお互いを刺激し合いながら化学反応を起こせたというか、これまでになかったものを作り出せたんじゃないかという想いがあります。各パートでバトルをさせてもらったりもしているんですけど、私はもちろんThe Warningのパウ(パウリナ)にとってもツインドラムは初体験だったので、お互いにとって刺激的でしたし、私にとっては他のドラマーの方の演奏にあんなに間近なところで接した経験もこれまでなかったので、すごく刺激を受けました。

MISA:ベースのレコーディングの時、足元のエフェクターについては私のものを使っていて、そういった機材の共有もアレ(アレハンドラ)としたんですよね。私としては国境を越えたベースフレンドができた気がして、すごく嬉しくなりました。


──ミュージックビデオを見ていても、双方のバンドがすごくいい関係にあるのがわかります。ビデオの中では皆さん各パート同士で向き合って演奏していて、果たして小鳩さんはどうなるのかと思いきや、全員に囲まれていましたね。

小鳩ミク:そうですっぽね。小鳩は審判的なポジションというか。最初「このままだと小鳩だけ1人になるっぽ!」と思って(笑)、誰と闘えばいいんだろうって思っていたんですけどっぽ、立ち位置的にもちょうどボーカル2人の間だったので、小鳩は審判を務めればいいんだと思ったんですっぽ。このバトルを見渡しつつ、どんどんそれを盛り上げていきつつ見届けるというか。MV撮影の時は、そういう役割なんだろうなっていう認識でしたっぽね。なおかつこの歌詞自体についても、強い女性像を描きたいというのがあったので、自分自身との闘いでもあるなあと思いながら取り組んでいましたっぽ。

──この曲のMVがアメリカのMTVとか音楽番組で流れているのを見てみたいところです。

小鳩ミク:ホントに見てみたいですっぽ!

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